第413回 憲法改正と進化論

2020.7.11寄稿

もう40年余りも昔の話になるが、当時室工大にいた私のところへ帯広私立図書館長のTを介して帯広市長から一つ教えてくれとのTELが来た。

それは施政演説に関してのことで、演説中に「ナントカカントカ」との引用句を入れたいのだがが、その引用句の主(記憶では)H・G・ウエルズのどの本にその言葉があるのかを知りたい、と言うものだった。「ナントカカントカ」の正確な言葉は忘れてしまったが、これは中々厄介な質問だった。それでも、自分のところの図書館では埒が明かなくて私に問うたのだろうから、その折角の信頼に答えるべく私は、まあガンバッタ。Herbert George Wells(1866−1948)とくればSF小説の元祖「タイムマシーン」の著者だ。「タイムマシーン」とは過去や未来へ時間を超えて自由に行き来出来る空想上の機械で、ウエルズの造語だ。ウエルズは他にも進化論、社会主義の立場に立つ、小説や文明批評も発表した。私は手持ちの本に全部当たってみたが、該当する言葉は見つからない。止むなく私はウエルズを専門とする教授が母校、明治学院大学にいるのを幸いに、手紙を出してみた。ややあって来た手紙には、自分の記憶の限りではウエルズがこのようなこ事を言ったのを聞いたことも見た事もない、とあった。で私は、残念ながら、として事の次第を市長に告げた。この市長がもしこの「調べ」を行わず演説で発表してしまたら、この「ナントカカントカ」は「H.G.ウエルズ曰く」とされて、一人歩き始めた事だろう。つまり、市長の調べは、軽重は別として一つの誤りが生まれる事を防いだ事になる。ところで、そうした「調べ」の手紙を踏まぬ横着者がいる。竹田恒泰だ。このハッタリ男が無知な聴き手に、いわゆる一発「かます」場面を前号で紹介した北原みのりの「奥様は愛国」から引こう。

①昭和天皇はマッカーサーに初めて会った時、「私一人を処刑してほしい」と言ったそうで、聞いたマッカーサーはその時「神のような帝王を見た」との感動から、「この人のためなら死ねるかもと思った」と竹田はその場にいたかのように語る。然しこれは竹田の創作、つまり「作り話」だ。竹田が「キリスト教徒であるマッカーサーが天皇を神にたとえたんですよ!」と語るのを「変だ」と冷静に受け取った北原は帰宅して調べた結果、マッカーサーが日記に記したのは「(天皇)は日本一の紳士だ」のたった一行だと知る。

その②「世界的に有名な歴史学者トインビーが、12.13歳までに神話を教えなかった民族は滅びる!と言っています」と言い切る。竹田の頭には言う迄もなく天照大神他がいる。聞いた北原によると竹田は出典を言わぬと。Arnold Joseph Toynbee(1889-1938)の「歴史研究」は全12巻という膨大なもので、シュペングラー(Oswald Spengler,1881-1938)の「西欧の没落」に比すべき問題作だ。それはともかく、竹田のこうしたハッタリによってマッカーサーもトインビーも言わなかった言葉と思想が、彼らの言葉と思想として広がっていく。危険な事だ。竹田はガラクタを上等品として言葉巧みに売りつける香具師や的屋と同類の人間だ。ところで過グル6月、本人が言っても書いてもいない事を、言った、書いたとする竹田流の出来事があった。自民党が話の主だ。

私はスマホなるものを持っていないから直接見ていないが、新聞によると自民党の広報サイトでダーウインの進化論が誤って引用された上、その誤用を利用して、「今憲法改正が必要なのはこれ故だ」とやったらしい。これはナンデモ憲法解説サイトの4コマ漫画に出されたもので、それによると「最も強いのが生き残れるのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残る事が出来るのは変化できる者である」ダーウインが「進化論」で言っているので、じゃによって憲法改正が(つまり変化)が必要だと力んでいるのだという。ところが、これに対して「相変わらず進化しないね、自民党は」と言う習志野在の「紋士」なる人の揶揄を初めとして、紙上に反論が相次いだ。㋐ダーウインは一言もそんなことを言っておりません。㋑生物学者として看過できない。㋒誤用は社会的にも教育的にも悪影響ですので撤回してください、等々。極め付きの反論は、会長を長谷川真理子総合研究大学院学長がつとめる「日本人間行動進化学会」による声明で「変化できる者である」云々の文言はダーウインの著作には全くなく、進化論の主張と異なるものだ、として曰く、「ダーウインの進化論と言う科学的知識が社会的影響力を持つ団体や個人によって誤用されることに反対する」と。それにしても安倍を取り巻く連中は「アベノマスク」といい。「歌う動画に合わせて」といい世間常識と大いにズレルことばかりやると思っていたら今度は科学ともズレチャッタ。

と言う訳で、そのズレタ連中と一緒にされぬよう此処でもう一度ダーウインについての知識を確かめましょう。そこで、極め付きの反論を出した学会長、長谷川真理子訳、ジャネット・ブラウンの「種の起源1 」を出しておこう。

ところで、ブッシュやトランプの国アメリカは妙な国で、進化論を否定する人間が多勢いる。中でも猛烈なのが福音派と呼ばれるキリスト教右派。この連中は未だに神が月〜土までの6日間で宇宙と生物を創り、日曜日には疲れて休んだとする旧約聖書の「創世記」の信奉者だ。平たく言うと「私が猿の子孫だなんてとんでもないわ」と言う立場。こうした連中が教育界ではびこると如何なることに相成るか当然学校の生物の授業ではダーウインを教えてはダメ、教えて教師はクビとなる。この頃は流石に「神」がこの世を創りたもうたと言うと、”馬鹿じゃなかろうか”と言われかねないので「神」を「知的存在」と言いかえ、それによる「創世」だとして「ンテリジェント・ザイン=ID」なる呼称で、運動を進めている。これに抵抗するのは中々大変だ。その間の事情を知るために鵜浦豊「進化論を拒む人々2 」とナイルズ・エルドリッジの「進化論裁判3 」を出しておく。ところで「早い者勝ち」なる言葉がある。ダーウインはこれではないか、つまりダーウインと同時に「進化論」を達成していた男がいて実はこの男の方が….という話だ。アーノルド・c・ブラックマンの「ダーウインに消された男4 」はその辺の事情を語る。これ、かつて開高健が「面白」と絶賛した本。今日7月11日。水害+コロナも止む気配ナシ。進化しないのは政治だ。


  1. 長谷川真理子.種の起源.ポプラ社(  ) []
  2. 鵜浦豊.進化論を拒む人々.勁草書房(1998) []
  3. ナイルズ・エルドリッジ.進化論裁判.平河出版(1992) []
  4. アーノルド・c・ブラックマン.ダーウインに消された男.(1997) []

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