第310回 ムソルグスキー「展覧会の絵」の真実

2011.08.寄稿

1996年4月27日から10月20日迄,小樽のペテルブルク美術館で「レーピン〜ロシアの心〜」展が開かれた。この美術館,旧拓銀を改装したもので,当時は

丸井今井グループの所有。展覧会の主催は丸井で,これは丸井今井創業125年祈念の行事だった。あ〜丸井の栄光、今いずこ?。この時,レーピンの代表作「ヴォルガの舟曵き人夫」が出たが、これは20年ぶりの日本公開だった。「舟曵き人夫」に説明は必要なかろうが,これは20年ぶりの日本公開だった。「舟曳き人夫」に説明は必要なかろうが、これは下って行った舟を又上流にもどすべく、と言うことは、当然流れにさからって、河岸からロープを使って舟を曵く労働者のことだ。ヴォルガ河では16世紀末から20世紀初頭まで存在したと言う。動力船の出現で、お払い箱になった訳だが、これは大変な重労働だった。「ロシアはだれに住みよいか」なる長編叙事詩で有名な詩人ネクラーソフ(1821〜77)は、農奴解放のために闘った人でもあるが、「ヴォルガにたたずめば、偉大なロシアの大河に、だれかのうめき声が鳴りひびく、...それは舟曵き人夫たちが、鞭に打ちひしがれて歩いている声なのだ」と言ったそうな。レーピンは、これを1870〜73年にかけて描いたが、この絵をイメージしながらロシアのピアニスト達はある曲を弾くそうな。その曲とは、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の中の第4番目「ヴィドウオー」これはポーランド語では「ヴィードロ」と発音する由で、意味は「牛車」。

「ムソルグスキー1 」「ムソルグスキー2

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「ロシア音楽の魅力3

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そして、曲がいみするのは「2頭の牛に曵かれた巨大な車輪の付いた「ポーランドの荷車」となって、これはつまり、苦役する民衆に対するムソルグスキーの同情、共感となるらしい。この苦役のイメージをピアニスト達は、レーピンの「ヴォルガの舟曵き人夫」に求めるというのだ。

さて、これを書いている経011年7月18日月曜日「海の日」曇り。今週末23日は「第22回ふくろう文庫ワンコイン美術講座』の日で、テーマは「ムソルグスキー”展覧会の絵”の画家は誰?」

「展覧会の絵」は次の10曲から成り立っていて、元々ピアノ曲。①グノームス(小人)・ラテン語 ② 古城・イタリア語 ③ テュイルリーの庭(遊びのあとの子供の喧嘩)・フランス語 ④ ヴィードウオー・ポーランド語・ドイツ語 ⑦ リモージュの市場・フランス語 ⑧ カタコンブ(ローマの墓地)・ラテン語  ⑨ バーバー・ヤーガの小屋・ロシア語 ⑩ キエフの大門・ロシア語

ところで、ムソルグスキーはこの10曲を誰の絵からインスピレーションを得て作曲したのか...がテーマ。

答えは若死にたガルトマン(1843〜73)で、実はこの人、画家ではなくて建築家、デザイナーで、ムソルグスキーの友人だった。その遺作展に心動かされて、ムソルグスキーは作曲を始めたが、現在判明しているのは、つまり、曲と元の絵との結び付きがはっきり分かるのは5点だ。と、日本で唯一のムソルグスキー文献の著者ー一柳富美子は言う。そして第4曲の「ヴィードロ」に該当する絵が発見、特定されていないので、現今のピアニスト達は、先述した如く、曲のオネージ造りにレーピンの「ヴォルガの舟曵き人夫」を頭に浮かべるーとなる訳だ。

さて、ロシアの大画家、イリヤ・エフィ−モヴィチ・レーピン(1844〜1930)は、ムソルグスキーとは浅からぬ因縁を持った。その①は、1872年のこと。

レーピンは美術アカデミーを卒業したばかりの若造だったが、モスクワの大レストランの大ホールに、ロシア、ポーランド、チェコの作曲家たちの肖像を描いてくれと言うものだった。ところが、主人がレーピンに渡した作曲家リストには何故か、レーピンが尊敬する2人、ムソルグスキーとボロディンの名前が欠けていた。レーピンは講義したが無駄だった。と言うもの、主人はムソルグスキーを音楽の中の「ガラクタ」と見放していたからだ。

これが間違いだったことは、ありふれた言葉ながら歴史が証明している。因みに、15世紀までにさかのぼることが出来るムソルグスキーの名の由来は「ムーソル=ごみ」だとの説が一時期あったとの事。主人は案外、その辺をしっていたのかもしれぬ。

さて、ムソルグスキー(1839〜81)は、大地主の次男坊だった。農奴解放後〜お定まりの貧困生活の中、アル中になり、脳卒中で入院し、死を迎える。で、其の②を描かせ、これを買ったのは、あのトレチャコフ美術館の主だった。

私は以前上の如き文章を書いたが、23日には、CDを聴いてもらいながら、曲と合致する絵の解説をするつもりだ。一柳によると「展覧会の絵』なるタイトルは誤訳だそうな。

 

  1. 一柳富美子.ムソルグスキー。東洋書店(2007) []
  2. アビゾワ.ムソルグスキーその作品と生涯.新読書社(1993) []
  3. 森田稔.ロシア音楽の魅力。東洋書店(2008) []

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