第415回(ひまわりno231) 歪んだ正義 戦争と図書

2020.9.11寄稿

イラク戦争は2003年に始まった。ジョージ・W・ブッシュ大統領の命令によってだ。当時はアメリカ国内で愛国主義者が異様な程に高まっていた。何故か?

2001年9月11日同時多発テロがあったからだ。これをきっかけにブッシュはイラクが「大量破壊兵器を保有している」として.2003年3月イラクに侵攻したのだ。この開戦理由を是としたのはニューヨーク・タイムズをはじめとする大手有力紙だ。最初はブッシュを疑っていたらしきあの賢明(?)なパウエル国務長官でさえ、結局国連でこの「イラクの核保有」を主張する演説をやった程だ。然し、結果としてこの「核保有」説は嘘だった。...と言う訳で...ロブ・ライナー監督の「記者たち・衝撃と畏怖の真実」を観た。① イラク侵攻の大義名分はない。② 「核兵器保有」は政府のデッチアゲだと暴いた中堅新聞社のナイト・リッダー社のワシントン支局の物語だ。ブッシュ政権の中には戦争をやりたくてたまらない一味がいて(例えばラムズフェルド)この連中がイラク侵攻のシナリオを作り、国内外に嘘の情報を流し世論を誘導する。つまりはこの戦争、国防総省内にある秘密の戦略グループの悪しき思惑によって始まった無意味極まる戦争だったのだ。だまされたのは大手メディアや大物政治家のみならず国民もだ。挙句無駄な血が流されたのは読者既にご存知の通り。ニューヨーク・タイムズとパウエルはあとで国民に謝罪したが、ブッシュは知らんふり。もちろんそれに加担した日本政府もしらんふり。この佳作を観た後、私は思いついておオリバー・ストーン監督の「W」、つまりジョージ・W・ブッシュの伝記映画を観直してみた。愚かなるブッシュの愚行に鼻白むことしばしばだったが、まあ最後迄観て、平凡ながら「何でアメリカ人はこんなアホを大統領にしたのか」と歎ずることしばしばだったが、8年弱も安倍を選び、また今菅を選びそうな日本を見れば大きなことは言えないな。

ところで、このオリバー・ストーンが9月1日に墨田区で行われた「関東大震災97周年朝鮮人犠牲者追悼式典」に追悼メッセージを寄越した。今年も小池百合子は追悼文を寄越さない。石原や、猪瀬さえを含む歴代都知事が皆追悼文を寄せていたのを思うと、小池の行為は非常にかたくなで悪意があるものに思える。このことについては、私は既に2019年2月号の「ひまわり」即ち本欄で①加藤直樹の「九月・東京の路上で1」(ころから.2014年刊、¥1,800)と西崎雅夫の「証言集 関東大震災の直後・朝鮮人と日本人2 」(ちくま文庫、2018年刊。¥900)をとりあげているので是非読んで欲しいい。ところで、日本人は何故朝鮮人を虐殺したのか。毎日新聞の専門記者という大治明子は「歪んだ正義」という概念を指摘する。これは「自分は絶対に正しい」という思い込みから来る。ベトナム戦争では、米兵らは「アメリカ」を背負っての「正義」を御旗にして、ソンミ村の村人をモノとみなして虐殺した。では関東だ震災では、その「歪んだ正義」は何だったのか。ここで今年8月25日発売という刊行ホヤホヤの本を紹介する。藤野裕子「民衆暴力 一揆、暴力、虐殺の日本近代化-3 」(中央新書,¥820+税)藤野は中の第5章「民衆にとっての朝鮮人虐殺の論理」で「関東大震災時には暴力の正当性を独占していたはずの国家が民衆にその正当性を委譲して”天下晴れての人殺し”の許される状態が作り出された」と言う。「アメリカ」なる「正義」を背負った米兵同様、こっちは「日本」なる「正義」を背負って、日本をダメにする朝鮮人をこらしめてやろう、という訳だ。(下線山下)

これは「在日特権を許さない市民の会=在特会」の会員が「愛国者として社会貢献したかった」から朝鮮人を攻撃するとの意見と連なるののだ(安田浩一他、「ネット右翼の矛盾4 」、宝島社新書)朝鮮人を攻撃していい理屈はなぞ何一つないのだ、ということが分かる人々が多くなればなるほど世の中の仕組みも今よりはよくなるのでは!!

愚かなブッシュを選んで充分にこりた筈のアメリカ人が今又ブッシュに輪をかけたトランプの下で苦労している。日本にとって同盟しているアメリカこそ一番「他山の石」になり得るのではないか。ブッシュもトランプもバカだが、レーガンもバカだった。かつてレーガンは軍事費を捻出するため議会図書館員300人の首を切り、夜間開館を停止し、本代大削減と出た。館長ブースラインは「知識を過小評価する国家は自由ではあり得ない」との論でこの暴挙に抵抗した。

さて、目下世界各地に事あらば戦争したい独裁者がトランプをはじめとしてはびこっている。そうした中、91歳になる山崎元が戦争になってしまえば、図書館も軍に協力せざるを得なくなるぞ、と懸念の声を発している。

この人夜間中学で学びながら14歳で上野帝国図書館(現国立国会図書館)で働き始め、更に法政大学の二部を出て定年まで勤め上げた司書界の長老だ.1991年には新日本出版社から「発掘・昭和史の狭間で」を出した。この本については1995年4月号の本欄で紹介した。ここで一寸横道にそれるが、現法政大学の学長田中優子は明確に反安倍の立場、山崎ももちろん同じで2人とも国の行き先を案じている。それなのに、同じく法政二部を出て叩き上げの苦労人と世間がもてはやす菅が「安倍の志を継ぐ」と言い、どうやら日本の未来を暗くしそうな感じだ。同じ苦労をしても身につけたものは違うらしい。

さて、山崎は帝国図書館には、日本軍がアジア諸国から略奪してきた本が「開かずの間」に集められ、職員すら見入る事が許されなかったという….その数凡そ10万冊。その略奪を一言で言えば、日本はアジアの盟主として指導的立場に立つと言いながら(これを当時の言葉で言えば「八紘一宇」のスローガンの下)行った先々(植民地他)の大学を焼き、本を奪いと文化の創出とは正反対の所業を続けたのだ。南京一市だけでも86万冊の本を奪ったなどの細々した例は挙げない。代わりに松本剛の「略奪した文化ー戦争と図書ー5」(岩波書店)と加藤一夫他の「日本の植民地図書館〜アジアにおける近代日本図書館史ー6」(社会評論社)をあげる。ぜひ読まれたし。



とにもかくにも戦争をしてはならぬという事。他の土地に攻め行ってはならぬという事。自他ともに殺してはならぬという事。他の国の宝をガメってオイテ、自国の文化が豊かになる筈がない。

 

  1. 加藤直樹.九月・東京の路上で.ころから(2014) []
  2. 西崎雅夫.証言集 関東大震災の直後・朝鮮人と日本人.ちくま文庫(2018) []
  3.  藤野裕子.民衆暴力.中央公新書(2020) []
  4. 安田浩一他.ネット右翼の矛盾.宝島新書(2013) []
  5. 松本剛.略奪した文化ー戦争と図書ー.岩波書店(2015) []
  6. 加藤一夫他.日本の植民地図書館.社会評論社.(2005) []

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