2016.10.寄稿
「万里の長城」の3割が消失していると判明、との記事が昨2015年7月頃出た。これ「中国長城学会」の調査結果で、その原因は、村の人達が長城のレンガで家を建築するから、市場で買うレンガは1個50元だが、長城から抜き取ったレンガは30元の由、場所は河北省との事。
読んで思ったのは、ローマのコロセウム、いわゆる4階建てで5万人を収容する円形闘技場。西暦80年頃テイトウス帝の命で建てたもの。2度行った事があるが、此処の石材がやはり盗まれて....過去何度か問題になった。
「万里の長城」は説明不要と思うが....紀元前8世紀「斉」が領土防衛のために北辺に築いた長大な城壁。始皇帝が大増築して、結果、総延長2500km、つまり、北海道から九州辺までの長さ。
レンガが抜き取られて呆れていたら,今9月末、今度は東北部の遼寧省の小河口村なるところで、修復作業の名の元、長城上部がコンクリートのようなもので、塗り固められるいう「文化破壊」が起きた。写真で見ると、真ん中の通路がコンクリート詰めされて、さながら防波堤のようになってしまっている。で、英字紙チャイナ・デーリーは「歴史に対する犯罪だ」と指弾した云々。
昔、私が行ったのは「長城の精華」とも言われる北京郊外の観光コースで、誰もが行く「八達嶺」だが、私が一番参ったのは城壁から下を見下ろした時で、高所恐怖症の私としては、とてものこと耐えられない深さだった。階段も中々急で、私は一度で懲りた。此処で私が珍蔵している写真を披露する。謝旺なる人の「ガンバレ」なる一枚 私が往生したその急階段を、マルチン・ルターで元気に登っていく男児の実に面白い写真だ。
ところで、「万里の長城」とくれば、中国人ならば知らぬ者のない「孟姜女」(もうきょうじょ)の話がある。咸陽の百姓・范喜良が長城で強制労働の身となる。妻の孟姜女は、寒冷の地で重労働させられる夫の身を案じて、冬服を用意して訪ねていく。山を越え谷を過ぎの千数百km。しかしたどり着いた時には夫は死んでいた。泣き崩れる孟姜女。すると驚くべし、その声で城壁が崩れ、苦役で死んだ大勢の人骨が現れたので、彼女は指を切って血を注ぐ。すると、夫の骨だけがその血を吸い赤くなり....彼女はその骨を抱いて海に身を投じる。場所は遼東湾に面した山海関。...昔、西安市内で、始皇帝の地下宮殿を再現した「◯◯博物館」に入った所、いきなり、泣き叫ぶ孟姜女の人形が再現してあって、何やら嬉しくなったことを思い出す。観光客が殆ど来ない中国人専用みたいな博物館で日本人が来るのは「珍し」と言われたが、館名は忘れた。と言う訳で長城の本を出す。植村清二(直木三十五の実弟)の「万里の長城1 」(中央文庫)なる名著があるが、是は、政治中心の中国小史で、長城オンリーの本ではない。念の為!
そうだ!! 「万里の長城」と言えば、だいぶ前道内上川管内の下川町で、町おこしのために郊外の「桜ヶ丘公園」を3mの高さ、長さ2000mの石垣で囲み、下川町版「万里の長城」を作るとの計画があったが、あれ完成したのかなそのうち行ってみよう。
キプリングの「ジャングル・ブック2 」が映画化され、8月初旬に封切られたのでもう直ぐDVDになるだろうとワクワクしている所。
主人公の人間モーグリ以外は全てCGだというからすごい.1907年度のノーベル文学賞を受けたラドヤード・キプリング(1865−1936)は正直言って今どんな評価をうけているんだろう。
と言うのは、インドはボンベイで、美術学校の教師や美術館長を務めた父の子として生まれたキップリングは、祖国イギリスの帝国主義に順応した白人優越の立場に疑問を持つこと少ない作家で、その点、大学を出てインドの巡査となった経験から、帝国主義への激しい抵抗者となったジョージ・オーウェルなどと著しく違って、その狭量な国家主義的立場が,後代の識者の反感を買い、結果として「〜一時文豪扱いを受けたが,やがてはなはだしく名声を落とした」と文学辞典に書かれてしまった程だからだ。但し、この文学辞典は、この文章のあとに「しかし、現在短編の技法と文体が論議の的になっている」と加えて、多少キップリングを救ってくれてはいる。私が初めてキップリングを読んだのは16歳のときの「キムーインドの放浪児」(西宮豊逸訳/三笠書房/1952)これはその年、これがエロール・フリン主演で映画化されての出版だったのだろう。この本、みるも哀れな泉貨紙(仙花紙)の本で、文字通り持つと砕けそう...なので、私が今手にするのは「少年キム3 」1997年刊、斉藤兆史の新訳の晶文社版。
その後は「ジャングル・ブック」(吉田甲子太郎訳、これ、最近光文社古典文庫で新訳が出た)「どうしてそんなに物語」(昭和16年改造文庫、これも今は「キプリングのなぜなぜ物語4 」として新訳あり、評論社、昭52刊)etc.と読んできた。と言う訳で、「ジャングル・ブック」の映画化を機会に、貴方がキプリングを好きになるかどうかは知らぬが、今は余り読まれてないことは確かの「キプリングの日本発見5 」なる珍しい(?)本を出しておく。
過ぐる9月24日「第51回ふくろう文庫ワンコイン美術講座」で「大黒舞絵本、他お伽話の話」と題して「御曹司島渡り」(義経の話)や「物ぐさ太郎」についてしゃべったが、その時「日本昔話の裏話6 」に触れなかった。これは例えば「物ぐさ太郎」が未だに地元の人には忘れられず、銅像やら神社やらが残っている様をルポした面白い本だ。他に桃太郎、浦島太郎、舌切り雀と、懐かしい話が現実味を帯びて現存している様子が分かって、驚かされる。「安寿と厨子王」の銅像なぞ見ているだけで泣けてきそうだ。