司書独言(240)

◯月◯日/オランダのルッテ首相が2月17日にインドネシア国民に謝罪した。インドネシアの独立戦争中(1945〜49)にオランダ軍が同国民に対して振るった暴力行為についてだ。

植民地支配時代の軍の暴力に対してはオランダ国王アレクサンダーも2020年に謝罪している。この所、植民地支配についての反省表明が各国で続いている。去年の11月に西アフリカのベナンにフランスが植民地時代に略奪した26の美術品を129年振りに返還したなどもその動きの一つだ。

◯月◯日/然し未だ片付いていない国もあって、その一つがトルコによるアルメニア人150万人のジェノザイド(集団虐殺)だ。第一次大戦中の1915年、オスマン帝国はイスタンブールのアルメニア人を迫害し始めた。この皆殺しは世界的に認定されていて、例えば去年の四月にはバイデン政府もこれを認定したがトルコは反発している。

◯月◯日/ 2015年公開のドイツの名匠ファティアキン監督の映画「消えた声がその名を呼ぶ」のテーマはこの事件だ。迫害で妻や娘と引き裂かれた鍛冶屋の職人が世界を股にかけて家族を探し求める話で、第71回ベネチア国際映画祭でヤング審査員特別賞を受けた。観るべし。そのトルコで、2月になってストライキが続発している。物価高で労働者が暮らしていけないからだ。ところで、安倍も、岸田も植民地支配の責任を認めないが、これは褒めた態度ではないぞ。

◯月◯日/ 私はシェパードが嫌いだ。ナチスがユダヤ人狩りの時にケシカケルあの姿が嫌だ。もっともこれは犬の責任ではないけどね。私は又ブルドックも嫌いだ。確か、ジャック・ロンドンの「白い牙」を読んだ時、ブルドックが登場して「白い牙」に噛みつきと言う場面があって(あった筈と記憶するが)それ以来ブルドックが嫌いだ。だけどこれ「白い牙」でなくて「野生の呼び声」の方にでるのだったかもな。このブルドックの平面顔(短頭種)が愛嬌あって可愛いという言う人がいるから不思議だ。

◯月◯日/ ところがこの犬呼吸器疾患の遺伝的問題を抱えているそうで、今度ノルエウーで動物福祉法に反するとて繁殖が禁止となったとのニュースが2月末に出た。記事には日本でも欧米でも平面顔の犬は人気が高いとあるが、これが人間となると、鼻べちゃの平たい顔の東洋人がヘイトの対象になるってのはどういう訳だろう。

◯月◯日/ブルドックのことをきっかけに昭和初期に日本で人気が出たジャック・ロンドンとアプトン・シンクレアの事を書こうと思ったが、英米文学関係を置いている第一書庫が本の山で入っていけないので、今回は見送る事にした。ところで、ジャック・ロンドンは自伝小説「マーティン・エデン」を書いているが、これが映画化されて2020年に公開された。階級社会の冷酷さを描いた傑作だ。これ又観るべし。

◯月◯日/ 昔、四字熟語辞典で知って、感じ入った言葉に久々に出会った。「乙夜之覧(いつやのらん)」なる言葉で,天子が読書することだ。唐の文宗が「天子は日中から午後8時までは政務に励み、読書は乙夜(=午後10時)になってからだ。そうでなければ君主とは言えない」と臣下に語ったことから出来た言葉だ。文宗は唐の政治に宦官が口を出し過ぎる事を嫌い彼らを誅滅しようとしたが、失敗して「昔の暗君は大臣ののために政治を左右されたが、今の自分は、宦官のために制約されて身動きならぬ」と嘆いた。と宮崎市定の「大唐帝国」(中公文庫)に書いてある。

◯月◯日/「乙夜之覧」に久々に出会った本は中村英利子著「渋柿の木の下で〜孤高の俳人•松根東洋城の生涯ー」(アトラス出版、¥1600)で「愛媛の出版文化賞」受賞作。それに、大正天皇が「乙夜之覧(読書)をされていて」宿直の東洋城に「俳句とはいかなるものかと御下問(ごかもん)して」とある。この本実に面白い本で、私は多くの事を知る事が出来た。贈ってくれた松山の俳人栗原恵美子さんに感謝。栗原さんは私の「本の話」を読んでくれた人だ。 天子でさえ夜8時まで政務に励むのに、今の麻生だの安倍だのは8時となれば銀座などで、税金で会食だ。「志」が違いすぎる。

