第444回「戦争は女の顔をしていない」

2023.3.10寄稿

DVDになるのを首を長くして待っていたのを漸く見ることが出来た.撮影時、28歳だっというカンデミール・バラゴツ監督の「戦争と女の顔」がそれ。

何故首を長くしていたかと言えば、これ,ベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシェーヴィチがノーベル文学賞を受けた「戦争は女の顔をしていない1 」に女性監督がヒントを得て作った映画だと知っているからだ。かって高射砲の兵士として戦い、今はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えながら看護婦として軍病院で働く、イーヤと戦友のマーシャの二人が主人公。イーヤはマーシャの子を預かっていたが、事故が起きて、この子を死なせてしまう。話は予想を絶する方向に進んでいってー。だから、筋は今話さない。「戦争は女の顔をしていない」は、岩波の文庫で約500pで、決して読みやすいものではないが、これを漫画にしたものがある。

私は漫画世代ではないので、漫画も劇画も殆ど読んだことはないから未見だが、「小梅けいと」の作画、「速水螺旋人」監修」でKADOKAWAから¥1,000だと。第二次大戦でドイツに攻め込まれたソ連は約2700万人が死んだ。その時多くの女性が兵となって戦った。その時の女性の服装、ヘアースタイルetcを小梅けいとは調べに調べて描いてるというからしっかりした本なのだろう。

ところで、読者は「群像社」という出版社を知っているだろうか。ロシア文学を中心にする出版社だが島田進矢という人が一人でやっていて、行商に近い形で売っている由。私はこの出版社の本、出る都度買って来たが、この出版社から出ていたスベトラーナ・アレクシェーヴィチの本が今、出版契約上の問題で入手困難になっていると言う。たった一人でやっているこの会社の本を買って、この奇特な出版社を助けるのも読書人の役目であるまいか。

映画といえば、これ又待ちくたびれたのがDVDになった。間もなく89歳になるという、ロマン・ポランスキー監督の「オフィサー・アンド・スパイ」だ。何故待ちかねたかとなれば、これは歴史上「ドレフェス事件」と呼ばれる出来事を映画化したもので、その事件では、世界文学の中でも私が一番好きなフランスの文学者エミール・ゾラが活躍したからだ。この事件一口でいえば、冤罪事件。フランス陸軍大尉でユダヤ人のアルフレッド・ドレフェスが、陸軍省の機密をドイツに売ったとて御用となる。ドレフェスは無罪を主張するが、ユダヤ人に対する差別を是とするフランス国民は耳を貸さぬ。この時ドレフェスの手紙とされたものが、ドレフェスのものではないと気付いた軍の情報局長ピカール中佐が、真相上申と出るが、これにも誰も耳を貸さぬ。この時、ピカールを信じて、動いたのが作家のエミールゾラ、彼は新聞に「我弾劾す」なる一文を発表して世に訴える。

私がゾラを好きになったのはこの文章によってだ。実は私の本棚にはゾラ関係の本が、もちろん「ドレフェス事件」も含めて60余冊ある。で、その中の一冊を出したいと思うが「フランス文学」を収めた我が家一階の第一書庫が、馬鹿な話だが、本が重なって入って行けぬ、それで、手前味噌ながらここには、私の「本の話」を出しておく。と言うのは、この本で私は再三ゾラとこの事件について、語っているからだ。因みに「本の話  (( 山下敏明.本の話.室蘭民報社(2004))) 」は絶版品切、アマゾンでは高くなっているそうだ。「本の話•続」は残部僅少。と書いたが、これでは読者に不親切だからして「室蘭民報」に出たものを再録しておこう。第150,151,152,.回がそれだ。

ここでもう一本 DVDといこう。前評判の高かった「カモン・カモン」だ。ホアキン・フェニックス扮するニューヨークのラジオジャーアリストは地方を回って子供達から「未来」についてのイメージを聞き取るのが仕事。つまりは子供の扱いに慣れている筈の男。その男のところにロサンゼルスに住む妹の息子ジェシーが事情あって居候になってしまったと言う話。この9歳の甥っ子が、こましゃくれたガキンチョでと言う訳〜私としては9歳の子がこんな会話をするもんかねと、甚だ疑問で、つまる所各紙が取り上げる程の秀作には思えず、面白いとは言いかねた。まあ、かなり我慢してみた後、そう言えば、ホアキン・フェニックスと言えばなあと、「グラデェエーター」を借りてきた。こっちも暇持て余している訳ではないから、3晩に分けて観た。やはり面白い。筋は知らぬ人はなかろうから説明せぬが、一言で言えば、暴君たるローマ皇帝と一将軍の善悪の戦いだ。善玉が将軍のラッセル・クロウ、悪玉がホアキン・フェニックス。映画では両者相打ちとなって果てるが、実際はどうだたったのだろうかと、第三書庫の14段ある書棚の天辺によじ登って何十年振りかにセットになった本をヨッコラショとおろして来た。エドワード・ギボン著、中野好夫、朱牟田夏生、中野好之訳「ローマ帝国衰亡史2 」全11巻筑摩書房1976刊、¥35,000だ。

その第1巻目第4章「コンモドウス帝の残忍、愚行、殺戮、近衛隊によるその暗殺」が「グラディエーター」の舞台だがホアキン・フェニックス扮する悪玉皇帝、コレモドウスはどれ程の悪だったかがわかる。「彼の頭にあった帝権とは、ただ荒淫に耽る無限の自由の自由ということいがいの何者でもなかった。彼の日々は、全属州から集めたあらゆる階層の美女300人、及び同じく300人の美童を擁して後宮内で過ごすこと、ただそれだけだったのだ。〜知的快楽への極味など露ほど持たぬ最初のローマ皇帝だった。」と来て,ギボンは「あのネロ帝ですら」まだ増しとほめる。そして、この残忍な皇帝は自らも「剣闘士」となって円形劇場で戦うことを好み、しかもその際、相手に勝たせぬように鉛の剣を持たせるなど小細工をした上、剣闘士としての手当てまで、ちゃっかり取っていたいた、と言う。かくの如くズルをしてまで人=剣闘士を殺し続ける皇帝を見て、恐れる者が出てきた。他ならぬ愛妾マルキア、侍従長エクレクトウス、近衛隊長ラエドクス3人が結んで、狩りで疲れた皇帝に毒入りのワインを飲ませ、酔った所をくびり殺した。市民には脳卒中で急死と発表。皇帝が替わると今迄の民衆の怒りを抑えるために、暴君コンモドウス帝の遺体を鈎棒をかけて剣闘士用の脱衣場に引きずって持って行った由。この辺で更に知りたい人は本書をどうぞ。にして、わしゃ止める。疲れた。それにしても昔は我ながら長い物を読んだものだなあ。

  1. スベトラーナ・アレクシェーヴィチ.戦争は女の顔をしていない.岩波現代文庫(2016) []
  2. 中野好夫、朱牟田夏生、中野好之訳.ローマ帝国衰亡史.筑摩書房(1976) []

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