第068回 中村屋カリーの由来 他

`95.3月17日

兄に連れられて、初めて上京したのは中学2年の時でした。新宿御苑で、一周10円のスクーターに乗って喜んだ後行ったのが、新宿の「中村屋」でした。ここでかの有名な「カレーライス」を食べました。カレーとライスが別々の器で出て来たのにも驚きましたが、カレーが液体に近く、スプーンですくってかけると、御飯の上に乗っからずに、米粒の間に浸透して消えたのにはびっくりしました。そしてカレーの中に、骨付きの肉の固まりと、丸ごと、と言った感じのジャガイモが1個宛デンと座っているのが、驚きの仕上げでした。「中村屋」と言えば「カレーライス」と連想される程の、このカレーは、実は、「中村屋」が昭和2年(1927年)に「喫茶部」を創業した際にに初登場したそうで、メニューには『御食事、東京名物、純印度式カリー料理

肥育シャモ或は鴨...1.00銭

普通シャモ   ....80銭』とあった由

そして、この「カリーを「中村屋」に伝授したのは、インドで、独立運動をしたため、イギリスの官憲に追われて日本に亡命した、ラーシュ・ビハーリ・ボーナスなる革命の志士でした。

彼は、かくまってくれた、パン屋「中村屋」の主人、相馬愛蔵の長女俊子と恋仲になり、結婚しますが、その副産物が「カリー」な訳で、仲々艶めいた話ですが、真相はインドに対する日本人の認識不足をなげいた、ボースが、祖国の上品な趣味好尚を知り、味わってもらわんとして、是非にと伝授したと言うのですから、これは、意義の深い文化史話と言わねばなりません。このような話を満載したのが金田尚丸の「丁髷(ちょんまげ)とらいすかれい1

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この本、上述のエピソードを語るについても、先ずはインドの歴史を語りつつ、綿業を中心とした当時の経済状況にふれ、独立へと向かわざるを得ない時代の中でのボースの役割を説明し、と言う具合に、単なる「カリー」物知り読本にはなっていません。

この辺りを、もり沢山で、繁雑(はんざつ=物事が多くてごたごたする)で読みにくいと取るか、でピソードが含む意味の核心に近づくための、必要不可欠の前提と取るか...は、好奇心の多寡(たか=多いか少ないか)にかかっています。

私などは、カレーライスについてはおろか、幕末外交史、明治開化史、北海道開拓史 etc...と大いに勉強になって、言わば、大盛りカレーライスをおいしく食べ終わったと言った感じです。

よって、知識に貪婪な(どんらん=欲の深い)な読者におすすめする次第。

さて、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎはカレーの「三種の神器」とは金田の言いぐさですが、...先年、札幌の男子大学生3人が、激しい腹痛を起こして、病院にかつぎ込まれる事件がありました。

医者の調べでは、...この3人、カレーライスを作ったのは殊勝なのですが、その際、ニョキ〜と生えていたジャガイモをそのまま、使ったと言うのです。

この3人、ジャガイモの芽が有毒だとは知らなかったらしい。

この事件の後、私は20代の女性5人程いた席で、この話をした所、彼女ら全員が、ジャガイモの芽は身体に良くないとは知らなかったことを知り、「クワバラ〜こんな女性をお嫁さんにして、イモの味噌汁、イモサラダ、イモ団子 etcとやられたら、身が持たぬ」と内心呆れたものでした。

さて、ペルーから全世界に広まった、と言われるジャガイモは、現在、栽培種8種、野生のものが156種発見されている、と言いますが、そのジャガイモに関する素晴らしい本が出ました。

B・ラウファーの「ジャガイモ伝播考2 」です。「聖書に書かれていない食べ物だ、食べたら癩病(らいびょう)になる、毒と病気を撒き散らす、植えたら土が駄目になる等々、すでに数々の烙印を押された〜」ジャガイモが、如何にして、如何なる役目を果たしつつ、世界各地に広まって行ったかを、学術的な話題を持って、豊富に語ります。

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例えば「〜当時(慶長年間1596〜1614)の日本人は、この(ジャガイモ)の味をとくに好んだということはなかったようで、観賞用植物と考えた。〜ポテトはその新奇さと相まって、人々の心を捕らえ、庭園用の植物として栽培されたのであった〜」と言った具合に、ことジャガイモについて「語られざる」はありません。

まこと、この本は、驚くべき知見に満ちていて、同じ著者、同じ訳、同じシリース「キリン伝来孝」もそうでしたが、読んだ後、全き意味で、好奇の心が、充全に満たされているのを感じます。

ついでに言うと、こん本を収めた博品社の「シリーズ、博物学ドキュメント3 」(第1期、第2期共に各全10巻)の書目、例えば、“中国のテナガザル”“中世動物譚”“サイと一角獣”(これも、B・ラウファー)“シェイクスピアの鳥類学”などと言うのを見て、心がワクワクしてこないような人は、読書人とは言えません(...と言ったら言い過ぎかな?イヤ、言い過ぎではないな、どれもこれも、本当に面白いもんな!!)

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高麗隆彦の装丁で菊版変型のこのシリーズ本、或種の香気を放っていて、書棚に並べると、そのことがひし〜永久借ります。並べて御覧じろ!!

*つけたり...インドの詩聖タゴール来日の際のエピソードですが、インド人は「からい」ものが好きだからとて、うんと塩を利かせた料理を出した所タゴールが弱り果てた....これは「からい=strong,hot」と「塩からい=salty」の違いだ....と言う話が、矢代幸雄「日本美術の恩人達4 」(`61、文芸春秋刊)にあります。

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日本のカレーは、さて、からい? 塩からい?




  1. 金田尚丸.丁髷とらいすかれい.遊タイム出版(1994) []
  2. B・ラウファー.ジャガイモ伝播考.博品社(1994) []
  3. R・H・ファンフリーク.博物学ドキュメント.博品社 (1992) []
  4. 矢代幸雄.日本美術の恩人達.文芸春秋刊(1961) []

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