司書独言(139)

2013.05寄稿

○月○日 富士山が世界遺産に登録することが決まった。この世界遺産なる理念は,アンドレ・マルローのユネスコ会議での発言に由来する由。その発言は「世界文明の第1頁を刻む芸術は、分割出来ない我々の遺産である」というもので,エジプト文明の諸遺跡が,ナイル川に大規模ダムを作ることで水没する危機に際して発されたものだという。

○月○日 フランスの文化省にして作家のマルローの作品は、高2の時「王道」と「人間の条件」を読んだのが最初だ。「人間の条件」には混血児の「清」が登場してたし,「王道」はクメール文化遺跡を探す話しだったが、そのクメール文化遺跡の密発掘で,マルローは有罪判決を受けたことがある.彫刻なぞを持ち出したのだ.そうした経歴のマルローが世界遺産の発案者とは面白い。何やら罪滅ばしの感があるね。

○月○日 「馬鹿は戦車でやってくる」(だったか)なるハナ肇の映画を突然思い出した.安倍首相が、迷彩服で陸上自衛隊の10式戦車に乗って手を振る写真を見たからだ。その安倍の「アベノミクス」とやらのお陰?で、株高、円安となってユニクロ社長が4,000億円、ソフトバンク社長が3,800億円儲けた由.私は株券なるもの手にしたこともなく,触ったこともない貧乏な経済オンチで,只只感嘆するばかりだから勘で言うしかないが、まあ小泉・竹中の時と一緒で,又これからがアブク銭となる時がいずれくるだろう。だけど騙されても騙されても庶民は参らんから不思議だねえ。

○月○日 猪瀬がしくじった.オリンピック発言のこと。しかし国際オリンピック委員会は,この失言を処分せずと言うんだから だらしないね。ところで、もしこの失言が響いてオリンピックが来なかったら,今までかかったお金はいわゆる「パー」になってつまりは「都益」を損ねた訳だ.誰がどうこの穴埋めるんだろう.都民は皆黙っているのだろうか。

○月○日 黙っていると言えば、いつも不思議でならんのは,石原だ,橋本だ,安倍だのの対中国や対韓国を刺激する発言、行為のおかげで反日になった観光客が激減!!なんぞという時に,どうして各地の観光業者は嘆いていないで「客が減るような事態を招くことは止めてくれ」と抗議しないのかということ。いつも不思議だ。

○月○日 そんな観光業者の『利益」の如きは「国益」に較べれば、物の数にもならんと言う人もいいるかも知れんが、この「国益」と言う点から、首相は「国益上、靖国参拝はすべきでない」とする、非常に明快な論がある。かつて私も切り抜いた論文で、小泉が参拝した時に朝日に発表された神戸女子学院大学の内田樹名誉教授のもの。

「為政者は個人的な信教よりも日本の国益を優先的に配慮すべきである、故に首相の公式参拝に反対」と言うもので、今は「現代霊性論』(講談社文庫/¥581+税)に所収。高橋哲也の論と、右寄りの小林よしのりの論も取り上げていて、私個人としては種々読んだ中で、一番得心のいくものだった。目下の安倍他の面々の参拝の是非について考えたい人は是非手に取って見るべし。得になりこそ損にはならぬと思うがね。

○月○日 安倍と言えば,大手メディア幹部と頻繁な会食が問題視されているが,先日も読売の例の横暴爺さん・渡部恒雄と丸の内のパレスホテルの和食「和田倉」で会食と報じられた。この和田倉,私もつい最近偶々言ったが,地上12階にあって場所も高いが酒も高い.私の酔眼朦朧の記憶では酒は一合一番安いのが2,100円だった.(とある人に言ったら,別に高くないじゃない大吟醸なら当たり前、と言われたが、そうかね??)身内の招待だから言ったが,自腹では行く気はせぬ、いや行けぬ所だ。

○月○日 安い高いはまあおいて、何が問題かと言えば,,「取材対象である企業の重役達と近しく付き合っていながら、いざと言う時に踏み込んだ取材をしたり、厳しく不正を指摘出来るのだろうか?」と言うこと。上の言葉はニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーの「本当のことを伝えない日本の新聞」(双葉新書/¥800+税)からのものだが、欧米の新聞界では権力者とメデイアのなあなあの付き合いはあり得ない由。言われなくともあたり前だがこの本是非読まれたし。ジャーナリズムとは「番犬=権力の監視者」だとする著者の数々の指摘に瞑目させられる。「書けめえよ、食いねえ、吞みねえ、されてはね」(清山元晴)

「俺も呼ばれたと喜ぶメディアボス」、なにしろ世界179カ国中報道自由度順位で53位の日本だもんな。

○月○日 鈴蘭の時期になって来た。今年も増やそうとした我妻さんも幾株か買って来た。

この花、嫉妬で殺された美女が流した涙から咲き出した花だとの伝説が室蘭にある。昔淋しい漁村の室蘭に難破船が流れ着き、船内には不義を働いたとてと遠くの地から追放された美女一人。村の若い衆は当然の事に懸想する。面白からぬは美しくない娘達、よってたかって美女を殺し海に捨てる。見苦しきは醜女のヤキモチと才なき男の妬み。この話し、溱寛博「花の神話」(新紀元社)にある。「花」の事典に珍しくも「室蘭」とあるのは結構だが、昔から室蘭は殺伐としてたのかな。

 

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