司書独言(76)

`07.12月寄稿

○月○日 まだ商社マンだった頃、琵琶湖湖畔のホテルを会場として、社長連中との合同研修会に出席させられた事がある。2泊3日だったが、つまらぬ講義にウンザリして夜の懇親会にも出る気が起こらず、私は持参の本を読んでいた。持って行ったのは、エレンブルクの「フランス・ノート」と大江健三郎の「短編集 」だった。

同室の人がそれを見て、それは仕事の役に立つ本ですかと訊いて来た。仕事の役に立つとは成らなかったが、まあ司書になるべく、又人間たるべくと言う意味ではきっと役にたったのだろう。

ところで、その大江が被告として今大阪地裁で口頭弁論に出廷している。太平洋戦争中の沖縄での戦いで、沖縄の人々が集団自決した事に関連して、これを自著の「沖縄ノート」で軍の命令だったとした大江を、座間味島の守備隊長だった梅沢裕が命令は出していないとして、大江と出版社の岩波書店を相手に出版差し止め他を求めて提訴された事件だ。

○月○日  大江は一方、「9条の会」の全国集会で、この大阪地裁での経験に触れ、次のように言う。“〜2007年11月9日、大阪地裁で私を尋問した相手の弁護士は、曾野綾子さんの本を朗読しました。「国に殉ずるという美しい心で死んで行った人々を命令で強制されたと言うのは、その死の清らかさを貶しめるものだ」と。私には理解出来ません。渡嘉敷島の集団自決で、赤ん坊、老人、女性の方が多く死んでいる。その前で「美しい心」と言う恥知らずな言葉を言う者らに対して、私の母が言っていたように、口をひねり上げてやらねばならんと思ってます。〜”

曾野綾子はペルーから亡命里帰りしたフジモリの時も、「窮鳥懐に入れば猟師もこれを救う」とか言って、自分の別荘とやらにかくまったが、これ又「私には理解できません」の部類で、どうにも不可解な言動をするひとだ。

○月○日 室蘭にも既に進出して来ているゲオやTSUTAYAの本のの売り上げは、今や紀伊国屋や丸善を超えていると聞いて驚いたが、そのTSUTAYA株主の第三位がブックオフなそうで、これ又驚きだ。こういうフランチャイズ方式の本屋ばかりが、はびこってとなると、出版文化の行方は如何なるものになるのであろうかと考えさせられる。因みに、フランチャイズ・チェーンとは、中央組織が一括仕入れ、製造を行い、小売店に一手販売権を与えることだそうな

○月○日  ブックオフと言えば、アメリカで空港やホテルに500店舗だしている「パラディーズ・ショップ」なる会社が、同社のチェーン店で買った本ならば、6ヶ月内に返品を認め最初買った時の時価50%を返金してくれると言う「Read&Return」方式を打ち出した由。返品された本はどうなるかと言うと、半額で再販されるのだそうな。

○月○日 「ふくろう文庫ワンコイン講座」も既に3回を終えた。その入場料+私の著書「本の話」の売り上げで、第一回の「七夕と北斎の謎」では「広重旅絵日記」を第二回の「お化けと幽霊」では同じく広重の「60余州名所図会」を第3回の「崋山対長英」では「渡辺崋山全集」全3巻を買った。こうしてふくろう文庫の中味が充実していくのは嬉しい限りだ。第4回目は、「琳派-光琳から抱一まで-」と題して、俵屋宗達から始まった絵画の流れが、尾形光琳によって絶頂に達し、その流れが100年後の江戸で、酒井抱一によって再興されるまでの歴史を語るつもりだ。入場者が多ければまた新しい本を買える。どうぞ大挙して来て下さい!!

○月○日 御存知宮澤賢治は鉱石が好きで「賢治のハンマーでたたかれなかった石はない」と言われる程だったそうな。その賢治が集めた16個の石が岩手大学の土壌学講座の物置に放ったらかされていたが、賢治の集めた物と分かって、直ぐさま資料館内で一番厚いガラスのショーケースに入れられて展示された由。但し「石としての価値は全くない」そうな。ショーケースと言えば、室工大時代に私が焼却から救った全3冊のオランダ語の「工兵(学)全書」も今ではショーケースに入れられて、門外不出となっている。その門外不出振りは仲仲の物で、07年4月に室工大開かれた機械学会での講演を頼まれたがそれを使って話をするからと連絡した所、図書館にそれを借りに行った教授が最初、持ち出し禁止だからと断わられた程だ。但し付け加えておくが、この本、賢治の石と違って、本としての価値ははかりがたいものですぞ。

○月○日 12月恒例の忠臣蔵も過ぎてしまったが、江戸末の銅版画か・安田雷州の描いた「赤穂浪士報讐図」が何と何と、17世紀オランダの画家、アノルト・ハウブラーケンなる人の絵を下絵にしたものと判明したと、報道された。世の中面白いことだらけだなあ。






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