第365回ナチスによる美術品略奪と取り戻し作戦。他3冊

2016.4.寄稿

元へっぽこ絵描きのヒトラーは、権力を握るや、自分の生地オーストリアリンツを、新しいヨーロッパ文化の中心地とすべくそこへヒトラー自身の設計による「総統美術館」を立てようとした。とは言っても中に展示する美術品はどうするのか。…..で、ヒトラーは対戦中各地で名品を盗みまくった。

このため「リンツ特別班」なるものが組織され、ドレスデン美術館長のハンス・ポッセ博士が絵画収集(とは言え、奪うだけだが)に当たった。一方デブッチョのゲーリングも一丁前に美術好きときたから、はた迷惑なことにヒトラーと張り合って、これまた各地で収奪に力を入れた。それでも、多少はヒトラーに遠慮したと見え、一級品を見つけると、それはヒトラー用にとて「H」印を付け、残りは自分用にと「G」印を付け、特別列車を仕立てて輸送したと言うから厚かましい。しかし、敗戦色が濃くなると、これら美術品を隠すための行動が始まる。でヒトラー自らの指示で、バイエルン のノイシュヴァンシュタイン城にはロスチャイルドらユダヤ人の富豪から奪った、いわゆるユダヤコレクションが隠された。この城は周知のごとく、ワグナーのパトロンだった狂王ルードヴィッヒが建てた城だが、昔この城を観に行った時、現地のガイドは、そうした過去の話は一切しなかった。

もう一箇所、隠し部屋で有名なのはザルツブルグの南部アルト・アウスゼー岩塩坑だ。ここには有名なベルギーの「ゲントの祭壇画」やミケランジェロの「聖母子像」などが隠された。ちなみにザルツブルグとはsalg(塩の)(町)のこと。

さて、当然のことに、これら奪われた「世界の文化」を守るべく連合軍は多大の努力をした。その動きの一つを描いたのがロバート・M・エドセルのノンフィクション「ミケランジェロプロジェクト1 」(角川文庫。私は未読)に基づいて、ジョルジュ

ナチスが略奪した美術品を取り戻すのは、学芸員やら美術商ら7人から成る「モニュメンツ・メン」なるグループ。リーダーはハーバード大学付属館長にして美術史学者のF・ストークス。もちろん、これはG・クルーニー。

とことが、これが意外と面白くない。先に挙げた2箇所が美術品発見の見せ場になるのだが、何故かは知らず、緊迫感に欠ける。思うにG・クルーニーのよく言えば善人風、悪く言えば間抜け面のせいか。あの馬鹿げた映画「オーシャンズ11」の顔つきが邪魔するのか。

それはともかく、アメリカ主体の略奪美術品の捜査を描いたものに、1971年に訳出されたデヴィッド・クロサンとケン・ウォンストール共著の「ヒトラー強盗美術館」(月刊ペン社/520,当時)がある。しかしこのテーマに関して読むべきは、リン・H・ニコラスの「ヨーロッパの略奪ーナチス・ドイツ占領下における美術品の運命ー2 」私の本棚には他に、初のナチス・ドイツ美術史ともいうべき関楠生の「ヒトラーと退廃芸術)(1992/河出)を始めとして、ナチスの絵画略奪作戦の全貌を描いたエクトール・フェリシアーノの本など既に6冊程がある。これら全てまとめてみた感あるのが、全米批評家協会賞受賞のこのニコラスの本。全548ページで上下2段組。にやけたクルーニーの顔も引き締まるような大作だ。

この映画を観た後、蕎麦屋で待つ間、「フライデーを」を覗いたら、このクルーニー、20歳余り年の差の情勢弁護士と、ロンドン近郊バーセットシャーとやらに代々続く地主の家を18億で買って住む予定で、敷地内には図書館(室ではなくて)も映画館もあると。これじゃ緊張した顔にはなれんわな。

