第343回 歴史修正主義、保守論壇亡国論

2014.5月寄稿

都知事選で負けた細川元首相の敗戦の弁が仲々いい。曰く「脱原発は文明の転換を求める戦いです。日本人の生き方の問題です」。曰く「(安倍政権は)無茶苦茶ですよ。とりわけNHKの問題はひどい。経営委員の百田尚樹って作家が応援演説で口にしたらしいね。私をはじめ他の候補を『人間のクズ』だって。あきれた。

品がなさ過ぎます。籾井勝人会長も、従軍慰安婦はどこの国にもいたと言った。そういう人達が安倍さんのお友達なんだから。この国がどうなるのか、心配でたまらんですよ」。曰く「戦前に回帰しようともくろんでいる人達が、いつまでも枕を高くして寝ていてもらっては困るのでね」

この百田と並んで問題なのは,同じく経営委員の長谷川三千子なる哲学者。その発言たるや…以下を御覧じろ。

日本は何故戦争に負けたのか?。長谷川の答え=「それは日本が敵国に与えた『被害』が不十分だったから」この敗戦を乗り越えるためには?。答え「一番現実的な手っ取り早い方法は,もう一度戦争して勝つ」こと。

ギリシャ神話によると,昔、戦闘と狩りを好む女のみの部族がいて、弓を引き易いように邪魔な乳房を切り取ったのでアマゾン(=乳ナシ)と呼ばれた...と言うが、この長谷川大和民族じゃなくて、その部族の出か知らん。

ドイツの女性版画家・ケーテ・コルヴィッツは、戦争で息子を失い、反戦に徹したが、一男一女を持つというこの長谷川はこのざま、ひとしく母親とはとてもの事思えない。戦争したいこの母親、もちろん一男一女を人に先んじて出陣させるだろうな。この長谷川は又、ヒトラー並に「生めよ増やせよ」の信奉者で、女性の社会進出が出産率を低下させたとして、「男女共同参画社会基本法」に反対している。

「女権」を主張する女性達はこれをどう見るか?、放っておいていいのか?。

ところで、長谷川と来て、昨今の情勢でいけば連想されるのは桜井よし子。その桜井の「迷わない』が150万部も売れているという。これをヤンワリとやりこめたのが精神科医の斉藤環。曰く「迷わない」彼女の楽観主義は、ひとたび保守と融合すると、内省を欠いた歴史修正主義に結びつきはしないか。

親孝行から愛国心までを地続きで考えるタイプの保守主義は、個人主義の抑圧と弱者の排除を繰り返してしまわないか。下線は例えばユダヤ人殺害はなかったという立場。

さて、こうした保守の身内からすごい本が出た。三島由紀夫の憂国忌の発起人も務めると言う保守中の保守の哲学者・山崎行太郎の「保守論壇亡国論1 」。先の桜井よし子を先頭に切られに切られた面々は、渡辺昇一、西尾幹ニ、西部邁たち。桜井については、論を捏造する、論点をすりかえる…変節女で定見ナシと片付ける....etc.と保守思想の劣化を嘆いて、いや納得納得。身内の中の身内のこの批判に、桜井たちはどう返せるのか、返せないだろう。イヤそれよりも、こんな連中の本をお金を出して買って読むのを止した方が、山崎の「憂い」に対する一番まともな反応かもな。

この春、建築史家の鈴木博之が病没した。びっくりした。肺がんだった由。鈴木って誰?と言う人には、学歴のない安藤忠雄を東大の建築学科へ教授として招聘した人と言えば分かりやすいか。ソンナコト位と言うなかれ。東大と言う所は医学部に他大学出身の人間が入ると言うだけで、両国橋から向こうの人間が来たタメシなしと騒ぐところだ。鈴木の功績は、例えば東京駅の復元、国立現代建築資料館の創設、それに、庭師・小川治兵衛の」顕彰と巾広い。私が最初に読んだ鈴木の本は。昭和57年の「ジェントルマンの文化2 」。私はこれ、英文科生としての興味から読んだ。ジェントルマン=紳士の発生は、3,000エーカー以上の土地所有者が条件だが、そのうち土地関係なしに、高級専門職の人が含まれて。19世紀末には、画家、彫刻家、音楽家、土木技師らも仲間入りした。例えばその中に工部大学校=東大で正式に建築を教えた、J・コンドルがいる。私は「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」で、このコンドルと河鍋暁斎を取り上げたが、その時、30年振り書棚から出したこの本と、1999年刊の「ヴィクトリアン・ゴシックの崩壊」(中央公論美術出版)は大いに役に立ったものだ。

これをかいている今日は5月3日(土)。今午前9:00、朝刊には韓国地下鉄でナント電車の追突事故があり、200人負傷と出ている。船の沈没といい、女性大統領には気の毒と言う他ないが、沈没のセウォル号とやらは、新聞を読めば読む程イヤハヤ....で、そのうち別の沈没美談を思い出した。トルコの「エルトウールル号」の沈没事件。これ私は「本の話」の379回(2003.11.9)で触れたことがああるが、2010年刊の「本の話・続」は371回迄で、この話しはまだ本になっていないから、ここで再度取り上げる。

エル=雄、トウールル=隼だがこの船名にふさわしくなく老いぼれ船で、トルコから条約締結他の用で日本にきたはいいが、帰路の明治23年9月16日(9月16日は私の誕生日)、紀州熊野灘で沈没した。587名が死亡し、69名が助かったが、このとき救助活動したのが地元樫野崎の漁師達。最初に遭難者たちを見つけたのは、高野友吉。そして、今年1月上旬、エルドアン、トルコ首相が京都で高野の曾孫の堀口徳弘に感謝を伝えた。この美談2015年に映画になる由。詳しく知りたい向きは、杉田英明の本「日本人の中東発見3 」を読むべし。「竹取り物語」と「宇都保物語」とトルコの関係を語る第一章から、トルコ文化百科よ言うべき、地中海ヘレンド学会賞受賞の驚きの本だ。


「ふくろう文庫」の支え人、松山の俳人・栗原恵美子女より、散歩に出かけたる所、音楽喫茶のグループが公園で唱っていたので、自分も飛び入りで「月の砂漠」と「箱根の山」を歌ってストレス発散....との春の便りが届き、おかげで私も小学6年卒業時の学芸会で「月の砂漠」の王子様に扮したのを思い出して、写真をだしてみたら、ちっとも変わってなかった(筈はナイ)。じゃによって、「月の砂漠4 」詩碑建立祝賀記念出版の珍しい一冊をお見せする。1989年(平成元年)11月4日、第一回「鷲山第三郎のこと」を皮切りに、24年間室蘭民報に掲載されて来た、「本の話」が、2004年5月に1冊目として室蘭民報より、出版され、2010年9月に「本の話・続」として、同じく室蘭民報より、出版されております。室蘭民報社に掲載された回数は、今は640回をこえて連載中です。その中の371回までを2冊にまとめたものです。希望の方は,下記宛にお申し込み下さい。

2冊で定価2300@4600円+送料450円 計5050円

「普通為替」番号「051-0015」にて申し込みください

室蘭市本町2丁目2-5 市立図書館「ふくろう文庫」山下敏明宛

  1. 山崎行太郎.保守論壇亡国論.K&Kプレス(2013) []
  2. 鈴木博之.ジェントルマンの文化.日本経済新聞社(1982) []
  3. 杉田英明.日本人の中東発見.東大出版会(1995) []
  4. 詩碑建立祝賀記念.月の砂漠.今野書房(1969) []

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