第420回 半藤一利のおすすめ本(ひまわりno236)

2021.3.1寄稿

昭和史研究家で知られた半藤一利が今年1月12日90歳で亡くなった。そこで、2月13日にに加藤陽子が「朝日」の読書欄で、半藤の著作で読むべきものとして3冊すすめている。
これを真似して私も半藤の本と思うが、その前に加藤陽子について書く。加藤は1960年生まれの現、東京大学教授で専門は日本近現代史。今本を読む人でこの人の名を知らぬ者はいないと思われる。と言うのは、例の菅の「日本学術会議」の拒否問題で、菅が拒否した6人の学者の中の紅一点で、しかも菅が名前を知っていたのはこの人だけだったというおまけがつく。この人が拒否されたことで多くの人がこの問題の異様さに気付いた。例えば日大の石川隆文教授は任命拒否を知って「加藤さんが除外されるのはあり得ない」と驚いたと言い、「直感的にこれはただ事ではない」と思ったと言う。加藤が右でも左でもない公平な学者だと言うことは多くの人が口を揃えて言う。 石川は更に「この任命拒否を放置しておいたら”何でもあり”になってしまう」と言い「ここで自分が何もしなかったら(民主主義を主張してきた自分としては)言行不一致になってしまう。早くスタートした方がいいと思いました」と足す(詳しくは毎日新聞2020.11.22の「文化の森」での「森健の現代を見る」を読まれたし)

因みに私も「あんな本〜 」の今年の最初(12月、1月合併号)で加藤の「それでも日本人は戦争を選んだ1 」(新潮文庫)と「止められなかった戦争2


(文春文庫)をすすめておいた。さて加藤に戻る。加藤陽子は半藤の読むべき本として①「日本の一番長い日3 」(決定版)/文春文庫¥700+税

②『「昭和天皇実録」に見る開戦と終戦4 /岩波ブックレット¥726

③「靖国神社の緑の隊長5 /幻冬社¥1340の3冊をあげる。

私がすすめたいのは「万葉集と日本の夜明け6 」PHP文庫/|770+税だ。

半藤は東大を出るとき、卒業論文に「万葉集」をやろうとしていた。ところが、級友が言うには、クラスに中西進というのがいて、この男は万葉集4600余句を全て暗記している男だ。そんな男に比べたらお前は〜と言われて「堤中納言物語」に変えたという。ここで言う中西進とは御存知「令和」を選んだ(とされる)万葉の大学者、中西進のことだ。とは言っても半藤の万葉集への愛は消えることなく、後年書きあげたのがこの本。この本の第二部は「長安の山上憶良」で、数年前、秋田の建築家西方里見・耿子夫妻と一緒に西安=長安に旅した私には一番面白い部分だ。序でだから「令和」で嫌なことを一つ書いておく。今問題の菅の馬鹿息子正剛が東北新社の宴会芸で「令和」と書かれた色紙を掲げ「令和おじさん」の物真似をしていたと言うのだ。菅は「息子は別人格だ」などとトボケテいるが、息子の方は親爺と一体となったつもりで、つまらぬ真似をして十分に利用しているのだ。それにしても馬鹿息子のあのウスギタナサハ一寸ない図だね

日本学術会議」が問題となるとこれが。戦前の滝川事件と同じとする論者もたくさん出たこれは昭和8年(1933)鳩山一郎文相、京都大学の滝川幸辰(たきがわ ゆきとき)教授を、その書「刑法読本」の内容が赤化思想(共産主義)であるとして、クビにした事件。同僚や学生達が抗議運動を起こすが当局の弾圧でつぶされた事件だ。この事件を理解するに一番役立つのは黒澤明による1946年作映画「わが青春に悔いなし」だ。今でもビデオ屋に並んでいる。これは「滝川事件7 」と「ゾルゲ事件8 」をモデルにしたもので反戦の映画の傑作だ。

滝川事件では今の菅政権下と一緒で、政権にこびる教授も学生も検察もいれば、これに逆らう人達もいる、反戦思想の主とされた教授の娘(原節子)は同じ思想の教授の教え子と結ばれて苦難の道を歩む。汚れ役を演じる原節子の迫真の演技には目をみはらされる。いい機会だから石井妙子の「原節子の真実9 」(新潮文庫¥710+税)を出しておく。

