第086回 差別戒名

1986年、中曽根元首相は、「日本は単一民族国家である」「差別を受けている少数民族はいい」と言う。いわゆる、「日本単一民族国家論」を発言して、多くの論議をよびました。

各方面から抗議を受けた首相は、10月21日の衆院本会議で、「例えば、アイヌと日本人、大陸から渡ってきた人々は相当融合していると言う。私なんかも、マユ毛は濃いし、ヒゲは濃いし、アイヌの血が相当入っていると思う」と差別意識のないことを冗談ぽく論証しました。

これを聞いた日高平取町のアイヌ文化資料館長、現参院議員である菅野茂氏は、憤慨して次のように述べました。

「首相がアイヌの親類だったとは知らなかった。アイヌをちゃらかす(=おちゃらかす)(=なぶる、あざける)ような言い方はまったく不愉快だ。アイヌの存在を認めると、北海道をアイヌに返還しなければならず、無知をさらけ出してでも不定せざるを得ないのだ。」

さて、私は先日、室蘭工業大学の留学生を相手に2時間ばかり話をしました。与えられたテーマが「日本事情」と言うものなので、何を語るか大分考えましたが、留学生達は、普段、市民段田などによばれては、やれ「お茶だ」やれ「着物だ」ときれいごとばかりを体験している感じがなきにしもあらずなので、思いきって、逆に日本の恥部たる「差別」の話をしようと考え、被差別部落の問題それも「差別戒名」の話をしたのです。

話を始める前に、私は「部落」と言う日本語を知っているかどうか確かめたところ韓国からの留学生をのぞいて、インドネシア、フィリピン、マレーシア、アメリカからの諸君は全員、この言葉も又それの意味する差別についても全く知りませんでした。私は、被差別部落の歴史を語って、その差別の行きつくところの最たるものとして、「差別戒名」なるものが存在することを話しました。

同席していた日本人が「差別戒名なるものを全然知らなかった」とあとで語ったところをみると、大方の人はこのことを知らぬのではないか、と思われますが、貴方はどうでしょうか。

「広辞苑」によると、「戒名」とは 1受戒によって得た名 2僧が死者につける法号とあります。仏教には「在家の五戒」と呼ぶものがあり、これを守った人に「戒名」が与えられます。これが1です。2は、寺の住職から死者に送られる「仏教上の名前」です。因に、「在家の五戒」なる「戒律」とは次の五つです。

1)不殺生戒(ふせっしょうかい) 殺すな

2)不偸盗戒(ふちゅうとうかい) 盗むな

3)不邪淫戒(ふじゃいんかい) みだらになるな

4)不妄語戒(ふもうごかい) うそをつくな

5)不飲酒戒(ふいんしゅかい) 酒を飲むな

では「差別戒名」とは何か

これは、普通は余り使われない文字を、被差別部落の人々に限って「戒名」の中に残し、一見して、その人が被差別部落の出身者であることがわかるようになっているもので、「人格無視の戒名」と言えるものです。

それは具体的にどういうものかと言うと、

1)置字=戒名の文字の一番上に、被差別部落民を指す言葉、例えば、連寂(れんじゃく)連草(れんそう)同連、などを置く。

2)戒名中に文字を入れる=戒名の中に、被差別部落民を指す、「族陀羅(せんだら)」などの文字を入れる

3)位号に差別語を使う=普通の戒名では、「居士」「大姉」にあたるところに、明かに差別とわかる文字、

例えば蓄男、革尼、蓄子、屠女などを使う

4)差別語の「音」を残したものを使う=例えば、差別的な意味を現わす長林(ちょうりん)兆林(ちょうりん)などを残す。

5)異体文字等を使う=例えば、門ではなく門を使う、宋、草なども使う(字が欠けている)

6)その他 朝鮮、韓国人には「朝」遊女には「遊」アイヌには「夷」などと書く。

差別は「戒名」のみならず「過去帖」にも及びます。それは例えば

1)被差別部落民だけを、名前の所を一字下げて書く。

2)被差別部落民だけを、過去帖の下の段に並べる

3)被差別部落民だけを、別の過去帖にまとめる

4)被差別部落民だけを、過去帖の一番うしろに一括して並べる 等。

さて、「慟哭」は、私に「差別戒名」の存在を教えてくれた大事な本ですが、絶版の上、企業で出したものなので入手は一切むずかしいでしょう。かわりに、柴田道子の名著「被差別部落の伝承と生活」を読んでみて下さい。①1

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他にも、出来れば「差別戒名とは」松根鷹 解放出版社(発売)’90 ¥618

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2.「差別戒名の歴史」小林大=雄山閣’87 ¥5000にも目を通して下さい。

3

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  1. 柴田道子・被差別部落の伝承と生活・三一書房 (1972) []
  2. 松根鷹・差別戒名とは・解放出版社 (1990) []
  3. 小林大・差別戒名の歴史・雄山閣 (1987) []

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