第072回 宮澤賢治絵本と森本三郎

`95.5月31日寄稿

宮澤賢治は仲々に難解な作家だと思いますが、それはともかく、私は賢治が好きで,全集の他に一寸変わった(と自分では思っている)「コレクション」をしています。それは何かと言うと,絵本蒐(あつ)めです。多くの画家達が,次から次へと言った感じで、賢治の童話を絵本にしていますが、それを全部蒐めているのです。何故そんなことをするのか、と言うと、賢治の一つの童話に対して,画家達が抱くイメージの、いわば十人十色といった表れ方が面白いからです。

そんな訳で,昭和63年(1988)に出た小樽の画家,森本三郎が版画をつけた「注文の多い料理店」も画家の所に直接注文してすぐに入手しました。

この本は一種変わった本で、ーと言うのは,発行した「紫紅会」なるものの実体が,札幌の「岩田醸造」(株)なる味噌屋さんなのです。

この味噌屋さんは、非常に趣味の良い随筆誌「紅」を出していた、文化度の高い会社ですが、その「紅」の150号完結記念に計画されたのが,この本だったのです。

因みに「注文の多い料理店」の絵本を。現在私は。5種持っていますが、この童話の持つ或る種の無気味さがよく出ていて、しかも陰湿でなく,誠にダイナミックな森本のこの本は,中でも出色のものです。

同じく画家の光子夫人によると、故画伯は賢治を愛すること深く、かって生まれ故郷の帯広の新聞に,賢治の紹介文を送ったことをもって、「北海道に初めて宮澤賢治を紹介したのはぼくだよ」と語っていたそうですが,その彼のひそかな誇りが,観るものに如実に感受出来る、いい絵本です。しかも、ありがたく,かつ嬉しいことに絵本の中の版画の実物一枚が「おまけ」についています。

さて,4月に入って雪は降る,5月に入っても雨続き、おまけに雹(ひょう)まで降るという悪天候続きの昨今、珍しくも快晴の一日を見つけて、中谷峠越えで小樽に行って来ました。

目指すは、海抜532mの天狗山山頂のレストハウスの一角にある「森本三郎絵画館」です。`93年7月3日にオープンしたものです。レストハウスには、スキーのメッカ小樽を語る「スキー資料館」と天狗山の名に因んでの全国の天狗面などを揃えた「天狗の館」もあり、その奥が、「森本三郎絵画館」です。

展示作品のうち、圧倒的に、こちらを「うつ」のは。やはり小樽の雪景色です。かつて(幕末)鈴木牧之(ぼくし)という人が、「北越雪譜(ほくえつせっぷ1 」なる本を書いて暖国の雪は観賞の雪であるが、越後(えちご)の雪は大変に苦難の雪であることを述べて、厳しい雪国の生活の実体を世に知らしめたことがありました。

雪国の悲しみと喜びは、雪がある限り続くことを、鈴木牧之を読むことで私達は実感します。

同じように森本の雪景色を観ていると、どの画からも、厳しくもなつかしい貴方や私の、そして私達の親、つまりは、雪国、北海道に住む我々皆の生活の種々相が、静かに、しかも力強く浮かんでくるのを感じます。

「寿司」と「ガラス」ばかりが小樽ではないのでありますぞ!!「絵画館」には「注文の多い料理店」もおいてあります。「図録」と詩集「残缺」もあります。この2冊は又の楽しみに私は残して来ました。*車で行く人は山頂まで自動車道路があります。30分まで駐車無料の駐車場もあります。


  1. 鈴木牧之.北越雪譜.岩波書店(1991) []

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