司書独言(249)

◯月◯日/12月12日、佐藤蛾次郎が78歳で死んだ。「男はつらいよ」で笠智衆が扮する御前様の寺男の「源ちゃん」役の男優だ。私は「男はつらいよ」の前に、この男を知っていた。それは….昔中島町に「中島映劇」があって、下が日本映画、上が洋画をやていた。ある時下での日本映画の時だ。蛾次郎扮するチンピラがオートバイに乗って現れたはいいが、土地の若い者に「お前はどこの奴だ?」と因縁をつけられる。すると蛾次郎が答えるには「俺か、俺は室蘭の中島の出身だ」とか言う。

◯月◯日/これには満員の観客が吹き出すと同時拍手喝采なった。思っても御覧(ごろう)じろう。中島の中心街にある映画館で「中島だ」と来る者、客が喜ばない筈がない。それにしても、あの映画のタイトルは何て言うのだったか、それで、11月23日に四国は松山の俳人で私の本を読んでくれている栗原恵美子さんが送ってくれた、立花珠樹の「日本映画の再発見ー観れば納得の100本」(言視舎)を出して探してみた。するとP66に1968年に山田洋次の「吹けば飛ぶような男だが」が出ていてこれがどうもそれらしい

◯月◯日/主演は「なべおさみ」、息子の大学入試の裏口合格でミソをつけてしまったの俳優だ。相手役の家で娘には緑魔子、なべおさみの弟分が蛾次郎で、筋は?となれば、立花は「東京の下町や北海道が舞台で〜」と書くから、おそらくこれだ。栗原さんに感謝の意味でここに書影を出しておこう。俳優と言えば江原真二郎も85歳で9月27日に死んでしまった。然しどうして蛾次郎のセリフに「室蘭、中島」が出たのだろうか、この映画の関係者に中島出の者がいたのだろうか?

◯月◯日/今まではメガネをかけて1.0まで見えたが、12月に入って白内障の手術をした両目だ。手術の間私はオスカー・ワイルド事を思っていた。あの警句を持って鳴る英国の作家だ。昔読んだ本で、ワイルドの父親は確か眼医者で、ある時患者の斜視を治そうとした所、目の筋を切り過ぎてしまい、斜視を通り越して目玉がでんぐり返ってしまい、つまりは「裏目」になった云々の話を読んだ事があるからだ。

◯月◯日/自分の手術が失敗するとは思わなかったが、私は手術の前に医者に、もし手術中にくしゃみがしたくなったらどう合図すれば良いかと聞くと、医者は消毒が終わって目にカーテンがかかった後は口で言ってくれと言う。これを聞いていた看護師は、今迄手術中にくしゃみをした人は一人もいないと言うそんなもんかね。「人が悪口言うと、くしゃみが出る」と言うことわざがある。私は人に愛されている自信がないから手術中は誰も私の悪口は止めてくれと願うのみ。

◯月◯日/然しくしゃみはマイナスのイメージしかないのかなあと「ことわざ辞典」に当たったら、人が恋してくれるとくしゃみが出るとして「万葉集」2637と出てきた。で居間に置いてある岩波文庫のそれを見ると「うち鼻(はな)ひ鼻(はな)をそひつる剣太刀身に添(そ)ふ姉(いも)思いけらしも」とあって「鼻がムズムズしてくしゃみをした。身に添うあなたが私を思っているらしい」とあり、「劍太刀」は「身に添」の枕言葉だと。

○月○日/岩波文庫を出してびっくりしたのは、前にも調べたらしく、NO2637の所に「しぐさの民俗学」の273pをも見よと書いてあることを忘れていた。白内障の後は認知症かな。まあ手術中のくしゃみは困るとして、他の時間には構わないから「誰ぞ私を恋してくれ」と願いたい。目がでんぐり返えりもせず無事手術が終わって帰宅してワイルドの伝記を見ようとおもったが、書庫は暖房していないので、外気温マイナス5の今日は入るのが億劫だ。それで書庫入り口においてあったロバートヘンドリクソンの「英米文学エピソード事典」(北星堂1988)で調べたが、ワイルドの項には「裏目」の話ナシでこれは春が来るまでの宿題としよう。

