第112回  本を愛する人々

自分が読む本を、図書館や人から借りずに、全部自分で揃えると言うのは、仲々にお金がかかります。しかし、それもさることながら、実は、もっとお金がかかるのが買った本を蔵するのに要する費用です。

私は今、幸いに自分の「持ち家」に住んでいますが、これは本を収めるために建てた、と言ってよい位なものなのです。そもそも、と順序立てて話をすると、「室蘭工業大学」につとめた当初は、いわゆる「官舎」に入っていたのですが、或る年、椎間板ヘルニアを患って入院している間に、六畳の板の間の床が30・も抜けてしまったのです。ボロ家だったせいもありますが、原因は、何といっても、家をつぶして壁といわず、床といわず、部屋一杯に積み上げた本のせいだったのです。無人の時で、ケガ人のなかったのが幸いでしたが、一応施設課に相談してみると、ボロ家に修繕は無意味だから… と言うことで、幹旋してもらって、今度は鉄筋コンクリ−ト造りの市営アパ−トに移りました。

…が堅牢なのはよし、として、この3DKが又しても、本にじわじわと占領され始めます。私自身は飯よりも、否、酒よりも本が好きな人間ですから、積み上げた本にはさまれていようが、くずれんばかりに積み重なった本の前に寝かされようが、何の苦も感じませんが、「本の虫」ならざる家人はそうもいきません。やはり普通の空間が欲しくなります。

と言う訳で、飾るべく買った絵すら、一枚も飾る壁面が本のために失くなった時、本を収める部屋を求めて、仕方なしに家を建てたのです。

そして…上下(うえした)6畳2間を使ってナントカ本を並べていたのですが、それきりでおさまる筈もなく、今度は庭に張り出して、中2階の高さの6畳間を作らざるを得なくなりました。床から天井までを14段の本棚にし、9段目に横平行にポ−ルを取りつけて、キャスタ−付きの梯子を引っかけ、それで行ったり来たりしているのが現状です。

とまあ、傍から見ると、馬鹿なことをしているのですが、今、ここに「本を愛する住まい」が出ました。①1

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読書と言う、本当はかなりの肉体労働を、苦にならぬように、快適に過ごせるようにとする工夫の様々が出ていて、大・小問わず、これから「読書の空間」を造ろう、と言う人にも、私のように既に作ってしまった人間にも、大いに役立ちます。

さて、書蔵と読書のための場という問題はこれで片がつく筈(?)として、次は本そのものの問題です。と言うのも、読書家には二つのタイプがあるからです。

その二つとは、読めさえすれば、題字の大小も、本の美醜も一切、つまりは、ナ−ンニモ気にしない、気にならないと言う人と、どうせ読むからには、美しい本で読みたいと言うタイプとです。フランスの文学者の辰野隆は、外出時に、文庫本を読めると読めそうな)分だけちぎってポケットに入れていったそうです。これに反して、同じくフランス文学者の鈴木信太郎は、樋上の美しい本しか手にしなかった、と言います。

この二つの中、ナ−ンニモ気にならない前者は問題外ですが、後者の美しい書物で読みい…のはむずかしい。土台、如何なる書物を指して「美しい書物」と言うのか?この 問に、明快に答えてくれるのが、出たばかりの「美しい書物の話」です。日本人が書いたものではないので、惜しむらくは、実例として日本の書物が出て来ず、又、美意識の点で多少の異和感があるかも知れません。②2

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しかし、美しい書物として、疾う(とう=既にずっと前から)に知られたカクストンの本やら、W.モリスの本やらを引き合いに出して、書物の美しさの精髄を、豊富な図版で説いてくれますから、内容はむろんのこと、形としてもすぐれた書物を蒐めて楽しみたい、と言う人には、いい手引となるでしょう。

さて、快適な読書空間と、美しい書物を求める読書人にとって、最大の関心事は、“どういう本が、いつ、どこで出て、いくらするのか”と言ったことなのですが、この関心を完全に満たすために、先に知っておくべき諸々を書いた本が出ました。その湯気の立っているような最新情報を満載した本とは「本を探す本」です。タイトルの通りの本で、単なる読書家のみならず、本を探すのが専門の図書館員にも、役に立つこと間違いなしです。③3

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室蘭は、毎日々々雨です。昨年の日照時間の7割しか照っていない由、お−、寒。

  1. 松沢 貴美子 川崎 衿子.本を愛する住まい.彰国社 (1997) []
  2. 美しい書物の話.アラン・G. トマス.晶文社 (1997) []
  3. 本の探偵団.本を探す本.フットワーク出版(1995) []

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