司書独言(95)

`09.7月寄稿

○月○日  先頃某紙で「私立図書館奮闘中」と題する記事を読んだ。副題が「昭和初期の美術書所蔵・富山の“眉丈文庫”」。高岡市と言えば銅器や漆器産業で有名だが、此所で呉服商を営んだ金田眉丈(びじょう)なる人が、高価な美術書を揃えたのが始まりで、その目的は若い職人達の勉強の足しになればと言う物で、自宅で公開して来た由。その美術書はと言えば、古陶や正倉院御物を描いた色鮮やかな石版画や明治創刊の美術誌「図華」の戦前分などなど。学者や職人が今でも資料を探しに訪れるそうな。

○月○日 因みにこの「図華」、明治22年創刊の月刊美術雑誌で、古美術史上の名画を紹介し、これらの解説と美術史上の論説を掲載する(広辞苑)と言うもの。今でも出ていて、この揃いとなると500万でくだらぬ、それも仲仲市場には出ぬ。それに今でも出ていると言ったが、ウスッペライ雑誌ながら、中味が中味だから1冊4.5千円と、個人では毎号買うと言う具合には行かぬから、私も内容に応じて必要な号だけ買うことにしている。全巻揃えば最高なんだけどね。

それはさておき。先記の様なこと、つまり「眉丈文庫」のようなことを知ると、実に我が意を得たりで「ふくろう文庫」をやっている身としては嬉しくなるね。「勉強のために足しになれば」と言うのがいい。

図録なんて所詮コピーの見本帖だ、なんぞと浅墓なことを言う人もまだ結構居るが、これは本当に浅墓で、図録はとてもの事馬鹿にしてかかるうようなものではない。どれだけのことを図録から学べるかは、図録を取り寄せて、巻末の参考文献に至るまでを丹念に読み尽くした人でなければわからぬものだ。美術書、殊に画集・写真集なぞもその価値は同じ事で、言わずもがな事だ。

○月○日 NHKの「日曜美術館」でアメリカの抽象画マーク・ロスコを観たYが教えてくれたのは、解説者で出た高村薫がマーク・ロスコの実物を観るのは今回が初めてで、(千葉は川村美術館で開催中)、最初に引かれたのは、数年前図録を観てからだと言った由。学ぶ気がある人、観たいと思う人に獲っては、図録も画集も単なる複製画ではなくなる筈なのだ。マーク・ロスコの作品は、ササビーの競売で抽象画史上最高の58億円を出したそうな。趣味で絵を描いたり、土をこねている人達も、その内必ずや「ふくろう文庫」の画集や写真集や図録を見なければならぬ時が来るだろう。

素人であれ、玄人であれ、先人から学ばず、刺激を受けず、只自分の楽しみだけでやっております、となれば、それはまあ早い話が、一種の自慰行為であって、それでは上達、成長はえられまいて、と私なんぞは思う。

○月○日 芸術だ、美術だと言えば、最近室蘭民報紙上に取り上げられた“雑草茫茫の公園の彫刻群”。この出来事、諸人はどう考えるかな??

○月○日  画集だ、美術全集だと言えば、日本では藤田嗣治の画を除く訳には行かぬので、入れたいのは山々なれど。これを許可しないのが藤田の妻きみよだった。彼女は、藤田が石もて追われる如く祖国を去ってパリに永住せざるを得なかったのは全て日本人のなせるわざであると恨んで、藤田の作品掲載を拒み続けたので、S社の美術全集の或る巻にも穴が開き、K社の戦争画集にも、戦犯的画家の巨匠たる藤田の絵は入らなかった。私なんぞは藤田のフランス帰化は自業自得としか思えないが、きよみはそうは思わなかったようだ。そのきよみが4月初旬に死去した。98才だった由。好きになれない婆さんだ。

○月○日 「ふくろう文庫」は4,100冊を出た。何冊が目標ですか?と聞く人がいて、この答えがたい問いには「1万冊が目処」と仕方なく答えているが、と言うのは....昔、まだ 西武が健全だった頃、池袋西武デパート内の美術館の下の階(だったと思うが)に、「アール・ビヴァン」と言う本屋があって、そこには何万冊と世界の美術書が並んでいた。一寸話を変えるが、例えばアメリカの出版物を調べるには「Books     in    print」なる総目録があって、これは、出版年関係なく、今現在入手しうる本が全部出ている厖大なものだが、これでこれ又アンドリュー・ワイエスでもマーク・ロスコでもいいがその美術書に関する本は、一目瞭然と言う筈なのだが、これであらかじめ調べてから「アール・ビヴァン」に行くと、どう言う訳か、例のBooks     in    printに出ていない本がわんさとあって、と言う状態で、つまり、この本屋の集書能力にはいつも唖然とさせられたものだ。それと同様、力のある古本屋も馬鹿には出来なくて、日本の美術書に限っても5千冊や1万冊揃っている所が結構ある。つまり、4000冊位では、まだコレクションとしては序の口なのだ、と言う事を言いたい訳。と言っても素晴らしいものがどんどん集まって来ている。最近では横山大観の「生々流転」絵巻が入った。全長40mと言う重要文化財の複製物。300部限定絵巻を包む漆塗りの函も、作り手は皆人間国宝で、こうなると複製というよりは新たな創造物と言った方がふさわしい物だ。いずれ展覧のつもり。乞う御期待!!


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