司書独言(202)

◯月◯日/ 2018年の「今年の漢字」に「災」が選ばれた.2004年に続いて2回目の登場というが、こんな字が2度もとは情けない国柄だ。自然災害は言わずもがなだが、人災も多かった。先の地震の際の厚真一帯のブラックアウトもその一つと指摘されているのは読者もご存知の通り。ところで札幌手稲区の「区民の会」では今年の漢字に「嘘」が選ばれた由。私ならこっちの方に共感するね。

◯月◯日/ 「嘘」と言えば「論語」学者の加地伸行が鳩山由起夫を名指しで「約束したのに守らない、嘘をつくという事が問題なのである」と非難している。鳩山は昨年室蘭で講演していったが、私の見るところ鳩山は理想に過ぎて失敗したのであって、それは嘘ついた訳ではなかろう。私は鳩山に関心もないし庇う気も毛頭ないが、「嘘」と断ずるのは一寸的外れではないかと思う。

◯月◯日/ 「嘘」は事実でない事。又人をだますために事実と違う事を言う事(学研新国語)だ。そこで上記の手稲区の話に戻ると、区民らは「嘘」の字に並べて「アベのうそ」をボードに6個びっしり書いたという。今では「嘘」と聞いて安倍、麻生。片山らを連想するのがむしろ普通で、それはこの連中の語ることが連想ではなくて「偽にする」言葉であるからだ。理想を語って失敗した鳩山も困った御仁だが「論語」の孔子とて理想を説いてこけた組みではなかったのか。そう言えば新聞の冗談欄に「嘘つきは首相のはじまり」なる投書があったな。

◯月◯日/ 年中地中温度が摂氏0度以下で常に凍結している土地を永久凍土というと思っていたら、12月上旬の新聞にそれが融けてどでかい平屋が半分沈下したとのアラスカの写真が出てびっくりした。いずれシベリア、カナダ、グリーンランドの数百万人の生活に危機が及ぶ由。(今日は12月16日)勿論地球温暖化のせいだが、目下ポーランドのカトウィツエで開催中の国連気候変動の会議でナント当のポーランドが”化石賞”を受けた。調べてみたらこのKatowiceの語源は「カトー族」でiceは貴族の称号だと。此処のところシロンスク=(シレンジア)地方の重工業の中心地で、今も石炭産業が盛んと分かって納得した。

◯月◯日/ この地球温暖化を理解せぬ筆頭はトランプだが、愚物、先日マクロンのナントカ式典に招かれたはいいが、帰国してからの感想が「軍事パレードが素晴らしかった。我が国でも取り入れて派手にやろう」だったとて、哲学者の浅田彰が「救いがたい」と評した。トランプとこれに連なる安倍はもはや人災の部類だね。もっとも今や世界の政界を見るに「人災的」人間ばかりがリーダーとなっていて、これでは「国難」通り越して「世界難」だね。「災」を揮毫した清水寺の森清範貫主とやらも「人災のないような来年を切に祈念したい」などと」呑気なこと言っていないで、相国寺の有馬貫主みたいに「人災」的な安倍にちっとは説教たれてもいいのでは!

◯月◯日/ 私の本好きは4歳頃の幼稚園で見たキンダーブックに始まると自分で思っているが、不思議な事に小中高大と周りに何人か本好きはいたものの漫画,劇画を読む人は一人もいなかった。それが室工大在任中は「少年ジャンプ」全盛の上、我が家に来る本格的な読者家に混じっていつしか専ら漫画、劇画を読む(見る)学生が現れるようになった。雁屋晢の「美味しんぼ”鼻血問題"答える」(遊幻社)なんて本を読んだのも彼らの影響だ。だから「あしたのジョー」も知っている。南千住の貧困地域に住む不良の孤児がボクシングで王者へとのぼりつめていく話だ。

◯月◯日/この話の舞台、南千住の泪橋が未だに最貧困地との記事が去年6月中旬に出た。年収200万円未満の地域ワースト30よりもまだ低い地域だという。近くの山谷の簡易宿泊所で2畳の部屋で一泊1,400円で、そこは生活保護者を対象とする部屋の由。この話を思い出したのは12月に入って厚生労働省が、生活困窮者が利用する「無料定額宿泊所」いわゆる「無底」の基準を定める検討会を始めたと報道されたからだ。

