`92.8.19寄稿
栄高校の三年生の女子が遊びに来たので、お汁粉を御馳走しました。おいしいと言って食べ終わった彼女は、自分で片づけると台所に立ちました。その姿を好ましく見ていた私は、途中で、思わず「ダメダメ」と大声をあげました。
なんとなれば、「ナント!!」彼女は、流しから束子(=たわし)、それも金の束子をとりあげて「うるし塗り」の汁粉椀を洗おうとしたからです。そのお椀は、川連(かわつら)=秋田県の漆器でした。
私はあわてて、彼女に漆器の洗い方、ふき方、ついでに保存の方法も教えましたが、思うにこの子の家では、漆器を全然使っていないのか、使っていたとしても、この子が扱ったことがないかのどちらかだったのでしょう。
さて、プラスチックの容器が嫌いな私は、一週間のうち、五日は持参する弁当に汁物のおかずを入れる時のタッパーは別として、全て「うるし」の弁当箱を使っています。
今まで旅先で購(もと)めた「うるし」の弁当箱を十数種、中味と気分とに応じて使い分け(味はともかく)器の美を楽しんでいる訳です。因みに今日の弁当箱は、四国の堅牢(けんろう)「後藤塗」です。
日常生活で「うるし」を楽しむには、何も食器ばかりとはかぎりません。家具もそうで、我が家では座卓もバタフライと呼ばれる伸長式の卓子=テーブルも皆「漆塗り」です。中でも私の好きなのは岩谷堂(=いわやどう=岩手県)の二月堂(にがつどう)と呼ばれる文机(ふみつくえ=読よ、書きもの用の机)です。
さて、漆器は、耐水性がある上、腐食にも強い「うるし」の性格を最大限にいかした実用価値のあるものですが、これの扱い方と手入れには、多少とも「うるし」についての知識が必要です。
その「うるし」についての知識を満載した、しかも非常に平明な本が出ました。読めば我が国五千年に及ぶ「うるし」の文化を理解出来ると共に、「うるし」の美に魅かれます。藤沢保子「うるしの文化1 」小峰書店がそれです。
さて、弁当箱の話のついでに、今は、ない本で残念ですが、「弁当箱のうつりかわり」から始めて、弁当の歴史を扱った面白い本を紹介しておきましょう。大塚力「べんとう物語2 」雄山閣