○月○日/何年前か忘れたが、室蘭の焼き鳥屋に「酒場詩人」と名乗る「吉田類」とやらが来て、そこに当市の市長が駆けつけた、との記事が出たことがある。それから暫くして、千歳空港でのこと、乗り場の入り口に何やら見た記憶の男がいて、これが吉田、その吉田を見ていると係員の脇に立ち「俺が吉田だよ」と見せたかった訳だ。これで私は自意識過剰のこの男が一度で嫌いになった。

○月○日/それが新聞のTV欄を見ると、ナント、ナントこの嫌味な自己顕示欲の男がの「酒場放浪記」を年越しの4時間特番でやるとある。私はTVは見ないがそれにしても、いくら年末だとしても、取り上げるべき問題は他にいくらでもあろうになあ。例えば今日12月19日の朝刊には政治資金収支報告書で、からっ岸、何もせぬ岸田が、前年比46%増の2億2926万円と出ている。2位は品のない麻生で2億1950万円だ。こう言うのを見て、TVの番組を作っている連中は何も思わんのかね。

○月○日/レスラーのアントニオ猪木が死んだ。昔この男とアメリカのボクサーが戦うとて評判になったが猪木は寝たきりで足払いするだけ、強打のボクサーはこれを避けるためピョンピョンと飛び上がるだけ、で戦いと言えるものではなかった。ところがこの胡散臭いレスラーが死ぬと、新聞やTVで持ち上げるものがではじめた。まともな批評と思われるのは、私が読んだ中で中では東工大の中島岳志位ではなかったか。

○月○日/ 猪木のインチキぶりは数々あるが、今、岸田が、妙に原発に力をいれているのでその関係の話にする。佐高信の「原発文化人50人斬り」(光文社、知恵の森文庫)に出ている話だ。青森の知事選挙に絡む話で、最初猪木は原発一時凍結派から150万円で応援に来てくれと言われて来るはずだったが、推進派のバックの電事連と言う所が1億円でどうだと来て、猪木は慌てて150万円を返して1億円の方についたと言うのだ。佐高は猪木の秘書だった佐藤久美子の「議員秘書、捨て身の告白」(講談社)によって書いている。

○月○日/ 私の書棚に原発の本が多数並んでいるが市の中に小出裕章の「フクシマと東京オリンピック」があって、中にオリンピックが日本に決まった時の写真が出ている。アベだ、森だ、岸田だ、と日本を滅ぼしにかかっている連中が勢揃いして両手を突き上げて万歳している。いい機会だから、これも書影を出しておく。表紙を見るだけで事の重大さがわかる筈だ。来年、日本は増々ダメな国になるだろうな。今回は書影をたくさん載せたので、この辺でやめる。

○月○日/ 一つ足す。過ぐる11月9日、東京地裁は産経新聞社とジャーナリストの門田隆将に計220万の支払いを命じた。払う先は、立憲民主党の小西洋之と杉尾秀哉の両参議院議員。ことは森友問題で両議員が財務省に乗り込み、1時間にわたって職員を吊し上げ、それで職員が自殺したと、産経と門田が書いたと言う事件、これが事実無根と分かった訳だが、私が呆れたのは門田。このインチキ男について私は去年の3月19日付けの「本の話」第852回の「前代未聞のデマ作家」と題して取り上げたのでここに出しておく。この男は懲りもせずインチキ家業を続けている訳だ。私がこの「本の話」を出したあと読書家の友人2人から「いやー知らないで門田読んでましたよ」と告白(と言う程でもないが)された。こんな偽ジャーナリスト(と言うのも腹が立つが)は早く干さねばだめだ。


2022、12月9日

山下 敏明

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください