司書独言(109)

`10.9月寄稿

○月○日 イラク侵攻の決断は「後悔出来ない」とて参戦を正当化する回顧録を、ブレア元英国首相が出版した、とのニュースを聞いて、その鉄面皮ぶりに呆れたが、その発売記念のサイン会をやるというのに二重に呆れた。するとアイルランドはダブリンでのサイン会には200人が抗議と報じられて「あたり前」だと溜飲がさがったが、ロンドンでは、私も昔行ったことがある「テート・モダン美術館」を会場として出版記念パーティをやろうとしたら、トレイシー・エミン等著名な芸術家たちが、それは「美術館にとって不名誉だ」として中止を要求したので、ブレア側はパーティを延期したと知って、二重に溜飲がさがった。どうだろうこの小粋な断り様。実に小気味がよい。

○月○日 この間、ロシアでサウナに入る前に、水風呂の栓をひねって満タンになるようにしてから入った二人が、何分かして、湯だった身を冷まそうとして出ていきなり飛び込んだら、これが栓のひねり間違いで冷水ならぬ熱湯が溜まっていて、アッチッチと出る間もなく、死んでしまった。そうしたら、今度はフィンランドはヘルシンキの北東140kmのヘイノラで行われた、世界サウナ選手権大会で、過去5回優勝のカウコネンと過去3位入賞のラジゼンスキが決勝に残ったはいいが、決勝開始6分後、2人共全身赤くただれて出て来て3位が死亡、優勝者は一命を取り止めたが、全身重度の火傷だと。私はこの2度のサウナの出来事の記事を切り抜いて、風呂関係の本に挟んだ。

我が本棚の「ふ」の所には、風呂、温泉など、つまりは人間の「湯浴みの文化史』、例えば小暮金太夫編「錦絵に見る日本の温泉』とか、池内紀編「西洋温泉事情」とか、凡そ50冊の本があるが、どれにも今回のサウナのような、言うなれば一種凄惨な事件は出てなかったと記憶するね。それにしても熱かったろうな。

○月○日 野中兼山(のなかけんざん)と聞けば、歴史小説好きなら大原富枝の「婉と言う女」を想起するだろうが、この兼山は「長生きしても後世に名を残さぬようでは虻と同じだ。人間であれば功業をなすことが大事、それが出来れば早死にして本望」と言う人だった。

この人生哲学が祟ったか、49才で死んだ。一説には服毒自殺ともされる。何故死んだかと言えば、土佐藩主2代目の山内忠義の信任を受けて、藩政改革に取り組んだからだ。開発の一つが、新田開発で、成績は上がったが、政敵が多く、忠義が死ぬと失脚の憂き目を見た。本人んが死んだ後も野中家は改易となって藩は一族を監視下に置いた。大原の小説の主題はこの改易後の野中家の悲惨にある。

○月○日 ところで、今では江戸時代初期の土佐国の開拓者として評価される兼山が開発したのは、もちろん荒廃した土地だが、開発後は商人・職人を居住させて永代無年貢の特典を与えた。兼山の失脚後には町人が諸役御免の訴願を出して、これが認められたので、以来この土地を「御免」と呼ぶ。高知空港の直ぐ傍の町だが、今では「南国市」の一部だ。とここまでは、まあ歴史好きの常識だが、9月18日にこの御免市のJR駅のトイレの天井裏にひそんで捕まった男が出た。天井でうつぶせになったはいいが、ワイヤ他に挟まれて身動き出来ず、シャツの一部が天井の窓からはみ出た所を駅員が見つけた言う。誰がどう見ても「のぞき」に入ったんだろうが、当人は黙秘している由。これは行かんわ。ここは矢張り先ずは「御免」と言わなきゃ。

○月○日 阪神・淡路大震災で大被害を受けた神戸の長田区が街起こしが「三国志」を使っているそうだ。と言われてもピンと来ないが、神戸出身の漫画家の故横山光輝の作品に「鉄人28号」なるものがあって、この鉄人の鋼鉄製18mのモニュメントを若松公園に建てたところ大人気で、となると、横山のもう一つの代表作「三国志」も、となって三国志の登場人物4人の石像を作りスタンプラリーを始め、商店街の人達も「関羽」などの衣装に身を固めて、「三国志なりきり隊」を結成...で結果売り上げが2.3倍になったと言う話。三国志とくれば、私も先頃中国はジョン・ウー監督の「レッドクリフ」 Ⅰ・Ⅱを観たが、まあ大層なものだ。只この「レッドクリフ」=「赤壁の戦い」について頭の中整理しようとしたが,まだすっきりとはいかぬ。それはともかく,この10月末、登別市長に頼まれて,登別ポスフールで「ふくろう文庫特別展」をやるが,その際,台北・故宮蔵の全長4mになる「赤壁図」なる巻物を出品する。一千年の昔、帆柱を林立させて、江陵から大江を下ってくる曹操の大船団....その歴史的舞台が如何に描かれたか「レッドクリフ」を観ても、この絵巻を見ないでは「三国志」を体験したとは言えませんぞ。皆々来れ!「ふくろう文庫特別展 in登別」

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