`07.5月寄稿
おいしいワインをみつけたから、とて、貸しておいた本を返しがてら、咲美さんが姿を見せた。そして、本に挟んであった1枚の絵ハガキを私に示して、“これ私の好きなもの”と言う。見ると、平櫛田中(ひらぐしでんちゅう)・1872〜1979)作の「五浦釣人」だ。五浦とは茨城県の海岸で、今岡倉天心の美術館のある所だ。近くには天心の旧宅や、天心が愛した「六角堂」がある。これ、天心が作らせた小さい建物で、断崖の上に建っていて、此処で天心は太平洋を眺めつつ、思案にふけったのだろう.土饅頭型の墓もあったと記憶している。と言う訳で、田中の作品は、釣りを好んだ天心像なのだ。あでやかな咲美さんが、この木彫作品が好きだとは、渋いことよ...と私は好感を持ったが、内心、偶然だと驚いたのは、私が、今回本棚で取り上げようと考えていたテーマが、天心とコンビを組んだフェノロサだったからだ。 続きを読む 第259回 日本美術の流失とフェノロサ