司書独言(160)

⚪️月⚪️日 曽野綾子が又してもオタンチンパレオロガスに類することをしてくれた。南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)、あのマンデラが死を賭して撤廃に取り組んだ悪性度を、許容する発言をしたのがそれ。

大江健三郎の「沖縄ノート」の誤読もそうで、何度良識ある人々の眉をひそめさせる発言をしてきたことか。保守の論客などとおだてあげる方が悪い、誰ぞきちんと諭してくれる知識人はいないものかと憂いていたら、精神科医の斎藤環が投稿した。

⚪️月⚪️日 斎藤は「キャラの立った高齢者」という妖怪が日本の言論界を徘徊しているとして、「とりあえず曽野綾子氏は間違っている」とする。小気味良い。この後南アフリカに住む吉村峰子という人の、曽野綾子は白人専用だったマンションに黒人家族が一族を呼びよせたために、共同生活が破綻したというが、そんな話は有り得ず、「胡散臭い」とする投稿がでた。さもありなんの論だ。

⚪️月⚪️日 昔私は一度だけ姉に誘われて聖心女子大学に行ったことがある。学校祭でばざーがあり、なんとグランドピアノが売りに出されいて驚いたが、確か曽野はここの出身者の筈だ。そしてもうひとつ確か美智子皇后も同じ筈だ。その美智子皇后の天皇と組んでの平和志向の処行為は見ていて頭がさがるものだが、同窓生たちはこの愚かかなる曽野の行為と、皇后の崇高な行為のどちらに組するだろうか。

⚪️月⚪️日 曽野はこれ又確かクリスチャンの筈だが、その論その行為をみていると、ー神教キリスト教の最も悪しき部分たる排他性が如実に出ているなあと思わざるを得ない。それにしても、曽野の書く老後の人生論みたいな本が新書コーナーのベストセラー上位に入っているのを見ると、どこの「お人よし」が買って、この老害めいた老女の論客?に印税で富ませているのだろうかと、いやな気持になる。書く方も書く方、読む方も読む方だ。

⚪️月⚪️日 吉野文六・元外務省アメリカ局長が、96歳でこの3月末なくなった。沢地久枝の「密約」で知られる沖縄返還交渉時の担当者。事はアメリカが負担すべき米軍用地の現状回復費用400万ドルを日本側が極秘に肩代わりしていた「密約」バカゲルにも程がある話だが、この人ずっと国会でも「密約は」なかったと言い続けてきたが、2006年に至って政府関係者として初めてそれがあったと証言した。聞いて最初に思った事は、”遅いってえの”と言うこと。黙って死んで行くよりはいいが、それにしてもだ。この長年のごまかしの沈黙、公務員の態度として褒めるべきなのかどうか私には疑問だ。

⚪️月⚪️日 肩代わりと言えば、リラン・バークレーなる50歳のアメリカ人がいて、「ザ・思いやり予算」なるドキュメンタリー映画を作っている。この人「他国の基地を税金で国内に建てる」とは変だとする非常にまとも人で、この人が言うには沖縄の米兵に日本が提供している住宅は、福島の仮設住宅5軒分の広さだと。これ又バカゲルにも程がある一種だ。

⚪️月⚪️日 ドキュメンタリー映画と言えば、今井友樹の「島の道を超えて」が去年のキネ旬の文化映画作品賞ベスト・テンに入った。今禁じられている「かすみ網猟」という、言うなれば鳥に関する文化を故郷の岐阜県東濃地方で取材した作品だ。「かすみ網」とくれば昭和58年の遠藤公男著「ツグミたちの荒野」(講談社)なる一読胸打たれる名著がある。この今井の作品もそうだが、優れたドキュメンターを見ることは中々難しい。DVD屋のドキュメントの棚にも毎度目を配っているが、格闘技だの、美容だの、どうでもいいとは言わぬが、並んでいるのはそんなのが圧倒的に多い。劇映画の上映会もありがたいが、この手の上映会もあればいいな。

⚪️月⚪️日 日本医大特任教授なる梅原純子によると、テレビの医学トーク番組での情報はどの位正しいかとなれば、イギリスの調査では、半分は根拠のない情報だった由。さて日本の場合は?と教授は設問するのだが、私はテレビは観ないし出ているのはタレント化した医者ばかりのようだから、ハナから信用していないので実害はない。この間知り合いから元気そうだけど飲んでるサプりメント教えて、と言われたが、そのてのものは飲んだことがない。投句川柳を借りれば「人生あと少しだから酒タバコ」の気分で入る。但し、タバコは手にしたことがない。

司書独言(159)

⚪️月⚪️日 オバマがキューバのテロ支援国家指定の見直しなどを含めて1961年以来続けてきた断交状態を改めると出た。去年の暮れのこと。これで思い出したのは、松本清張が昔キューバのルポを発表した時、竹中労が噛みついた話。竹中は清張が国賓待遇を受けた上、与えられた資料とコースでルポが構成されていることに対して、もっと清張らしく裏道を歩いてこいと言う。竹中の言ったことでもう一つ記憶にあるのは、野球好きのカストロが試合を見に行ったはいいが、突然自分も試合に出て、国会だか、国交パーティーだかを2時間も遅らせたことを挙げ、独裁君主のすることで、社会主義者のすることではないと批判した話。

⚪️月⚪️日 私はテレビを見ないから、その姿は新聞でしか知らないが、「ほころびを隠しきれいな割烹着」(投稿川柳)でチョンとはSTAP細胞とやらも妙なことになったもんだ。

