第402回(ひまわりNO218)安倍晋三大研究.歴史線と思想線.検閲という空気

2019.8.10寄稿

先の参院選で自民党は9議席を減らした。これで公明と維新を合わせた改憲勢力は改憲の発議に必要な2/3を割った。アメリカのワシントン・ポスト紙もニューヨーク・タイムスも中国の新京報も皆同じく(と言うのは当たり前だが)自民党の負けを報じた。

改めて言うが、国内各紙も外国紙と同様報道した。しかるに安倍はこの結果を無視して、あたかも「国民は私の改憲の意思を認めてくれた」とする発言を続けている。つまり嘘を重ね続けている。こうした安倍のふざけた態度に、流石の公明党も業(ごう)を煮やしたのか、8月に入って山口那津男が、先述の通り参院選で改憲の民意は得られたと嘘の主張をする安倍に対して「選挙で何の民意が得られたのかさっぱりわからない」と述べ、慎重に議論すべきとする考えを示し、更に「合意をつくりながら議論を進めていく努力が与党、特に自民党に必要だ」と指摘した。盟友(の筈)の安倍はこの山口の発言をどう受け止めるか。それにしても安倍はトランプと並んで嘘をつきすぎる。アメリカの報道ではファクト・チェック(事実か否かの確認)で、トランプはすでに1万回に達する嘘をついていると出たが、安倍もこの点に関してはいい勝負だ…さて、ここに「安倍はなぜ嘘をつくのか?」をテーマにした本が出た。かつて菅官房長官を鋭い質問でキリキリ舞いさせた望月衣塑子と写真家佐々木芳朗による本だ。

「安倍晋三大研究1

中で安倍の乳母だった久保ウメからの聞き取りを元にして、ジャーナリストの野上忠興は、平然と嘘をつく安倍の本質は「自己愛」で、その結果「自己防衛本能」が強く、虚言が多くなったとする。又中で望月と対談する思想家内田樹は安倍の「とにかく非をを認めるのが嫌いだ」という頑なさは常軌を逸しているとして、「人格的な脆弱性においてここまで未成熟な偽政者はこれまで戦後日本にはいたことがない」とする。そして、安倍は「どうすれば人の弱みにつけこんで操縦できるかということについては確かな知識と技術を持っている」として、その結果「自分におもねって来る人間はただちに抜擢し、自分に逆らうものはただちに左遷する」とする。これはうなずける。つまり「信賞必罰」がはっきりしているから、ベンチャラ型、忖度型の人間にとっては安倍の下にいるのは天国なのだ。これが安倍人気の元なのだろう。正しくは「人心(じんしん)惟れ危うく、道心(どうしん)惟れ微(び)なり=人の心は欲望に動かされて〜道徳はかすかで〜(書経)だ安倍に心服している人も、嫌いな人も手に取って欲しい本だ。

目下、名古屋で妙な事が起きている。「表現の不自由展・その後」の中止だ。中止に追い込んだのは名古屋市長の河村隆。この河村はかつて「南京大虐殺」を否定する発言をし、又従軍慰安婦問題は事実ではなかった可能性がある」とする男だ。こうした問題、例えば前者の「南京大虐殺」については、笠原十九司の「増補・南京事件論争史」(平凡社ライブラリーNO876, 2018年刊、¥1,500)などを読めば並みの知性の持ち主なれば,これをなかった事にするのは無理な話で、現にこれは歴史学的には決着がついている問題なのだが、それが例えば河村のような人間にとってはそうではない。日本維新の会代表で大阪市長の松井一郎までが展覧会中止に便乗して「慰安婦問題は完全なデマ」と言いだしてきた。こうした発言を知るたびに、この人たちは何故かくも無知なんだろう、あるいは間違った知識に犯されているんだろうと思ってしまうが、こういう人達に是非読んで欲しい本がある。山崎雅弘の「歴史線と思想線ー歴史問題の読み解き方ー2 」だテーマは先の河村や松井の言に真正面から答える熊(てい)のもので、帯にも「”従軍慰安婦はいなかった”南京大虐殺はなかった””GHQが日本人を洗脳した”」〜「それってほんとうなの?」とある。そして推薦しているのは、先述した安倍の嘘つきの理由を解いた内田樹と、問題の展覧会「不自由展」の芸術監督の津田大介、(と言っても、この本が出たのは問題以前なのだけどね。)この本、帯にあげられた問題他を色々解いてくれるが、私が知って呆れたものにケント・ギルバートの事がある。私は日頃、このアメリカ人弁護士が何故にこんなにもトンデモ本ばかり矢継ぎ早に出せるのだろうと思っていたら、ナンノコトハナイ、日本人スタッフが渡す資料によって、ギルバートが口述筆記しているというのだ。他にも「HANADA」「Will」「正論」といった雑誌に発表された論がどれだけインチキかは、この本でよくわかる。まあ河村、松井と同じ考えの持ち主は、本書を熟読してくだされ!!「あんな本・こんな本」バックナンバーはhttp://t-yamashita.info/ を見てください。

さて、中止に追い込まれた「表現の不自由展」はどんなものだったのかーは中止で図録も入手できないだろうからー想像するしかないようだが、それを想像するにヒントを与えてくれるかも知れぬ本を此処に出す。アライ=ヒロユキの「検閲という空気3 」がそれ。

アライ=ヒロユキは同展の実行委員の一人で、先日愛知県知事に公開質問状を出した。アライ=ヒロユキは言う。「今回の事件は、日本の検閲史上まれに見る言論の規制であり、弾圧事件だと思う」と。このアライ=ヒロユキの本の第3章が「美術に見る表現とその自由の歪められ方」で、「地域住民を無視した自治体の芸術エゴ」他4編が収められているが、3番目の「美術作家が語る美術館の自由のいま」などが今回の事件の参考になると思われる。

さて、最後は「朝鮮通信史」の話。このテーマは何年も前から「ふくろうワンコイン美術講座」で取り上げようと思っていたが、肝心の通信史の絵巻が入手できない。それが今回、秋田の建築家西方夫妻の寄付でようやく入手できた。「朝鮮通信使絵図集成」がそれ。私が朝鮮通信使を知ったのは、昭和51年(1976)年に李進煕(りじんひ)の「季朝の通信史」を読んでだ。その後色々読んできた.2000年には昔の百済の各地を1週間程かけて歩いてきた。思うことは色々ある。昔は通信史のことを話しても知る人は少なく、大学生でも「ツー・ツー・トン」ですかと聞くのもいた。モールス信号じゃあるまいし。「信(よしみ=誠を通わす」が本当の意味.2007年(平成19年)12月9日付「本の話」第485回では通信史が「日本第一景勝」と称えた「鞆の浦」にバイパス道路が計画されそうになったので、「秀麗な景色が危ない」と書いた今の日本と韓国には「信(よしみ=誠)」が失われているようだ。嘆かわしい。ともあれ、9月28日の(第4土)に「ワンコイン」で「朝鮮通信史」をやる。きて下され!!

  1. 望月衣塑子・佐々木芳朗.安倍晋三大研究.KKベストセラーズ(2019) []
  2. 山崎雅弘.歴史線と思想線ー歴史問題の読み解き方ー.集英社新書(2019) []
  3. アライ=ヒロユキ.検閲という空気.社会評論社(2018) []

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