第053回 地方の美術愛好家にとって図録はありがたい

`94.6月15日(水)寄稿

この「あんな本、こんな本」の(21)で、私は画家「蕗谷虹児」(ふきやこうじ)の自叙伝「海鳴り」詩画集「花嫁人形」「ベトイユの風景」を取り上げ、最後を次のように結びました。「文豪、魯迅(ろじん1881-1936)は、中国の近代文学のみならず、近代美術の生みの親でもありますが、彼は木刻(木版画)を通して、美術の振興をはかりました。その際注目した作家の一人が虹児でした。

虹児野作品を愛した魯迅は、自ら翻訳の筆を取り、虹児の作品を中国に紹介します」云々。

続いて(26)では、1987年、長野に旅行中に観た「ケーテ・コルヴィッツ」展を枕に、彼女の「版画集、愛と怒り」と「日記」を紹介し、ついでに「日記」の訳者である「鈴木東民(とうみん)」の反骨の生涯に触れました。

このドイツの版画家、ケーテ・コルヴィッツを最初に中国に紹介したのは、やはり魯迅んで、それはケーテの「犠牲」と題する作品でした。

さて山梨県立美術館で5月21日から、6月26日まで「1930年代上海、魯迅」展が開かれています。

観に行きたいのは山々ですが、そうもいかず、かわりに図録を注文しました。それが今日届きました。実に趣きの良い、図録らしくない(と言うと変ですが)図録です。

中国で、1930年代に制作された作品を中心に、やく240点余りの版画が収められていて、そのどれもが力に満ちて、観るものの心をうちます。

木版画を「革命の武器」と見なした魯迅の考えが、正しかったとわかると言うもので、誠に見応えがあります。解説や、年譜も、文献目録も、言う所なしの行き届いた一冊です。

これに触発されて、私は本棚から「魯迅と木刻」を出して来て再読しました。

魯迅誕生百年を記念して、1981年に出たなつかしい本です。

著者、内山嘉吉は、上海で内山書店を開いて、魯迅と親しかった完造の弟で、中国に遊んだ時、はからずも魯迅に乞われて、中国の青年たちに版画の作り方を教えることになったのですが、そのいきさつを回想した文章と、魯迅の木刻運動の研究家、奈良の研究を収めたのが本書です。「魯迅と木刻1

内容はもとより、非常に品の良い美しい本で、私はこの本の函の色(緋色)までが好きです。

さて、話しは変わりますが、最初に挙げた図録を入手するために、私は先ず美術館に電話して、図録が出ているかどうかを確かめました。刊行されていると分かったあとで要した費用は次の如しです。

 

カタログ(図録)        ¥2,500

送料              ¥ 380

梱包袋代            ¥ 160

現金封筒            ¥   20

送金料             ¥ 510

計         ¥ 3,570

¥2,500の図録を手にするのに合計3,570と電話代がかかります。安いとは言えません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで左記に揚げたのは2年前に「北海道新聞」の「地域から,意見、異見」欄のメンバーとして私が書いたものですが、ここで述べた嘆きは,今にいたるも変わりません。

生意気な様ですが,地方在住の一美術愛好家の願いを,道内のみならず,各地の美術館関係の人に,知ってもらいたいものと,つくずく思います。

* つけたし....今は知らず,戦前、天津とか上海と言った,外国人の居留地である共同租界(そかい=中国の開港都市において,外国人がその居留地の警察、行政を管理する組織及びその地域=広辞苑)ではジャズが盛んに演奏されていた様です。

そんな時代を思い出させるような,オールドスタイルの演奏を録音した珍しいカセットがあります。「上海星屑」がそれです。

魯迅や完造が活躍していた時代をしのばせてくれるのに、いささかの助けになるかもしれませんノスタルジックで心から楽しくなります。星屑とは名曲「スターダスト」です。それはそうに違いありませんが,何やら愉快になりませんか。


  1. 内山嘉吉.奈良和夫.魯迅と木刻,研文出版(1981) []

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