◯月◯日/ この「無底」、今全国で537施設あり,15,000人の生活保護者が利用している由。問題は一つの部屋をベニヤで仕切る簡易個室が多く、なのに生活保護費の殆どを天引きする「貧困ビジネス」が多いという事実。しかも厚労省がこの「簡易個室」を容認する態度を見せている由。「あしたのジョー」の原作者梶原一騎や画を描いたちばてつやはこの問題をどううけとるだろうか。

◯月◯日/ 2018年のノーベル平和賞はアフリカのコンゴ(旧ザイール)で性暴力被害者の救済に取り組むデニ•ムクウエゲ医師と2014年にイラク北部で過激派組織ISに家族を殺された上、自身は「性奴隷」とされたナディア・ムラド女に与えられた。ムラド女はイラクの少数派ヤジディ教徒で今は人権活動家。ムラド女はノーベル賞の賞金を、自分と同じく性的暴力を受けた女性たちを治療するための病院を建てるのに使うと発表した。これを知って私は彼女の自伝「The  Last  Girl」東洋館出版社¥1,800を買いに本屋へ行った。この書名は、性的暴力を受けるのは「私で最後にして欲しい」との意味を含んでいる。

◯月◯日/ 本屋で見つけたはいいが隣に百田尚樹の本が積んでああって気分が滅入った。書名をあげる気にもならぬ、と言うのは例によって例のごとく、真っ当な歴史学者達によって完全に否定された学説とは言えぬ妄言ばかりを羅列する、つまりは読むに値せぬ本だからだ。思うに百田なる人物は、自分が書いていることの正否は本当はどうでもよくて、目指すは、自分の生存中は権力者に阿り続けて、その結果金を得、現世で楽をすりゃいいというだけの金の亡者的人間なんだろう。アジア太平洋戦争で無駄死にした兵士達の真相を記した吉田裕「日本軍兵士)(中央公論新書)を読んだものならば,百田一派の掲げる国史観が如何に嘘にまみれた説であるかは承知の筈だ。百田の本を買うことで、百田とその出版社を儲けさせ、挙句自ら歴史音痴になるなどの愚を犯すべきではない。それにしても志の高いムラド女の本の隣に志低劣な百田の本を並べるなど恥ずかしいことを本屋もしてくれるものだ。

◯月◯日/ 金の亡者と言えばゴーン。マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」は三笠文庫8冊で出た。映画も観た。原題は「Gone  with  the  wind」だ。これにならってゴーンも「Gone with the ゴーン」とタッタと出ていって欲しいものだ。もっともその前に首を切った4万人に補償してからだが。

◯月◯日/ 「住んでみたい所」で函館が一番となったと新聞が発表、但し、「住んでる人たちの満足度」となると、何10位だったか、とにかく下の下。ところで白鳥台のスーパーが12月一杯で消える。ずっと予想されたいた事だ。コンパクトシティなんて横文字並べたって、結局はドーナッツの穴の部分が埋まるだけで肝心の丸い輪の部分がスカスカになるという事だ1万人目指してのニュータウン構想で始まった白鳥台。元市長が2人も住んで、市役所のOBも多い。それが6,000人弱の年寄りだらけの町になっちゃって、ー施設が古くなると壊して引き上げるーの連続じゃ、生活不便になって、新しく来る人は減るばかりだ。どうするつもりだろうねー。

◯月◯日/ ふくろう文庫ワンコイン美術講座もあと2回で60回達成となる。人の知らない画家を取り上げて知る喜びを味わってもらうべく意図して、”知られざる画家”を取り上げて来た。そも気持ちを分かって聴きに来てくれるとありがたい。次は鏑木清方、平福百穂らと「金鈴社」で鳴らした吉川霊華をとりあげる、乞、ご期待。

 

 

第394回(ひまわりno210)「レバノン杉のたどった道」「海を渡る蝶」「権力と新聞の大問題」「右翼の戦後史」

2018.12.8寄稿

紀元前3,000年シュメール人による都市国家を中心に栄えた文明をメソポタミア分文明と言うが、その文明で生まれたものの一つに「ギルガメシュ叙情詩」(邦訳あり)があって、その中に「彼らは山から下りて来て香柏(こうはく)を切り倒した」なる箇所がある。 続きを読む 第394回(ひまわりno210)「レバノン杉のたどった道」「海を渡る蝶」「権力と新聞の大問題」「右翼の戦後史」