2019.12.11寄稿
2018年11月末だったと思うが・秋篠宮が五穀豊饒を祈る「大嘗祭」は皇室行事であって、これに国費を当てるのは、憲法に定められた政教分離に違反する事だから、これにかかる経費は天皇家の私的生活費たる「内廷費」を使うべきだと発言した。これ聞いて、私は実にまともな考えだと感心し、かつまた皇族の中にもかように国民主権、政教分離についてきちんと考えている人がいるんだなと、或る意味感心もした。しかし世の中様々だから、或る週刊誌なぞはこの意見をからかって次のようなことを言ったりした。「即ち秋篠宮は経費のことをあれこれ言うが、そのくせ自分及び家族が外遊する時には、大嘗祭にかかる費用よりも多額の金を使っている。この経費の方が問題で、何やかんや言うならこれを止めた方がいい」云々。無論安倍政権は、秋篠宮の意見なぞどこ吹く風で、「皇室の伝統を尊重」の一点張りで周知の如き祭りを強行してしまった。しかし歴史学者中島三千男によると、この「伝統云々」はでたらめで、(既に行なわれてしまった)純神道式の「代替わり儀式」なるものは「たかだか150年前の明治以降に新しく創られた伝統に過ぎない」のだという。もっと笑わせてくれるのは奈良時代から江戸時代までの1100以上は、その即位式たるや中国風の服装で行われたというから、今盛んに「嫌中」を強調している連中、これを知ったらかなりショックを受けるのではあるまいか。
ついでだから一つ加える。NHKに安倍べったりの岩田明子なる政治記者がいる(といっても私は見たことがないが)「神道」大好きな安倍流に言うと、この岩田はさながら安倍の「巫女」よろしく、「大嘗祭は極めて重要な伝統的皇位継承儀式」云々と歴史を無視した安倍の御託宣を、安倍に代わって番組で下々に伝えていたとのことだ。さて「大嘗祭」はこの辺りにして、現天皇は伊勢を初めとして皇室に関係のある神社を全部巡った。思うにこれは天皇の意思というよりは「国家神道」を復活させたい安倍指示によるものではあるまいか「天照大神」の子孫たる天皇と、その天皇の治める「神国日本」の再現が安倍目的だろうからだ。そこで今回は、「天照大神」他を祭神とする「神社」なるものが、「太平洋戦争」中に占領した朝鮮、台湾他の国々でどれ程の迷惑を(本当は悪事といいたいが)引き起こしたかを調査した本を出しておこう。辻子実「侵略神社1 」だ。
各地に設けられた神社は、日本の敗戦と同時に殆ど焼かれた。現地人にとっては「神社」なるもの、ありがたくはなく全く無縁のものだった訳だ。(これは新年号だから)昨年2019年でいわゆる「ベルリンの壁」が崩壊してから30年たった、ということでいろいろな記事が出た。どの記事にも「シュタージ」のことが出ている。「シュタージ」とは、社会思想史が専門の中野徹三によると、旧ソ連の「KGB](カー・ゲー・ベー=秘密警察)の全身である国家保安省「M.G.B」をモデルに1950年2月に東ドイツに設立された「国家保安省」。
その役目はと言えば、言わずと知れた対外情報活動と国民監視と弾圧。壁がこわされた時点で正職員9万1千人、財産600億マルク、東ドイツ国家予算の13%を費やす巨大組織。この恐るべき組織の元本部が今「シュタージ博物館」となっているのだが、そこにある膨大な文書は製本したものを横に並べると178kmに及ぶと言うのだからすごい。
何故そんなすさまじい数の文書があるかというと、これ600万人分の個人情報。つまり「シュタージ」は企業、学校、教会etcとあらゆる組織にひそむ反体制派を見つけるべくIM方式(=非正規職員)をとって、実に実に50万人を「密告者」に仕立て上げ、市民同士をお互いに監視させていたのだ。結果、密告し、密告されーの個人情報が600万人分。
「シュタージの犯罪2 」
先に言っておくが、このすさまじい量の文書を破棄、焼却から救ったのも、これまた心ある市民たちで、彼らは先ほど引いた中野によると、文書を国に保全させ、自分たちに加えられた密告行為の記録を閲覧して真相を知らせる権利を保障させ、また被害者の人権を守る条件のもとで研究者とジャーナリズムに文書の自由な研究を認め、2度と独裁を許さないよう市民の政治教育の資に供するシステムを生み出したという。
ルワンダのフツ族ツチ族の抗争中におきた虐殺で、隣の小父さんがナタで殺しに来た、と言うような話が沢山あったが、東ドイツの密告も同様で、長年連れ添った夫が妻を密告していたとか、親友と思っていた男が自分を密告していたとかーそうした情報がつまっている文書なので、逆に閲覧を希望しない人も沢山いるという。ここで、親友に密告された例を一つ。ライナー・クンツェと言えばスエーデンやオーストリアなどの外国文学賞を受けた作家で私の書棚にも「素晴らしい歳月」(大島かおり訳,晶文社、1982年刊)がある.1968年チェコ事件を機に、77年に西独に亡命(というより追放されたが)、彼を密告したのが親友のオブラヒム・ベーメで後に東独社会民主党議長となった男。クエンツェは後に先に記した文書でこのことを知りことの顛末を自ら書いたのが「暗号名”抒情詩”ー東ドイツ国家保安機関秘密工作ファイル3 」(草思社)だ。
私はサッカーをしないし観もしないが、新聞に出るサッカー選手の互いの人種差別、ファンの同じ行為には注意を払っている。目下ラクビーだ、サッカーだと何やら乱痴気さわぎだが、「独裁国家」はそのサッカーまでを己の体制に組み込むもので、組み込まれた結果のすさんだ有様を他山の石として出しておこう。本当は陣野俊史の「サッカーと人種差別4) 」(文春新書)を出したいが、「シュタージ」の後だからナチス関係を出しておく「ナチス第三帝国とサッカー5」だ。オリンピックで浮かれ、「桜を見る会」を忘れている中に,雲ゆきあやしい、てなことにならなければいいけどな。
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