`99.12.24寄稿
先日、気がおけない人達と飲みかつ食べている時に、酔った時の話になって、私はタレント「なべ おさみ」の話をした。なべとは、息子の大学受験をめぐってどうのこうのと言われたあの「なべ」である。話とは・・・「なべ」が或る時、銀座で飲んでいて、はしごをしている間に、とある店で寝込んでしまった。暫くして、「なべ」が目をあけてみると、そこは「ゲイ、バー」で厚化粧をした連中が何人も「なべ」を取り巻いて、上から見おろしている。ハッと気付いて「なべ」が叫んだそうな。「僕はなべだ。おかまじゃないよ。」
これだけで笑えるのだが、苗字の「なべ」が実は「女陰」の異名だとわかれば笑いの味が濃くなると言うものだ。この話で、皆くっくっと笑ったのだが、中の一人が私に「おかま」の語源は何か・・・と言うのだ。
「かま」は「釜」で尻(しり)のこと、転じて「男色」のこと、と「広辞苑」に出ているが、これでは語源がわからない。そこで、中野栄三の説を引くが、中野は、「釜」は梵語(ぼんご=古代インの文語、サンスクリットのこと)の「カーマ」の当字だと言う、そして「カーマ」意味は「愛欲」であると。
我が国に「御釜道(?)」をもたらしたのは弘法大師こと「空海」である、との説がある。事の当否が気になる人は、南方熊楠の「男色談義1 」(八坂書房)でも読んでみて下さい。
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私は、大学2年の頃、群馬県の山奥の温泉に一人旅をして、踊りの師匠なる「へやちょこ男」に言い寄られて、恐怖の一夜を過ごしたことがある。宿屋の主人に訴えて出ると、「あっ、あの男は、美青年とみると・・・」と言ってたから、常習犯だった訳だ。ところで、今流に言うと、この「ホモ」で、「お釜」まらざる自分の「墓穴」を堀った男がいる。
19世紀イギリスが生んだ天才作家、オスカー・ワイルドだ。オスカー・ワイルドと言っても、今時読まれているかしら?と心配だが、「幸福な王子」だの「わがままな大男」などの童話も書いているから、かえって、子供の方が知っているかもしれん。
ワイルドはきらめくような才能の持主だったが、19世紀末としては都合の悪いことに「ホモ」だった。そして、貴族の息子で悪ガキ、しかも美男のアルフレ
ッド・ダグラスなる青年を相手にしたことで、スキャンダルにまき込まれ、裁判で有罪となり、挙句は、野たれ死にのような死をとげる。この悲劇の人物の復権
めざしたいい本が出た。「オスカー・ワイルドの生涯2 」だ。
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この本が面白かったら、ヴィデオ屋に行って、「日本オスカー・ワイルド協会」おすすめの英国映画「オスカー・ワイルド」を借りてきてごらん。悪ガキ、アルフレッドに甘い点が気になるけど、よく出来た伝記映画だ。このワイルドが、作家として人気絶頂の時、パリ行く・・・彼を取りまくフランス作家の面々は、マルセル・プルースト、ピェール・ルイス、マルセル・シューそしてアンドレ・ジッドだが、この中でジッドがホモだった。
あとで、ノーベル文学賞を受けるアンドレ・ジッドはパリの文人の中で、「ワイルドはオーラをだしていた」と言う。かつて、ジッドは、「ソヴイエト旅行記」とその「修正版」を書き、秘密警察を使って恐怖政治をしき、ヒトラーをしのぐ強制収容所国家を創りあげた悪の木又化、スターリンを避難したが、2冊この告白の書は、私が熱を入れて読んだものだ。
今ジッドは読まれているのだろうか。それはともかく、ホモで性開放の先駆者でもあったジッドについて、非情にいい本が出た.「ジッドの秘められた愛と性3 」である。この本滅多にない面白さだ。
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さて、本に熱中するあまり番をしていた羊が、いなくなってしまったのに気付かぬ様を、「読書亡羊4 」と言うが、これを書名にした本が出た。 書を読んで羊を失う 我こそは、本好き・・・だと、自認する人にすすめたい。
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もう一冊、「地球生活記5 」大きな本なので陰影はのせぬ。世界中の家を写した本だ。デンマークのユトランド半島にある海藻の屋根にはおどろいた。雨でも降ったら、さぞかしたっぷりと出し汁が揺れることだろう。著者が、日本ではワカメ、コンブ、ノリなどを食べると言ったら、びっくりして、「どうか、俺の屋根をくわないでくれ」と言った由。実に面白い写真集だ。」
さて、癒々2000年と言っても私には特別の感想はないが、・・・。今年優しかった人も今年憎らしかった人も、皆さんお元気で。来年の第一報は1月14日(金)としましょう。
※2000年1月から「北海道新聞」朝刊 隨筆欄 「朝の食卓」を担当します。
読んでいただけえると光栄です。