第424回(ひまわりno240)「犬人怪物の神話」「オリンピックマネー」「中国人民共和国史」他

2021.7.4寄稿

ルーマニア国内での受賞8ケ、カンヌ映画祭他での受賞4ケetcの前触れの映画「ホイッスラーズー合図の口笛」を観た。観るは観て退屈はしなかったけれども、実のところよく分からない映画だった。

ジャケットの説明で、麻薬に絡む犯罪ミステリーだとは見当がつくのだが、その筋道と人間関係が分かったようでわからない。政府筋の人間なのか、暴力団同士なのかが、ナンダカハッキリしない。組長の情婦らしき女と、捜査側(と思われる)男が男女の関係になって、とどのつまり、この二人が、全員を出し抜いて、シンガポールに逃げとなるのだがー繰り返すがモヤモヤしている。おまけにこの連中互いの連絡に指笛を使う。使うどころか会話もそれでやる。とまあ、変な映画だったが、この話の舞台となるのが、字幕でカナリア諸島のゴメラ島だと分かる。呆気にとられる程の絶景又絶景で、世の中にはまあ想像を絶する風景もあるものだと思いながら、そのモヤモヤの中で、かつてカナリア諸島を調べた事と、それに関連する一冊の本を、こっちの方は、はっきりと思い出した。

架蔵の「世界地名語源辞典」(蟻川明男著、古今書院,1995刊)によれば「スペイン領カナリア諸島(canarias)は、1406年スペイン人が上陸した時、夥しい数の犬を見たので、、中世ヨーロッパの伝説にある(犬頭人)の話に結びつけた。カナリアの原産地」となる。間違って欲しくないのは鳥の「カナリア」がいたからカナリア諸島ではなくて、カナリア島原産だから「カナリア」だということ。又「カナリア諸島」の意味は「犬の島、もしくは「犬頭人の島」だということ。しからばこの「犬頭人」は一体何なのか?それを解くのがディヴィット・ゴートン・ホワイト著、金利光役「犬人怪物の神話ー西欧、インド、中国文化圏におけるドッグマン伝承ー1 」(工作舎、2001)。

著者が言うには多くの民族は、自分達の先祖を人間の女と犬が交わって生まれた者と考えている。例えば、エジプトではジャッカルと人間の女が、インドでは狼と人間の女が、ーとなって、エジプトでは犬の頭を持ったアヌビス神が出来たという。私が「犬頭人」の話で好きなのは、中国南部のミャオ族、ヤオ族の話だ。彼らは国王の娘と盤瓠なる犬との間に生まれた人間なのだ。伏姫(ふせひめ)と犬の八房(やつふさ)が交わってーと展開する滝沢馬琴の「南総里見八犬伝2 」は、この「盤瓠伝説」を真似たものだ。ルーマニアの映画から話が変わった所へ来たが、興味を感じた人はこの「犬人怪物の神話」を手にするといい。但し、読むにかなりの時間がかかるのを覚悟で。

日本を代表する下司(げす)で非情な無知男の麻生が又やらかした。7月20日JR王子駅前の街頭演説で「日本は先進国に比べコロナで死んでいる人は圧倒的に少ない。10万人あたりで10人、11人、そんなもん」と抜かしたのだ。オリンピックやるだけが目的のスガにはありがたかったろう。ところでそのオリンピック。今書いているこの号が出る頃には終わっているのかどうか知らないが、、私が進めたい本がある。後藤逸郎の「オリンピック・マネー誰も知らない東京五輪の裏側ー3) 」(文春新書) だ。

