第331回 エロスと暴力

2013.5.寄稿

過ぐる1月15日午後3:25に映画監督の大島渚が80歳で死去した。翌16日の各紙には、「体制と闘い続け」、「国際派、映画界のカリスマ」、「大島渚、終わりなき問い」などの見出しがおどっている。

副見出しの方には、「束縛と戦い自由に跳躍」ともある。全部「その通り」だと私は思うが,其の一方私は,この人が作った映画20数本をほぼ同時代人として殆ど観て来たが、「面白い」と思ったことがないのが事実だ。

政治参加=アンガージュマンの時代にあって,京都大学法学部の学生として,京都府学連委員長などの経験から来る,問題意識とその提示は分かるが,作品自体はどうにも面白く思えなかった。それで,遺作となった「御法度」のDVDを改めて観たがやはり途中から退屈するばかりだった。大島自身は、自分の映画人生を「人ぜいたく」とまとめる。この意味は,坂本龍一だの、ディヴィッド・ボーイなど、人の意表をついた配役を言っている。それで「御法度」には,同じ伝で,16歳の松田龍平を起用したが,この舌足らず少年はともかくとして、第一にビートたけしがよくない。今「アウトレイジ」とやらいう、たけしの新作が出始め,予告編を観たが、いつも思うのは、たけしの演技は演技でなくて只「地」が出ているだけの事だ。

たけしが出す暴力性を私は全く評価しないが、それは置いて,台詞もはっきりせぬし,繰り返すが「地」のままでは演技とはいえぬ。ついでに言うと、たけしが映画を作り出した頃、あの「サヨナラ、サヨナラ」小父さんは私同様、たけしの暴力性を嫌ったらしく,終生たけしの映画を見ないと、タンカをきっていたが、どうした風の吹きまわしか、やがてその中たけしを褒めるようになって、これが私には,勢いづいて来た若い者を恐れた年寄りが膝を屈したかに見えて嫌だった.何せよ、たけしを評価する手合いが、クエンティン、タランティーノなどという変わり者だから、その評価は余り当てには出来ぬ。

話しを「御法度」に戻すと、これは新撰組内での「同性愛」を扱った者で、見終わっての感想は「これしき」の事を長々と、と言うもので....こんなものに時間を取られる位なら、そして「男色」のすごさ、深さを知りたければ、小池籘五郎の名著「男色物語  1  」(昭38/桃源社刊)を読んだ方がいい.

只私は「本の話」第457回(2006.11.12)で、この本について既に触れているので、今回は氏家幹人の「武士道とエロス2 」を勧めたい.


この本に感心したら同じ著者の「サムライとヤクザ3 」(ちくま文庫/¥780位)にすすむとより分かる。

大島の映画を低く見過ぎでは、と言う人もいいるだろうが、そう言う人には見比べてもらいたいのが、大島の「愛のコリーダ」と田中登監督、宮下順子主演の「実録・阿部定」だ.この作品のテーマは御存知「定なる女が、愛人吉蔵を愛する余り『この男を他人には渡したくない』とて、吉蔵のナニを切断して云々」だ。

実質的にはフランス映画だった大島の「愛のコリーダ」は発禁だ、上映禁止だ、と騒がれて、まあ、つまりは物見高い連中の好奇心を誘って話題になったが、これが私には駄作と思われる。その理由を細々と書いて、この「ひまわり」が発禁になっても困るから、論は止めて、つまり「論より証拠」、「実録・阿部定」を観てごらんなさい.吉蔵に扮するのは、「コリーダ」の方の藤竜也に比べれば知明度の低い江角英明,定には宮下順子.私はビデオ持ってる。これDVDになっているかどうかは知らぬが、とにかく見比べて観ると、大島と田中の優劣が分かる。

と言っても、これではピント来ぬだろうから、映画評論家・松田政男の「実録...」への褒め言葉「これは空前絶後(!)の傑作である」を紹介して、ビデオの代わりに、宮下順子のエッセイ「水のように夢のように宮下順子4 」 を

紹介しておく。因みに、

日活100周年で「日活ロマンポルノ」の再評価の動きがあるが、いいことだ。「お堅いつもりでいる貴方、一回でいいから観てごらんなさい』と言ったら職業がらお堅い振りをしている人達から怒られるか?.因みに私は宮下順子の次には片桐夕子が好きだった。

最後に、たけしの「テメエ、コノヤロー、バカヤロー」の連発はどうにかならんかね。それと、いつまでもピストル撃ち続けるのも。先日オバマの銃規制につれて、ロバート・レドフォードが映画でもすこしドンパチを止めた方がいいのでは?と言った意味のことを言っている時代だぞ。忘れるところだった、「実録...」の田中登監督には、日本アカデミー賞の監督賞候補になった「人妻集団暴行致死事件」なる素晴らしい作品があるぞ。「御法度」は「毎日芸術賞」を取ったが、私に言わせると「永いことご苦労様でした」という意味あたりの賞か。死んだと言えば、力道山を刺した男が、過ぐる4月13日に死んでいたと分かった。刺した時は暴力団員と名乗るものの、単なるチンピラに過ぎなかった。このチンピラ役を映画でやったのは、原発で名を上げた若き日の山本太郎だ。

このかってのチンピラの田村勝志が74歳で死んだと言うのだ.力道山を刺したのは1963年12が8日の深夜、場所は赤坂のナイトクラブ「ニュー・ラテン・クオーター」.力道山と口論となり、なぐられて怖くなり、持っていたナイフで力道山の腹を刺し、力道山は一週刊後に死んだ.当時国民的ヒーロー』とされていた力道山相手の刺殺事件として,大きく報じられたが、この力道山は果たして『国民的英雄』だ多禾?.2000年にR・ホワイティングの「東京アンダーワールド5 」(角川書店)が出て、力道山のそうしたイメージが揺らいだ.例えばこのニュー・ラテン・クオーターなる場所は、『外国の諜報社会や日本の闇社会の連中がタムロする場所」だったが、力道山はそうした闇社会の中で一、二を争う犯罪組織の名誉会員であったと言うのだ。「名誉」の使い方も色々あるものだ。

この本については私は既に『あんな本・こんな本』NO170(2000.9.14)で語っているので、見て下さい.それで今回は、その力道山の騙し討ちによって、「名誉」を失った柔道家・木村政彦の本を出しておく。

「 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか6 」


大俳優・三國連太郎が4月14日に死んだ.チンピランの死の前に出すつもりが順序が狂った.父親は棺桶作りだとして、自ら被差別部落出身と名乗る,この傑出した人物を知る為に,沖浦との対談「芸能と差別の真相7  」を勧めたい。「三國連太郎逝きしと、テレビ放映す,徴兵忌避して逃亡せしとも」。

※ 『あんな本・こんな本」のバックナンバーは次で読まれたし。

http//t-yamashita.info/

「あんな〜」でもいきなり出る由

 

 

 

  1. 小池籘五郎.男色物語.桃源社刊(1963  ) []
  2. 氏家幹人.武士道とエロス.講談社(1995) []
  3. 氏家幹人.サムライとヤクザ.筑摩書房.(2013) []
  4.  宮下順子.水のように夢のように宮下順子.講談社(1984) []
  5. R・ホワイティング.東京アンダーワールド.角川書店(2000) []
  6. 増田俊也.木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか.新潮社(2011) []
  7. 沖浦和光,芸能と差別の真相.ちくま文庫(2005) []

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