◯月◯日/ 未だ観ていないが2月11日新しい「ウエスト・サイド.ストーリー」が封切られた。今度はスティーブン・スピルバーグが監督だ。前回は白人ばかりが出たが、今回は物語通りにプエリトルコ系の役者ばかりだと言う。G・チャキリスの情婦役だったリタ・モレノも新しい役で出るそうな。私も好きな女優だったがもう90歳ぐらいかな。ところで、一般的なニュースではなかったが、この「ウエスト・サイド物語」の作詞をしたスティーブン・ソンドハイムが去年11月26日に91歳で死んだ。米国演劇の最高栄誉とされるトニー賞を8回も受賞した演劇界の巨人だった。皆死んでいくのは寂しいね。世の中には死んでくれて寂しくないのもいるけどね。

◯月◯日/ これ書いている今日は2月21日、昨日からの吹雪で窓と言う窓は東西南北、全部ガラスにへばりついた雪で外が見えぬ。玄関を開けてみたら、全くの「ホワイトアウト」。見本にしたい程の「ホワイトアウト」。まだ室工大在任中、帰宅の時平地では左程でもなかったが、海抜120mの高台の我が住宅地に登るにつれ天気が変わって、我が家へ向かう最後の坂が雪で登れない。車を置いて、違う方から我が家に向かったら、もう雪が腰の高さまで積もっていて、あわや死ぬところだった。今日の雪も同じで、庭に向いている書庫には壁に向かって1m50cm程の吹きだまりになっているのがうっすら見える。たいしたもんだ。私はこうした大荒れの天気が嫌いではない、むしろ好きなくらいだ。

◯月◯日/ 大川啠(さとる)「食べる経済学」の書評を読んでいたら、1杯の牛丼には牛肉100g、玉ねぎ70g、米250gが要る。この材料を作るに、飼料となるトウモロコシなどが1.1kgに、水が560ℓ、1平方m以上の耕地が必要となるそうな。前にもどこかで知ったような数字だが、それにしてもすごい数字だ「牛丼屋の罪は重いな」と年中肉なしでも全くかまわぬ肉嫌いの私なら思うが、今時の人はそうはいかぬのだろうな。私はこれを切り抜いて「ビーガン=完全菜食主義者」の所に挟んだ。

◯月◯日/ 「建国記念日」とやらの2月11日に「ミタテ」と言う名の女性の投書が出た.これ「御盾(ミタテ)」と書いて「身を挺して守る」ことで、誰を守るかと言えば天皇を守る。太平洋戦争中に好んで付けられた名だ。この老女も、今は戦争のない世を願って命を守る「ミタテ」の心意気でいると書いている。私の知り合いに「東洋克」と言う名の男がいるが、もちろん真珠湾から始まって連戦連勝の(つもりでいた)時に父親が付け名だが、40歳過ぎから「豊克」に改名した。「東洋克」じゃ植民地主義丸出しだもの、みっともないより、恥ずかしいわな。

◯月◯月/ 新聞の文芸欄に「しづり雪ぱらりぱらりと竹の寺」なる句がのっている。「しづり雪」ハテナ!これ間違いじゃないかと「大辞泉」に当たってみたら「しり=重り=木の枝などに降り積もった雪が滑り落ちること、又その雪」とある。だよな!(然し今はでもいいのかな)

◯月◯日/ 凍結した網走湖を馬橇に乗った豆腐屋がラッパ吹いて渡ったそのラッパの響きが樹氷に木霊したーなる意の句が文芸欄に載っている。雄大なものだ。私が小学校に入る前には、毎朝小さな四輪車を老犬が曳いて豆腐と納豆を売りに来た。売り手は軍服を着た爺さんで、呼ばれると「全隊止まれ」と犬を止める。売り終わると、「全隊進め」と言いラッパでトテチテターと進軍ラッパを吹く。今じゃ願っても見られぬ風景だ。今なら爺さんにあれこれ聞くんだろうが、子供だったから何も考えずに面白がってた。もったいないことをした。どんな人生の人で、何処から来ていた人だったかを今なら聞きたい。

◯月◯日/ 私はこの網走の句を切り抜いて何必酵の「豆腐百珍」に挟もうと思ったが、書庫に入るのは寒いので、茶の間に置いてある書棚の中の「図説江戸時代食生活辞典」にはさんだ。

◯月◯日/ 句と言えば、松山の栗原恵美子さんが呉れた、井上智重著「いつも隣に山頭火」(言視舎¥2200))を読んでいたら昭和5年11月12日由布院の湯坪へ向かう途中に初雪にあって、そのあと温泉に入る。その時の句が「刺青あざやかな朝湯がこぼれる」だ。これで思い出したことがある。最初の腰痛を起こして1ヶ月余りも入院して腰を引っ張ったが、その時コルセットの跡が、いわゆる色素沈殿で、腰回り一帯が点々と結構な大きさの円形で黒くなった。まああざの連続で我ながらみっともない。

