司書独言(186)

◯月◯日 伊達のピザ屋に時々行っていたが、どうした訳か私が一番好きな辛味のものがメニューから消えた。

辛過ぎて一般的に受けなかったのか?。それはともかく、インド映画の「ピザ」を観て呆れに呆れた。これインドのスラム街に住む兄弟がピザを食べたいが為に小銭集めに励んで、という筋だが、そのピザが家族の1ヶ月の生活費よりも高いのだ。それでも目標額を集めてピザ屋に行くと、ここで事件の幕が開いて....という訳だが、その貧困や格差の問題が度外れていて、例えばこの兄弟、栄養補給にカラスの巣から卵を失敬して飲む。しかしまあ、一番あきれるのはこの国に原発を売りに行く男と、それを買う男。呆れて物も言えない。

◯月◯日 「ピザ」の後韓国映画「弁護人」を観た。若き日のノムヒョン元大統領がモデルだと言うが、金儲けに熱中している高卒出の(と言うことは学歴ナシと見做される)弁護士が、通っていた食堂の息子が突然警察にしょっ引かれたことから「国家保安部」を相手に、この息子とその友達救うべく闘わざるを得なくなると言う話。息子たちは夜学の生徒で、お互いの小遣いを貯めて買った本の輪読会を開いているだけなのだが、北朝鮮の勢力拡大を恐れる保安部は、これを「共謀罪」と見做して「国家転覆」にデッチあげる。保安部の刑事が言う。「自分は13年間この仕事をやっている。犯人を見れば直ぐ分かる」。

◯月◯日 ところで6月14日「共謀罪」が強行成立された。これを受けて片山ナントカ(所属は知らず、角ばった顔の男)が「日本の官憲はまじめで張り切るから、その辺が一寸ね」と言う何が罪になるのかを決めるのは官憲だということを国民が危惧しているのにこの言葉。「弁護人」でも「見れば分かる」と豪語する男の保安警察官が、ありもしない罪をデッチ上げる。この映画「共謀罪」のこれからの姿を示唆する物だ。観るべし。今月号の「あんな本・こんな本」に書いた「横浜事件」も元はと言えば単なる慰労会を兼ねた出版記念の集まりだったそれを時の官憲が治安を乱すものと見做して「治安維持法で」引っ掛けた訳だ。「弁護人」の筋立てと実によく似ている。

◯月◯日 「紙おむつ製造機」なるものがどんなものか想像もつかぬが、その業界で国内トップの役8割のシェアを占める東証2部上場の「端光」なる会社に、6年間にわっって9億もの申告漏れがあったとて、大阪国税局が調査したと5月末の新聞に出ている。漏れては困る「紙おむつ」の会社の申告漏れとは聞くだに気色悪い。

◯月◯日 最新刊の「精神医療の危機」(やどかり出版)によると、日本には精神科の病床が35万床あり、世界中の精神科病床の2割に当たる由。しかもその内の9割が民間病床、1年間に20万人入院、もひとつ、しかも、最近では認知症の人の入院が促進されていると。

◯月◯日 私が大学生になったのは昭和30年代前半だが、神保町の角で初めて拾ったタクシーの車種はフランスのルノーだった。そのルノーの株主総会(6/15日)で、最高経営責任者のカルロス・ゴーンの昨年の報酬を8億6,500万円と決めた由。先程「呆れてものも言えない」と書いたが、これもその類の話だね。

◯月◯日 浅田次郎が会長を務める「日本ペンクラブ」が「共謀罪強行採決に抗議する」との声明を出した。6月17日のこと。同じ日に「自由と生命を守る映画監督の会」も「共謀罪は内心の自由、思想の自由ひいては表現の自由を侵害するということであって、明確な憲法違反」云々の抗議声明を出した。当然だ。因みに大分前、田中裕子が西太后役の映画(蒼穹の昴だったか)を面白く観たが、原作の浅田は目下「天子蒙塵」で頑張っている。その浅田は中学生の頃、既に東洋史学者の宮崎市定を読んでいたそうで、個人全集を買ったのも文学者のものではなく宮崎の全集だったというから感心する。私は中央文庫の宮崎は全部読んでいるが、今になってみると全集の方が良かったかなと思わぬでもない。もっとも私の中学時代、宮崎の本は未だなかった。

◯月◯日 室蘭市内を走っていて不思議でならぬのは、人口が減っているというのに、次から次とマンションorアパートが建つこと。古いマンションが嫌になって新しいところへ移り、古い方が空き家になっているだけのことかと思うがな。ところで「老いる家、崩れる街」(講談社現代新書)を出した東洋大学建築学科の野沢千恵、日本総合研究所員の藻谷浩介の、「空き家大国ニッポンの現実」なる対談を読んでいたら、「空き家が大量に生み出される最大の要因は都市計画の欠陥にあり」とある。そして問題だと思われる都市として夕張、帯広、苫小牧が上がってきて、ウヒッ次は室蘭かと思ったら、苫小牧で止まったのでホッとした。

◯月◯日 その苫小牧、2010年代に入っての市の東側(つまり沼の端地区)の大区画整理で、イオンが出来て市街地を広げたはいいが、駅前の4つの大型店は全部潰れた、とやられている。これはもう我々が身にしみて知っていることだが、岩倉市長はその沼の端の隣の工業団地になる筈だったが失敗した野っ原にカジノを持って来ようとしている訳だ。大丈夫かね。

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