山下敏明さんのあんな本、こんな本

第085回 読書のとっかかり

室蘭と登別両市の6万5千戸に配られる「ホーム・ポスト」と言う情報紙があります。イベント、売り出し、商店の動向、町会のうごき、物件(動産、不動産)の紹介等、市民の生活に欠くべからざる情報が満載されているまことに重宝(ちょうほう)な情報紙です。

私も、乞われて一文を物しましたが、幸い好評なので、ここに再録いたしました。

山下敏明

新年を迎えると、今年こそは日記をつけようと意気込んでも、三日坊主で終わる人が大半です。読書もそうで、昨年は無為に過ごした、今年は少しでも本を読もうと志しても、これは三日坊主どころか、始めから何を読んでいいのか分からないと言う人がたくさんいます。いささかは本を読んできた身として、私は、こうした嘆きを聞く度に、読書への取っ掛かりはどこにでもあるのになあ、と不思議です。例えば、今年は十二支の最初の子年です。ここで、干支(えと)って何だ、なんで子(ね)が最初に来るの、と疑問を持って、ちょっぴりでも知りたいと思ったとします。それには阿部禎「干支の動物誌」と言う上出来の本が答えになります。

家ネズミは元来、日本にいなかった帰化獣です。と言った十二支の動物にまつわる話題が豊富で面白く、一挙に読了するのが惜しくて、一層のこと、各年一つずつ読むことにしようかとさえ思う程です。さて、今日は元旦、誰もが雑煮を食べたことでしょう。ここでまた、日本人が正月に餅を食べるのは何故か、との疑問が湧いたとします。するとあつらえ向きに、古川瑞昌が二十年かけた労作「餅の博物誌」が待っています。史上、餅の記事が見える最初は、寛平二年(890)だ、など、餅に関する事柄を網羅して、日本人と餅との関係を語った最良の本です。

ここで、口をはさむ人がいるかも知れません。忘年会で上役と口喧嘩して、馬鹿呼ばわれされた、腹が立つ、餅もへちまもあるかと。そうですか馬鹿といわれたのですか。どうせののしるなら、私は郷土色豊に、このタクランケと言いたいですが、まあ、そういつまでも怒っていずに、松本修「全国アホバカ分布考」を読んでみませんか。バカとアホとはどう違うのか、誰が何処で使い始めたのか、ハンカクサイは北海道弁なのか、等の謎が、次第に明かになってくるに連れ、上役の馬鹿面など記憶の彼方へ消えていく筈です。

でもまだ口を出す人がいたとします。時もあろうに、この目出たい元日の朝、長年連添った女が、起きがけに私の面前で、気の抜けた屁をひった。亭主を虚仮(こけ)にするのも程がある、女の風上にもおけぬ奴だ、もう我慢ならぬ、死刑だ、と。しかし「初日の出まず元旦のお年玉」なる狂句もあることです。まあそういきり立たずに、おならについての蘊蓄(うんちく)を傾けた佐藤清彦の「おなら考」を読んでごらんなさい。

そうすれば、気持ちが伸びやかになり、この本を読むきっかけを作ってくれた奥さんのおならに、感謝したくなるかもしれません。さて、あれこれ言っている内に寝る時間になりました。

何?まだ文句があるのですか?枕が合わなくてよく眠れぬ?。では、白崎繁仁の「枕の博物誌」をどうぞ。これは枕の色々から始まって、よい枕の選び方まで、枕の全てを語った本です。「よい夢見を願った枕」あたりまで読む内に、眠気がさしたらもう大丈夫。

幸せな初夢を見ることは必定です。と言う具合に、本の世界に入るには、どの入口からでもいいのです。さあ、気を楽にして、一年の大計を「読書」としぼってみては如何です。

Leave a Reply