◯月◯日/退院したあとは腰のためよくサウナに行ったが、ある時3人程胸や腕に刺青の男がいて、その中の一人が近いづい来て低い声で「ヨーヨーお兄さん、その黒いのは何か悪い病気でも持っているのかい」と言う。私は内心入墨男がよく言うよと思ったが、一応色素沈殿なるものを説明した。聞いて彼は「分かった、失礼したなあ、ゴメン」と離れて行った。その後色素は薄れたがもう40年も前の事だ。そのサウナも潰れて今はない。

◯月◯日/ サウナと言えば、後頭部が少々薄くなりかけた頃、東京の「銀座温泉」に入った事がある。松屋の裏手だったかな。サウナのあとはベットに全裸で寝せられて2人の女が身体の裏表を台所のタワシの4倍位あるタワシを手にはめてこする。先に尻、背中をやって、次に仰向けにされた時、二人が異口同音に私の陰毛を見て、「ウワッ、すごい」と言ったあと「これが頭の方にもあればいいのにね」と言った。聞いて俵万智子じゃないけれど「いってくれるじゃないの」と思ったがその気持ちは複雑だった。

◯月◯日/ この「司書独言」は400字詰めの原稿用紙で毎回およそ10枚書く。今8枚目だが、今日は2月の最後で28日。雪こそ降っていないが未だ全然解けなくて、庭の積雪の高さは今は胸の高さ。向かいの旦那さんが除雪してくれて,4日振りに車を出せるようになった。今年は異常だ。異常だと言えば「シカ」

◯月◯日/ 室蘭市内でエゾシカの出没が増えている由。大雪の前の或る朝、出勤時に我妻さんが急ブレーキ、後部座席の私はツンノメッテ、「どうした?」と聞くと「シカ!」。前を見ると5頭連れが我が車の前を横切って左手の山に登っていく。前にも、今度は帰路、高台の我が家に差し掛かった最初の坂でパトカーが来て通行止めだ。見ると脚でも折ったのか大人のシカがへたりこんでいる。2月11日の新聞発表では2021年に室蘭で捕獲したシカは84頭で4年前の倍頭。車とぶつかったのは92件だと言う。ぼんやりしていられないな。シカと前を見ねばな。

◯月◯日/ 異常だーとはシカばかりでなく、更に異常なのは、(といってもいつも異常だが)例の安倍。今日28日の朝刊に、安倍が昨日27日フジテレビに橋下らと出て、「米国や(NATOなどへの)基本的な不信感の中でプーチンとしては領土的野心ではなくて、いわばロシアの防衛、権益の防衛、安全の確保からという観点から行動を起こしている」と発言し「正当化しているわけではない」と加えた由。

◯月◯日/「ウラジーミル君」と呼ぶ中だからかばわねばならぬのか。同じ日にはロシアの科学者と科学ジャーナリストら2000人が「侵攻反対」の公開書簡を出しているというのにだ。安倍一統は本当に日本の災いの元だね。恥ずかしい。

◯月◯日/そうだ2月28日と言えば利休が70歳で死んだ日だ。村井康彦の「千利休」(講談社学術文庫¥1150)によると、この日は大雨、時に雷鳴がとどろき、大霰が降る大荒れの天気だった由。利休は尼子三郎座衛門、安威摂津守(あいせっつのかみ)蒔田淡路守の3検使を不審庵に招き入れ、最後の茶会を持った後、切腹した由

◯月◯日/ 十文字に腹切って腹わたを取り出し、それを自在のかぎに掛けた。(村井はそこまでは信じがたいと言うが)。介錯役の蒔田が首を打ち落とした。この首は一条戻り橋に晒された。その首を踏んでいたのは利休の木像だった。この木像については、桑田忠親が「茶道の歴史」(講談社学術文庫¥900)で「利休が雪見をしている木像です。」と言う。大徳寺の山門には楼閣がなかったので、利休が寄付して作って「金毛閣」と呼ばれた。その中に寄付者の利休像を建てた。

◯月◯日/ 山門は下を秀吉も、又天皇も通る所だ。その頭を上から町人風情の利休が踏んでいる,けしからん不敬だーと言うのが利休が切腹させられた理由だ。理不尽な話だ。

◯月◯日/理不尽なプーチンを罰するのは国際世論の役目だろう。理不尽なプーチンをかばうとは安倍も本格的にボケてきているのではないか。と言うよりも、本性が出て、習近平やルカシェンコに似てきたと言う事か。

2022.2.28

山下 敏明

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