第019回 蔵書票=書票の魅力 

`92.9.17寄稿

右の図は私が中学生の時、市内で老舗(=しにせ=古い)の本屋であった最上谷(もがみや)の次男坊、アキちゃんが、本好きの私のために彫ってくれ蔵書印です。


F.B.Lとあるのは、フランスとベルギーの文学(=Literature)の意味で、数字はその分野で44冊目の本ということです。

僅かな蔵書に、既に図書分求めていたものを施して、蔵書印を押して楽しんでいた中学生の自分を、今司書となっている身から見ると、幼くして「その気」があったのだなあ、と我ながら微笑ましくなります。

私事はともかく、日本では、このように自分の本には蔵書印を押します。世界に誇る和紙があり、朱肉をもつ日本では蔵書印も含めて、「印章文化」とも言うべきものが、発達したのです。

蔵書印の中には、所蔵者の氏名だけでなく、その人の本に対する思いを文章にしていれた面白いものもあります。

例えば,本草学(ほんぞうがく=今で言う博物学)で有名な、阿部礫斎(れきさい)の蔵書印は「またがしはいや、阿べ喜任」でした。

作品「濹東綺譚(ぼくとうきだん)が映画化されて、最近、若い人の間にも名の知れた永井荷風(ながいかふう)は、「蔵書は売却スベし、図書館には寄付スベカラズ」と言いましたが、同じような考え方を盛り込んだ「わが亡きあとは売って米買え」という蔵書印を作った人も居るそうです。但し、古本屋が良い価格で買ってくれるかどうかは、又別問題ですが。もう一つ、若州(じゃくしゅう=福井)小浜、酒井藩士、伴信友の印

「コノフミ カリテ ミム ヒト アラムニハ ヨミハテテ トク カエシタマヘヤ」

“ 借りて読むなら、読んだあとは、直ぐ返して下さいよ”...仲仲本を返して呉れない人に対する蔵書家のいらだちが、如実(にょじつ=そのまま)に出ていて、“いやわかるなあ”というところです。

「書物の楽園1



蔵書印を使う日本に対して、西洋では左図のような「蔵書票=エクス.リブリス・Ex.LIBRIS」を使います。「Ex. LIBRIS」とはラテン語で「from the books of  ○○○○蔵書」と言うことです。

「蔵書票」は今では「書票しょひょう」という語に統一されて、各種辞典にも採用されている言葉です。「書票」は自分で作って自分の本に貼って楽しめばいい訳ですが、専門家に頼んで作ってもらう人もいるわけで、後者のものは版画として、それ自体美術的価値を有しますから、世界各国にこれを蒐める人がいます。この人達は蒐めた書票を交換したりして楽しんでいるのですが、この九月初旬に、その人達が集まって、「第24回世界書票大会」が東洋で始めて札幌で行われ、それを記念して「世界書票作家展」が開かれて見事な書票が並びました。

然し、それらの多くは実際に本に貼る実用的な書票と違って、版画、その他を専門とする人達の作品=美術品=鑑賞品ですから、万人が手を出せる程には安価なものではない...と言う点が残念なことです。

それはともあれ、「書票」の楽しみ方を、格調高く、それでいてわかり易く説いた本が出ました。樋田直人「蔵書票の魅力2 」です。「書票」を既に知っている人、初めて知る人、双方が共に楽しめるいいほんです。


  1. 庄司浅水.書物の楽園.桃源社(1966) []
  2. 樋田直人.蔵書票の魅力.丸善ライブラリー(1992) []

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