`98.8.20寄稿
「牛蒡」。あなたはこの字を読めますか? この字は,「ゴボウ」です。「図説江戸時代食生活辞典1 」には・・・・
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ゴボウはヨーロッパで新石器時代に作られ,中国でも宋代(10世紀中〜13世紀末)までは食用にされていたが,今日これを食べるのは世界中で日本だけのようだ。わが国のゴボウの品種は,滝の川,大浦など十数種におよぶが,ー後略ー・・・・ と出ています。又「たべもの日本史総覧2 」には・・・・・
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ゴボウは中国の東北部からヨーロッパにかけて広く分布する=年草で,日本には野生しない。しかしゴボウを野菜として栽培化したのは日本で,中国では古くから薬用にはしたが,野菜として利用するのは,日本と韓国だけといわれている。・・・・・ と出ています。「世界中で日本だけ」「日本と韓国だけ」と一寸違いますが,はっきりしているのは,ヨーロッパ人は,ゴボウを食べないと言うことです。
さて,先日,(正確には8月14日)朝刊に「オックスフォード辞典」の”新版”に”たまごっち”など日本の新語も登場,野菜の”ゴボウ”も・・・ なる記事が出ました。「オックスフォード辞典」とは略称OED(オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー)と称ばれるもので,英語を本格的に学ぼうとする者なら,必ず持っていなければならぬ,とされる大変な辞典です。それ程の辞典に,「ゴボウ」がそのままのったと言うのです。ワシ=和紙,ツナミ=津波などは,既にそのまま世界語になっていますが,ゴボウがそれと同じような扱いを受けたのです。読んで私は,長大息(ながいためいき)をついて,”時代だなあ”と,独りごちました。何故か? それは,かつて「ゴボウ」のおかげで命を落とした日本人が少なからずいたからです。第2次大戦が終わった後,戦争犯罪人として多くの人が処刑されましたが,その理由,その罪の一つに捕虜虐待(ぎゃくたい)があって,英米の捕虜の何人もが,食事として「木の根っコ」を食べさせられたと証言したのです。彼らが「木の根っコ」としたのが,実は「ゴボウ」でした。これは食文化の違いが生んだ悲劇です。その「ゴボウ」が今や,低カロリーながら食物繊維の含有量が多いOEDにまで出る・・・・ 私が”時代だなあ”と言うのは,そこです。
ところで,中島入口にあった捕虜収容所の所長,平手嘉一も,捕虜虐待と言う,あらぬ疑いをかけられて処刑された人です。「友とその生と死の証 」『処刑』『凍れる瞳』の3冊は,無実の人平手の悲劇を扱った本です。室蘭の人ならば知っておくべき悲劇です。 ・・・と思います。
友その生と死の証 田村重見 ’86/著者刊 非売品 ”平手”と同級生だった人の本。この本は各地の図書館に寄贈されている筈です。私も取材にいささか協力して,田村先生から,一冊いただいたのでした。 |
処刑 北海道新聞社 編 ’90年刊/北海道新聞社 ¥1.050 甲子園を目指してスタルヒンと投げあった野付牛中(現北見北斗高)のエース平手嘉一はなぜ処刑されたのか。米公文書館の公開文書で初めて明らかにされたBC級戦犯裁判の恐るべき実相!(帯より) |
凍れる瞳 西木正明 著 ’88年刊/文芸春秋 ¥1.470 捕虜虐待の罪でBC級裁判で処刑された男と甲子園をめざして投げ合った不世出の元読売巨人軍投手スタルヒンの宿命の人生!(帯より) |
伊達で全5冊確認(1998年8月14日金曜日 室蘭民報朝刊)
【伊達】
江戸時代末期に日本で初めて出版された物理学書「気海観瀾(きかいかんらん)」が先に,市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫で見つかったが,同書をさらに拡充,補足して,1855年に出版された「気海観瀾広義」全5冊が,伊達市開拓記念館に収蔵されていることがこのほど確認された。道内では初めて。「室蘭地方の狭い範囲で,日本の物理,化学の基礎を築き上げた二大書物が発見された意義は大きい」(山下敏明・市立室蘭図書館副館長)と喜んでいる。
「気海観瀾広義」は「気海観瀾」の著者・青地林宗の三女と結婚した川本幸民(1810〜71年)が著した。15巻5冊セット。第一冊は1851年に木版刊行,第五冊は1858年に出されて完成した。
三巻ずつ一冊にまとめられ,第一冊は理学一般の総論,第二冊は天体,力学,植物,鉱物などにも触れられて幅広く,量的には「気海観瀾」の7倍にも及ぶ。理解しやすく,明治期にまで影響を及ぼした。
現在,全国で全5冊所蔵が分かっているのは,国会,内閣,東大などの図書館で33セット。道内での確認はこれが初めて。
伊達市の全5冊は,伊達家が20年ほど前に市に寄贈した「伊達家文庫」に含まれていた。室蘭で「気海観瀾」が発見されたことに触発され,伊達市立図書館 (松本正昭館長)が「伊達家文庫目録」の製作を室蘭の山下副館長に依頼。全国的にも貴重な資料であることが分かった。
同書には現北海道大学の前身である札幌農学校のさらに前身「札幌学校図書」の朱印が押されている。「伊達家の誰かが学校から借りたままになったのかもしれない。伊達は農業などで道内の先進地だった。この書で学んだ者がいたのだろう」と松本館長は推測する。
全国的にも貴重な物理学の古書が,室蘭地方で二種も見つかったことにより,両館では「機会をみて共同で一般公開する方法を考えたい」と話している。
‘98.8.19(水)