全部で6章仕立てだが、第2章が「五輪貴族の優雅な暮らし」IOCの規定ではホテル代1泊400ドルが上限、それなのに今回は全部五つ星に泊めて、その差額は日本が負担するという。私は2020年7月号の本欄で北原みのりと朴順梨共著の「奥様は愛国」を紹介し、その中でインチキ評論家竹田恒泰の実態にふれたが、その竹田の父親でJOCの元会長竹田恒和の汚職の問題もまだ片付いていない。私は金まみれのオリンピックなぞやる必要はないとの立場だ。IOCのバッハを「ぼったくり男爵」と呼んだのはワシントンポスト紙のコラムニスト、サリー・ジェンキンスだが、その人が雑誌「文芸春秋7月号」に「IOC貴族に日本は搾取されている」を発表している。「オリンピックマネー」と合わせ読めば、オリンピックの実態がより明瞭になって、並の人間なら、オリンピックは無用(要)との考えを持つだろうと私は思う。

習近平がやりたい放題だ。香港についても、最初は「一国二制度」を提案して、以後50年の間は香港は今まで通りにやっておればいい、と言っておきながら「香港国安法」を基に香港をいじくり回している、民主化を訴えた故に逮捕された者は6月末で既に100人を超え、それを支持した「蘋果日報」は停刊、社長もつかまった。これ、日本では「リンゴ日報」と紹介されている。この新聞の次に狙われている「立場新聞」も自主規制を始めている。一方習近平は天安門で中国共産党100年記念式典を7月1に開いた。この式典で習近平は、これからも党が「全面的指導」を続けることで「強国を全面的に築く」と打った。他国が習近平に対して「非」とする諸所については何の反省の色もない。ない所か、今年2月に出た共産党の公式テキストなる「中国共産党簡史」なる本では、諸々の災厄の生みの親たる毛沢東を絶賛し、武力弾圧そのものだった天安門事件については「果断な措置で反革命暴乱を一挙に鎮めた」と評価しているという。人間どうすればそうヌケヌケと嘘が言えるのだろう。

「中国人民共和国史4

私は呆れて20年も前に読んだ本を書庫から出してきた。ジャスパー・ベッカーの「餓鬼〜秘密にされた毛沢東中国の飢饉5」だ。

習近平らはこれをどう説明出来るのだろう。もう一冊、これもまた30年も昔に読んだ本だが、ハリソン・E・ソールズベリーの「天安門に立つ6 」も出してきた。この人「人民の軍隊」を名乗った「人民解放軍」が呆れたことに「民主」を要求する学生達(これを先述のように、習近平は”反革命暴乱”と呼ぶ)に銃を向けた日に、たまたま天安門広場に近いホテルに泊まっていた.1955年「ロシアのアメリカ人」でピューリッツア賞をとったジャーナリストだ。その人が書いた「天安門事件」の一部始終だ。

そう言えば、作家の水上勉もこの6月4日北京飯店の7階から戦車の占拠する長安街を眺めていた。序でだから習近平が現れる前の「歴史の中の中国文化大革命7 」も出しておく。加賀美は大著「中国文化大革命事典」を出した人だ。もう2点変わった本を出しておく。紙幅がないので中身は書影で判断してくだされ。以上古い本だが、私はやったことがないが。アマゾンとやらでさがせるのではないか。

「中国文化革命の大宣伝8

「目撃!文化大革命9

  1. ディヴィット・ゴートン・ホワイト.犬人怪物の神話ー西欧、インド、中国文化圏におけるドッグマン伝承ー.工作舎(2001) []
  2. 滝沢馬琴.南総里見八犬伝 .河出文庫(2003) []
  3. 後藤逸郎.オリンピック・マネー誰も知らない東京五輪の裏側ー.文春新書(2020 []
  4. 天児慧.中国人民共和国史.岩波新書(2013) []
  5. ジャスパー・ベッカー.餓鬼〜秘密にされた毛沢東中国の飢饉.中央公論新社(1999) []
  6. ハリソン・E・ソールズベリー. 天安門に立つ.日本放送出版協会(1989) []
  7. 加賀美光行.歴史のなかの中国文化大革命.岩波書店(2001) []
  8. 草森紳一.中国文化革命の大宣伝 上下.芸術新聞社(2009) []
  9. 土屋昌明編著.目撃!文化大革命.太田出版(2008) []

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