第346回 戦争賛美の俳人、詩人達.イギリス小説の特性

2014.8.1寄稿

世の中に「うまい話」はそうざらには転がっていない、と言われて、それはそうだろうが、面白い話、笑わせてくれる話は,新聞読んでいるだけで結構ある。文芸欄も投稿欄もその意味では馬鹿に出来ない。

最近笑ったのはアフリカ南部ザンビアでの話。ここ例の探検家リビングストンが行ったところで、長いこと,これまた例のセシル・ローズによって「北ローデシア」として英国に支配された所。そこの大統領サタが先日(7月)野党党首から「サツマイモ」と呼ばれて怒った。何で芋ごときでと思うが、「サツマイモ」は現地の言葉で「忠告に耳を貸さない人物」を意味する由。で裁判沙汰になったが、野党には与党を批判する権利があり、これは「言論の自由」の内だとされて無罪になった。この大統領、矢鱈と人につっかかるので、「キングコブラ」のあだ名がある由。私がこの「サツマイモ」で思い出したのは,ちょび髭の小男で一見ヒューマニストめかした詩人・尾崎喜八。この男が戦中書いた詩が「さつまいものうた」。

『芋なり。薩摩芋なり。その型紡錘に似て,皮の色紅なるを紅赤とし〜』とまだ続くが、これが戦後発表されたと時は、「つわものは命ささげて/海のかなたに戦う日を/銃後にありて、みはやすらかに/」などがカットされて、軍国調がが消えていたが、当人は戦中猛烈な戦争賛美の詩人だった。戦後のロマン・ロランやジョルジュ・デュアメルの本物のヒュウーマニスト達の訳業にだまされてはいかんのだよ。但し、サツマイモには罪はない。

阿倍猛は北海道教育大から東京学芸大学へ移って学長を務めた人だが,尾崎ばかりでなく,三好達治、草野心平、中勘助、西条八十、佐藤春男、はては壺井繁治までの、戦中の狂態、醜態をまな板の上にのせる。自分が時流に流されないための指針となり得る本だ。

「近代詩の敗北1

戦争賛美と言えば,先日某紙の俳句欄に次の句が載った。

楸邨の蟇(しゅうそんのひき)国会へ国会へ

一読何やらわからんような句だが、批評読んでわかった。その評は「楸邨の句に”蟇(ひきがえる)誰かもの言え声かぎり”がある。1938年”国家総動員法”が発布された頃の作。今、ものいう蟇が怒りの声をあげて国会へ押し寄せて行く」

この法律〔国家総動員法)、日中戦争のため、戦時体制を強化するために人的・物的資源のあらゆる統制運用を政府にまかせるものーと辞書にある。それに反して名もなき人々が抗議の声をあげよーと言う句なのだろう。それは今のきなくさい情勢と重なってわかるのだが、「何かが違うようですよ」と評者に言いたい所がある。というのは先頃「戦争俳句と俳人たち」を読んだばかりで、中に中村草田男の「楸邨批判」なる文章があり、「〜加藤楸邨は,大東亜戦争の後期から勢力層の利用者に豹変し〜」と言った文章が紹介されていて,つまりは楸邨も,叉彼を批判した草田男も、戦争協力者としての側面があったやに思える部分があるようだということ。どうもきれいに片付く問題ではないようだ。皆様各自判断して下され。「戦争俳句と俳人たち2

笑えたと言えば「おしゃべりスパイ」なる7月初旬のニュースにも笑った。ロンドン発AFP記事によると....1930年代英国ケンブリッジ大学の学生らが左翼化して、旧ソ連のスパイとなった。人呼んで「ケンブリッジ5人組」のこの連中を、ソ連国家安全委員会、いわゆるK カ-Gゲ-Bベ-はどう評価していたか?。5人組の一人にガイ・バージェス(1911-63)がいるが、この男は「常に酔っ払っていて、英外務省から持ち出したファイルの一部を酔って道に落とした」ことあがある。もう一人のドナルド・マクリーン(1913-83)もバージェスと同様「絶えず酔っ払っていて、秘密をまるで守れない」、おまけに「家族や恋人に自分がソ連のスパイだと言い触らしている恐れあり」とて、まあ、まことにスパイらしくない。これらの事が,5人組と逆にロシアから英国に亡命した元KGBの情報員、故ワシリー・ミトロヒンの文章から判った、と言う。ところで。「ケンブリッジコミュンテル」なる一文を書いた佐伯彰一によると、イギリスでは「ロビンソン・クルーソー」の著者ダニエル・デフォー、1920年代の学生生活を描いた「シニスター・ストリート」のサー・コンプトン・マッケンジー、「アシュンデンー英国秘密情報員の生活」のサマセット・モーム、更に「007」のイアン・フレミングなど、皆スパイ組織に所属した経験所有者で、逆に言うと、この「スパイ経験あり」なる要素は,イギリス小説の特性の一つだという。「ヒトラーの最後」を書いたヒュー・トレヴァー・ローパーに言わせると,スパイは皆ケンブリッジ出で、オックスフォードは1人もいないそうだが、どうしてなんだろうね。私自身はスパイというものはつまらぬものだと思っている。どんな秘密を伝えても、その秘密を生かすも殺すも伝えられる側の政治家や軍人の器量によりけりで、例えば日本で死刑になったあのリヒャルト・ゾルゲ。命がけでソ連に渡した秘密は真実だったにもかかわらず、あっさりスターリンにポイされて無駄になった。ヤッテラレン。だから私はこのたびの「おしゃべりスパイ」には笑ったが、さもありなんで終わりだ。「ケンブリッジ5人組」の一人キム・フィルビーをモデルにしたのが、G・グリーンの『ヒューマン・ファクター』だが、これはありふれているから、アン王女の情報長官として、自ら潜入活動の専門家だった、ダニエル・デフォが18世紀の裏社会を活写した「ロンドン大盗賊伝3 」を出しておく。(写真は第2弾のもの)兄の友達の娘で、古美術・骨董を営む「緑香堂」の主松島みどりが稀な話を持って来た。「マレーヴィチって知ってる?」と言う。「画集がふくろう文庫にあるよ」と答えて、「ところで何だ?」と訊いたら、「市内のさる病院にマレーヴィチの作品が掛けてある。題は『赤い騎兵隊』(油彩。98.5抜79cm)なのにその絵は青い。インターネットで見ると、原画(?)は題名通り赤い。これはどうしてでしょう?」

私は帰宅して、水野忠夫「ロシア・アバンギャルド」、桑野隆「夢みる権利ーロシア・アバンギャルド再考」、岩本憲児「ロシア・アバンギャルドの映画と演劇」、ボリス・グロイス「全体芸術様式スダーリン」etcを見たが、赤→青の理由はわからなんだ。カジュミール・マレーヴィチ(1878-1935)は画家。「シュプレマティズム」なる抽象美術運動のリーダー。「ふくろう文庫」にある画集は「MIC」なる女性団体の寄金で買えたもの。「ふくろう文庫」への寄金は画集となって世人を潤すという訳だ。赤→青の問題と、本物かどうか(リトグラフ?)を緑と共に考えないといかんな。

 

  1. 阿倍猛.近代詩の敗北.産学社(1980) []
  2. 樽見博.戦争俳句と俳人たち.トランスビュー(2014) []
  3. ダニエル・デフォ.ロンドン大盗賊伝.廣文堂(1987) []

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