さっき「ソルゲ事件」と書いたが、これは昭和16年(1941)駐日ドイツ大使顧問ゾルゲと尾崎秀実(ほずみ)らが日本の政治、軍事に関する機密をソ連に知らせた疑いで逮捕された事件。2人は昭和19年処刑された。この事件については篠田正浩監督の映画「ゾルゲ」(ビデオ屋にある)もあれば尾崎秀実の弟 秀樹(ほずき)の本もあり、またゾルゲの日本人妻だった石井花子の「人間 ゾルゲ10
 
もあるが、最近いい本が出た。安田一郎の「ゾルゲを助けた医者〜安田徳太郎と〈悪人たち〉11 」(青土社、2020刊)だ。題名通りの本だが、この京大出の医者は小林多喜二の死体にもつきそった医者だった。ゾルゲと尾崎の願いは無謀な日本の戦争を止めることだったが、それは叶わなかった。ソルゲが必死になってドイツがソ連に侵入する日を知らせた電報は泥酔していたスターリンによって無視された。スターリンは独ソ戦を控えてなすすべもなく只酔っ払うだけだったのだ。因みにゾルゲは先日国際紛争の地となったナゴルノカラバフのあるアゼルバイジャンの生まれだ。と此処まで書いて思い出したことがある。篠田正浩監督のことだ。

何年前かすっかり忘れているが「北海道新聞」が文化講演会を開いた。と言っても一般向けではなくて、経済界・実業界のお偉いさんを会員としている北海道新聞の「経済懇談会」とやらのメンバーだけが入れる講演会だ。その講師に篠田正浩が来た。その時北海道新聞の室蘭支社長からTELが来た。「篠田さんが来るけど、懇親会で彼と対話出来ると思える経済人がいない、ついては山下さんに篠田の相手をたのみたい」だった。で私はノコノコ出かけた。篠田は自分の生い立ちを語って「妻程の美人にあったことはない」とのろけた。岩下志麻のことだ。終わって懇親会となり、酒になったが、支社長の案じた通り、新日鉄やら 日鋼のエライさんを始め、誰一人篠田に近づいて来ない。日頃は偉そうな室工大のT学長もはるか遠くにいるだけだ。結果私は支社長と篠田と3人だけで語り合うことになった。と言っても支社長はしゃべらずで、会話を交わしたのは篠田と私。私は篠田とソ連の映画監督「エイゼンシュタイン」のことをしゃべり合った。私には面白い体験だったがこれ又偉いさんの篠田はもう忘れていることだろう。

スパイゾルゲで思い出したが、先の太平洋戦争中、北大で「宮澤、レーン事件」なるものが起きた。北大生だった宮澤弘幸が、旅行中に聞いた飛行場のことを北大の英語のレーン夫妻にしゃべった所、これが軍の機密を漏らしたとされて、特高につかまって懲役15年となり、戦後に釈放されたが、服役中にかかった肺病で哀れ27歳で死んだ。これはいわゆる冤罪事件だった。この事件、菅の凶々しい政治の下、改めて留意すべき事件と思われる。是非読まれたし!本の問い合わせは「千代田区労働協議会」tel/03-3264-2905 fax/03-3264-2906

  1. 加藤陽子.それでも日本人は戦争を選んだ.新潮文庫.(2016) []
  2. 加藤陽子.止められなかった戦争.文春文庫(2017) []
  3. 半藤一利.日本の一番長い日.文藝春秋(1995) []
  4. 半藤一利.「昭和天皇実録」に見る開戦と終戦』.岩波ブックレット(2015) []
  5. 半藤一利.靖国神社の緑の隊長 .幻冬社(2020) []
  6. 半藤一利.万葉集と日本の夜明け.PHP文庫(2016) []
  7. 松尾尊ヨシ. 滝川事件.岩波現代文庫(2005) []
  8. 加藤哲郎.ゾルゲ事件.平凡社新書(2014) []
  9. 石井妙子. 原節子の真実.新潮文庫(2019) []
  10. 石井花子.人間 ゾルゲ.角川書店(2013) []
  11. 安田一郎.ゾルゲを助けた医者〜安田徳太郎と〈悪人たち.青土社(2020) []

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