山下敏明さんのあんな本、こんな本

第110回 読書三昧

飛び石連休は如何だったでしょうか?私は読書三昧(ざんまい=自分の気の向くことだけをする様子)でしたので、今回は読み終えたものの中から、順不同に、2、3点紹介しましょう。

◎宮下志朗 「エラスムスはブルゴーニュワインがお好きールネサンスつもる話ー」①1

今中町にある丸井デパートは、その昔(現中央町、プリンスホテル所在地)にあった。2階の踊り場の壁には、いつも「アテナインク」の大きなポスターがはってあった。頭巾をかぶった鼻の高い(と言うよりも長い)男が、鷲ペンを握っているという図柄である。子供心に誰だろうと、気になっていたが今になって、フランス文学者、渡辺一夫の本を読んで、これが、ホルバイン描くところの人文主義者=ヒューマニストのエラスムス像であるとわかった。頭巾姿でいるのは、彼の頭がひどい絶壁頭で、それをかくすため、と、これもあとになって「頭骨の歴史」なる珍らしいほんで知った。

このエラスムスが、アペリテイフとしてブルゴーニュワインが大好きだったと言う。但し、この場のアペリテイフは食前酒にあらず、下剤としてであって、事実エラスムスは、尿道を開いて結石を出すために飲んだ、という。と言うのも、アペリテイフ源義(=本来の意味)は、「通じをよくする/利尿/発汗をうながす」と言うものだそうな。又「遺言詩集」で名高い不良詩人のフランソワ、ヴィヨン、あの縛り首になりかけたヴィヨンの時代の縛首台と言うものは、その柱の数が支配者のランクで異なり、数が多い程上位と言う訳で、国王管轄の縛首台は、ナント16本の柱で出来ていた由。てな話が満載のこの本、「面白く真面目な話」を、目指した著者の心意気が見事に達成されていて、イヤ面白い、、、面白い。因に著者は、「本の都市、リヨン」(’89 晶文社)で「大佛次郎賞」を受けた人。この著者の最新作「ラブレー周遊記」(岩波書店)が私のところに届いたばかりだ。③2

◎杉田英明 「日本人の中東発見」②3

もっぱらイカガワシことが行われる場所に、「トルコ風呂」なる名を付けるのは国辱(こくじょく=その国の体面を傷つける)物だと抗議を受けて、その場所が「ソープランド」と名を変えたのは、何年前だったか?このことは、「ハンマーム」と呼ばれる中東の浴場が、完全に男女を分離していることからすればまこと、トルコ人にとっては腹立たしいことだったに違いない。(因みにヨーロッパには、銭湯なるものは出来ない)とは言うものの、トルコ人は日露戦争で、ロシアに勝った日本に対しては親愛の念強く、トルコの女流作家ハリデ、エデイプ、アドウヴァルなどは自分の次男にトーゴーと名付けたと言う。東郷平八郎ひきいる海軍が無敵をほこったロシアのバルチック艦隊を破ったことで、露土(ロシア/トルコ)戦争敗北以来「反露感情」をいだき続けたトルコ人の溜飲(りゅういん)が下がった(=胸がすいた)と言うことなのだろう。

ところで、我々はトルコについて何を知っているだろう。ヨーグルト、ターバン、チューリップがトルコ語起源だと、何人が知っているだろう。トルコばかりではない、西はモロッコから東はアフガニスタンまで、北はトルコ、キプロスから南はアラビア半島に至るまでの、いわゆるイスラム世界=中東について、語る辺機何をもっているだろう。本書はその中東について、古代、中世から近代までの日本との関わりを、文化面から跡づけたものである。夥しい(夥しい)引用に満ちて、一見難しげに見えるが、面白いこと、このうえないノンフィクションである。第1回「地中海学会ヘレンド賞」に選ばれたのも、無理はない。落語の「らくだ」もアラビアに由来するのだぞう!!

◎横山厚夫「山書の森へ」④4

高校1年の時、兄に連れられて登った樽前山(支笏湖畔)が、私の登山の初体験だ。登山靴も、ウインドウヤッケもへちまもない。詰襟の学制服に、ゲートルそしてタカジョウ(=地下足袋)という身じたくだった。最後の登山は、20年余も前の徳舜瞥岳(伊達、長流川上流)で、室蘭工業大学のワンダーフォーゲル部と一緒だった。最後と言うのは、昭和47年に推間板ヘルニアを患って、登山どころではなくなったからだ。

※ 徳舜瞥=tukushish−un−pet=あめます、いる、川

※ 長流川=o−san−pet=川尻に、葭原(がある)、川 アイヌ語

結局、登山そのものは大して好きになれなかったが、道内の目星い山を体験出来たことでは、兄に感謝している。登山の本を読んだのも兄のお陰で、中学生の時に、兄の本棚にあった田部重治の「山と渓谷」(角川文庫版)が初めてだ。因みにこの本’93年に「新編」と上について、近藤信行の解説がついたのが、岩波文庫には入った。英文学者、田部の「小泉八雲」を読んだのは、英文科生になってからのことだった。さて、横山の本は、「山登りするなら、山の本を読んでいた方が、もっと楽しくなる」との信念を持つ著者が、昨今は、中高年者の登山ブームなのに、山の本がさっぱり売れぬ現状を憂いて、山にいくなら、もっと山の本を読もうと、山の本のあれこれを語ったものである。語り口がさわやかで、山を舞台にした映画にも話が及んだりするからちっとも退屈しない。山登りせぬ読書人も、並べられた書名をみると、食指が動く。、、、のは間違いない。⑤5


  1. 宮下志朗.エラスムスはブルゴーニュワインがお好きールネサンスつもる話.白水社(1996) []
  2. 宮下志朗.ラブレー周遊記.岩波書店(1997) []
  3. 杉田英明.日本人の中東発見.東京大学出版界(1995) []
  4. 横山厚夫.山書の森へ.山と溪谷社 (1997) []
  5. 田部重治.新編山と渓谷.岩波文庫(1993) []

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