第245回 絵巻を読み解く

`05.12月寄稿

諸君は既にご存じかと思うが、過ぐる10月26日から31日迄の1週間、中島の丸井店で、「丸井支援ふくろう文庫」特別展を開いた。おこがましいことだが、「ふくろう文庫の」の善本・美本をお客さんに見てもらうことで、丸井の集客にもつなげようとの思いからだった。私は「図書館サービスに期待する会」の安藤さんと、毎日9:00〜19:00迄会場に張り付いた。その結果は下の「道新」記者・上野香織さんのまとめた通りで、実に6006人が「ふくろう文庫」を見に来てくれたのだ。中には、白老の人だが期間中毎日来てくれた人もいる。市議会議員で3日間続けて来た人もいる。...てな訳で、そんな反響の一つは最後に載っけた「民報」の紙面の如しだ。












さて、今回の出品の大きな柱の一つとして絵巻物を20数点出した。とは言っても、いざ広げてみると仲々どうして簡単には行かぬ。と言うのも、会場のテーブル配置の按配で、帯に短に短しタスキに長しで、巻きを途中で止めて全部開陳出来なかった物も数本ある。これらは図書館でも広げ得る物ではないから、全面的お目見えはいずれ又の機会を待ってもらうしかない。そんな殺生な!!と言われてもこれは仕方がない。

絵巻物が簡単に見ることが出来ぬのは、当館が不親切だからと言う訳ではないことを知ってもらわねばならぬ。

例えば、武者小路譲はその著「絵巻の歴史」(吉川弘文館)の中で、絵巻研究のむずかしさを嘆いた後でこう述べる「〜まず研究対象の絵巻の全巻を手に取ってみることは簡単にはできない。博物館のケースのなかに広げられている一部だけを見るのがやっとのことである」。そして更にこう加える。「さいわいこのごろは有名作品はすぐれた複製があり、絵巻全集のような使いやすい図版もふえているので〜」。

絵巻全集の中で一番いいのはどれか...主だったものとして今迄、① 「新修に本絵巻物全集」全30巻(角川書店1975)。②「日本絵巻物大成」正続47巻(中央公論社)③「日本の絵巻』正続47巻(中央公論社)の三種が出ているが、一番いいのは③であると言うのは③は、縦35㎝と言う大版の本で全てカラーだからだ。この全集は大方の図書館(そう言う当館にも)あるので是非手に取ってみるべし。

さてその前に、「絵巻」とは何だ、と言う根本的なことを知りたい向きに勧める本は?と言うと...。「絵画資料』の分析で知られた黒田日出男は、絵巻についてのまとまった知識を得たいと思ったら....とて次の5冊をあげる。イ)奥平秀雄/絵巻物(日本の美術②)/至文堂/1966

ロ)秋山光和/絵巻物(ブック・オブ・ブックス、日本の美術⑩/小学館/1975

ハ)奥平秀雄/絵巻物再見/角川書店〜1987

ニ)武者小路譲/絵巻の歴史/吉川弘文館/1990

ホ)高畑勳/十二世紀のアニメーション/徳間書店/1999

この中で黒田は、5冊共「〜それぞれ特色のある本だが〜」として「わたしとしては」とて、イ・ロ・ハの3冊の熟読をすすめる。しかし残念無念、この三冊はいずれも絶版で、ハ)なぞは古本でも結構値が上がっている。

値上がりしていると言えば、やはり黒田が現存絵巻の全貌を知りたいならば、これが便利と勧める、「角川絵巻物総覧』1995は、低下21,000位なのが、古本で75,000の値がついている時がある...と言う代物で、図書館とておいそれと手が出るものではない.当館でも、“そなえ”が悪くてこれは持っていない.恥ずかしい。

では、絵巻に近づきようがないではないか...と心配するやも知れぬが、幸い若杉と榊原の2冊が出た。但し若杉の本は「美術館へ行こう1 」シリーズだが、先述した如く美術館へ行ったとて、見られるとは限らないことは改めて念のため。「絵巻の見かた2

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絵巻のおおよそがわかったところで、図書館にたよらず自前の本で楽しみたいと思う読者のために、その④にあげた本がある。これは先述の「日本絵巻」のコンパクト版だ。だが10冊しか出ていないのがと言う所。

ここには、その10冊の中から「吉備大臣入唐絵巻3 」を出したが、この現物はボストン美術館にある...のはいいのだが、保存のため公開されていない.公開されていないと言っても、コネがああれば見せてくれるんじゃないの?と言ってもダメ。なにしろ研究者にすら見せてくれないのです。