市立図書館に入って突き当たり、左の壁に、昭和33年11月3日付けで、図書館新築期成会の宣言文を刻んだ小森忍作の陶版が貼られている。

小森忍(1889・明22〜1962・昭37)。陶芸家、大阪高等学校窯業科卒業。京都市立陶磁器試験場で7年間中国古陶器の「うわぐすり」を研究。1917年(対照)満州鉄道に勤め、上記の研究を続ける。4年後、小森磁器研究所を大連に開設。中国古陶磁の再現品を製作、満州と日本の個展で好評。〜1951年江別市東野幌に北斗窯を開設。北海道の自然と歴史を盛り込んだ製品を多作。北海道陶業の進行に寄与した.1960年北海道文化賞を受賞(北海道大百科事典、下線は山下)。

ところで、ここに落合莞爾の「天才画家『佐伯祐三』真贋事件の真実3 」なる本がある。平成5年秋,遠野在住の女性が佐伯の作品数百点を所蔵していて〜なるニュースがあって、女性の精神科医の父(これは嘘だった)の遺品云々〜で、つまりはこれ贋作だったのだが、この父・吉園周造なる人物を語る箇所に、ナント小森が登場する。その箇所を順不同に引いてみると、「甘粕正彦は古陶磁模倣による満州事変の資金作りを企て、釉薬の天才といわれる小森忍の古陶磁模造をめぐり〜」「〜小森は失意のうちに北海道に渡ったが〜衣食にも苦労するようになり〜」etc.etc.。

この記述の当否、私には分からない....。ないが、小森の人生には何やら影があるのは確かなようだ。因みに模造とは、ニセモノを作ることだ。

熊本の細川護煕お殿様が総理になった時、「官邸は臭い、暗い」と嫌がり、調度品も古いと言い出し...で結果、自分の友達から好きな絵を借りて、今まで掛けてああったのと取り替えたと言う。つまりは勝手な殿様で、私は一つとして善行なしの人と思っていたが、2015年秋にはまれにみる善行をしてくれた。それは何か?それは日本初の春画展を開いてくれたことだ。これには前段階があって、それは2013年10月から2014年1月迄、ロンドンで「SHUNGA」展が大成功を収めたことだ。これを受けて(?)日本でも開こうとの動きが起こると、殿様曰く「それなのに東京国立博物館はじめ国立・私立あわせて約20館から断られたと言うのです。私は”引き受けます”と即答しましたが〜」。

日本では1990年前後から、河出書房新社の「春画シリーズ」、本の友社の「エロティック・アート・ギャラリー」と、各々20巻程のシリーズが無修正で出ていて、これは私も持っている。それが本ならいいが、企画展はダメというのでは理屈に合わぬ。そこで殿様が突破口を開いてくれて、自分の美術館「永青文庫」の「春画展」となり、大成功した。

終わっての殿様の弁がいい。「春画が長く日の目を見ることが出来なかったのはタブーのためではなく、自主規制という網を張り巡らせていたから。日本社会のありようにも通じるものが、よく見えました」。

それで気を良くしていたら、まだまだそんな気の抜けるような世の中ではないぞ、と思わせる本がでた。「エロスとわいせつのあいだ4 」だ。自主規制の網は破れてはいない。

13世紀後半,彼の元寇の乱と同じ時期、我がアイヌがその元と戦っていたって、貴方知ってた?

瀬川拓郎の「アイヌ入門学5 」。目から鱗の段ではない知見に満ちていて、蒙を啓かれること多大。

読んで嬉しく、知って感謝したくなる本だ。素晴らしい。読むべき、読むべし~紙幅がないのが残念。

  1. ロバート・M・エドセル.ミケランジェロプロジェクト.角川文庫(2015) []
  2. リン・H・ニコラス.ヨーロッパの略奪ーナチス・ドイツ占領下における美術品の運命ー.白水社(2002) []
  3. 落合莞爾.天才画家『佐伯祐三』真贋事件の真実.時事通信社(1993) []
  4. 園田寿.エロスとわいせつのあいだ.朝日新書(2016) []
  5. 瀬川拓郎.アイヌ入門学.講談社現代新書(2015) []

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