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そこで又々黒田日出男だが、この学者はボストン美術館にナントしても公開して欲しい.ダメなら写真(デジタル化)でもいいから復元版を出して欲しいと呼びかけている。そしてこの黒田が現状では、この絵巻を見るにはこの本が一番いいと勧める「ボストン美術館・日本絵画名品展(特別図録)4」なる,1人で持つには一寸重た過ぎる本が「ふくろう文庫」にあるのだだけど、先日丸井で出した所、指をナメナメ見る人が続いて、あわててビニールでカバーをしたのだった。

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美術本を手軽に見ることが出来ないのは、ひとえにお客さんのマナーが原因で、つまりは自業自得だと言うと怒られるかしらん。

  1. 若杉幸治.美術館へ行こう絵巻を有読み解く。新潮社(2003) []
  2. 榊原悟.絵巻の見かた.東京美術(2004) []
  3. 黒田日出男.吉備大臣入唐絵巻.小学館(2005) []
  4. ボストン美術館.日本絵画名品展(特別図録.日本テレビ放送網 (1984) []

第246回 吉備大臣入唐絵巻と桃太郎

`06.1月寄稿

昨年10月末「丸井今井ふくろう文庫・特別展」と銘打って、1週間開いた展示会に出品した絵巻物・画集の中で一番の人気は、「吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき)」と「平治物語絵巻・三條殿夜討巻へいじものがたりえまき・さんじょうでんやうちのまき )であった。前者は、本物同様に復元された限定880部の絵巻だから、これ全部述べ広げて観てもらうとことが出来たが、後者は、「ボストン美術館特別図録」のなかに復元されたものだから、つまりは本で、折りたたまれたその各ページを全部一度に開いて観せることは出来なかった。 続きを読む 第246回 吉備大臣入唐絵巻と桃太郎

第248回 トリノのフォンタネージ.日本近代美術の恩人

`06.2.22寄稿

昔「暁の超特急」と呼ばれた陸上短距離の選手がいた。吉岡ナントカと言う名前の人で、小さい頃読んだ本では、確か馬に綱を引かせ、それにつかまって走って脚力を鍛えた、とか書いてあった。私はこの話に余り感心しなかった。逆に何を感じ、考えたか?と言うと、「こんな無理せんでもなあ、こんな事しても馬にも鹿にも勝てっこないなあ」と思ったのだ とは言っても、聞くところによると、今は「春うらら」とか言う、滅法遅い馬がいるらしいから、これには並の人間はともかく、選手ともなれば勝てるやも知れぬ。 続きを読む 第248回 トリノのフォンタネージ.日本近代美術の恩人

第253回 浮世絵展と「春画」

`06.11月寄稿

先日、来館した20代の女性に「浮世絵」を見せたら、きれいだ、素敵だと、感歎の台詞を口にしていたが、やや暫くして「えーっ、これ、ひょっとすると版画ですか?」と言う.版画でないとしたら何だと思ってみていたんだろう?てな、意地悪な質問を私はしなかったが、反射的に似たような出来事を思い出した。出来事と言っても、我が身に起きたことではなくて...現在,浮世絵関係の美術館に勤めている女性の学芸員が、自分が書いた浮世絵の本に告白(と言う程のものではないか?)している話...その女性は友人に誘われて,原宿の太田記念美術館ーここは浮世絵専門館ーに行って、その時まで全く関心がなかった浮世絵(本物)を見て、びっくりしたと言う。 続きを読む 第253回 浮世絵展と「春画」

第254回 吉野作造、最上徳内、安藤広重、丸山薫

`06.11.7寄稿

室工大で建築を学んだ水野君は、若干26歳でガンに倒れた.彼を偲んで仲間が集り墓参りをしてから、3.4泊の旅をすることに決めて、今年は早や、27回忌になった。毎年々々、よく続いたものだ.時には墓のある仙台を遠く離れて、沖縄まで、出かけ,その地で水野君を語ったりもして...その旅はいつも観光コースからそれて,美術館めぐり、を中心とするものだった。美術を一番愛した水野君が生きていたら、「ふくろう文庫を」どれ程喜んでくれたろうかと、いつも思うが、それも詮無いことだ。で,今年は久しぶりに仙台周辺に的をしぼり... 続きを読む 第254回 吉野作造、最上徳内、安藤広重、丸山薫