⚪️月⚪️日  柳家小三治が、第56回毎日芸術賞を受け、かつ、人間国宝になった。目出たし。この人、若い頃オートバイが好きとて、皮ジャンに身を固めて跨っていた。その写真を見て、へえーと思って以来、この落語家に注目してきたが、この人の気骨は年々はっきりしてきている。昨年暮れの「民族芸能を守る会」ではマクラで「600億円もかけて選挙する必要があるのか」etc. の発言をした由。えらいもんだ。タモリだのタケシなど一見アウトロー的態度をとる人間が、今の時勢に何の発言もしないのをを見て、その本質はやはり幇間(たいこもち)かとウンザリしているが、この連中少しはこの小三治や菅原文太あたりの精神の持ちようを見習ってもいいのでは!!、とは言っても無理だな。

⚪️月⚪️日 ベネズエラはカラカスの現代美術館で、すり替えられた、つまり、贋作のアンリ・マチスの「赤いずぼんを履いたオダリスク」に、10数年間誰も気づかなかった由。マチスというだけで皆ありがたく見ていた訳だ。我が「ふくろう文庫」は最初から「複製」を蒐めると宣言しているから何の迷いもないが、「お宝鑑定」とやらの番組には聞くだに、欲気丸出しで蒐めたような物ばかり出ているようで、この番組、美術普及の点で何か役に立っているんだろうか。

⚪️月⚪️日 フランス映画「博士と私の危険な関係」を見た。E・トリヤの「ヒステリーの歴史」(青土社)で学説を否定されているフランスの精神学者ジャン=マルタン・シャルコーが主人公。シャルコーの事は、小長谷正明の「医学探偵の歴史事件簿」(岩波新書)にも、ジェームズ・パーキンソンの歴史に埋もれかけた論文を表に出し、かつ、ヒトラーも罹患した”震える”病気を「パーキンソン病」と名付けた 人として登場するな。シャルコーのペットのオウムは「ハラキリ」だった。映画も面白かったし、この本も面白い。

⚪️月⚪️日 どの新聞も一面の下欄には新刊案内が出るが、地元紙「室蘭民報」にはそれが無いのが物足りないとかねがね思っていたが、珍しいことに1月5日に8社の広告が出て・さらに珍しいことにフランスの経済学者トマ・ピケティの本が2冊並んだ。1冊は所得格差の問題を扱って、資本主義の矛盾を説いた主著「21世紀の資本」。2冊目は「ピケティ入門」。そのピケティがレジオン・ドヌール勲章シュバリエ(5等)の授与を拒否した、と正月早々報じられた。その理由はオランド仏大統領が公約した財政改革を怠っているからだと。”気骨”の人がここにもいる。

⚪️月⚪️日 大体この勲章、ベートーベンが嫌ったナポレオンが創設したもので、今までもカミュ、サルトル、モネ、キューリー夫妻と錚々たる連中が叙勲を拒んで来た。ここでまた思い出すのが、安倍首相にナントカ役を振られて「居心地が悪い」と照れて見せたタケシや最終回番組だとて安倍首相に飛び入りされて喜んだタモリや安倍首相と一緒に温泉に入って黒幕ぶったタカジンらの、軟弱ぶり。まあ比べる事自体拒否組に対して失礼な事だけどね。

⚪️月⚪️日 1月号で面白い苗字のことを書いたら、今度は「前歯」家が出て、その家の小1の女児が、自分の歯が抜けたあと、「前歯が無くなったので、ただのみよになった」と言ったとの投書。笑えた。笑えたと言えば、性教育の時期だとて小6と小3に、「男の人と女の人が性交するんやで」と言ったら、小3が「えっ、じゃあ失敗もあるん?」と言ったという投書。これで思い出したのが大分前の投書。「僕も妹が欲しいな、どうして家には妹がいないの」と言う男児に、父親がお前が早く寝ないからだ」と答えて、子供が「???」となった話。

⚪️月⚪️日 マクドナルドのポテトやらに人間の歯が入ってたと。昔我が家の向かいに駄菓子屋があって、そこのピーナッツ入り煎餅を弟が食べると、割れたピーナッツそっくりの歯が入っていた。その後、数日前からその煎餅を手焼きする菓子屋のおじさんの前歯が抜け落ちて見つからぬと言う話が伝わった。そのおじさんは当時北海タイムスに載ってた4コマ漫画の主人公に瓜二つだったので、私の姉が「ユダさん」とあだなした人だった。それだけの話。社会会問題にならなかったし,歯も返さなかった。歯々々(ハハハ)。

 

司書独言(158)

○月○日 長崎屋の閉店で仏坂から西に本屋が亡くなって2年、それが再開した。嬉しい事だが、開店の広告を見てゲンナリ。文芸書ベスト5の一位が百田尚樹の「純愛」と来た。これ昨年の11月21日に“たかじんの”の娘が発行元の幻冬舍に出版差し止めの訴訟を起こした本。土台これ、テレビの「金マス」とやらで、病んだたかじんの体を拭くのにタオルを熱湯に浸して両手を火傷したとか、24時間介護の疲れで突発性難聴になったとかの妻君を、百田が「天使」と持ち上げての美談連発に、視聴者からの、この妻、実はたかじんと交際中、別の男と婚姻関係にあったetc.の実態がネットに流れて云々....と...いうケシカラヌ本。

○月○日 安倍首相にすり寄った褒美にNHK経営委員に抜擢されて以来の、およそ作家の風上にもおけぬ百田の言動の数々には、心あるものなら皆顰蹙)(ひんしゅく)と思いきや、そんな男の本を金を出して読もうという、これこそ浪費の極みというべき事をして百田に印税を得させてやるお人好しが室蘭にもいいるからこそのベスト1。本屋に責任はないが情けないの一言。

○月○日 自民圧勝となった先の総選挙。崖っぷちに立った小渕サンも、団扇のあおぎ過ぎで冷や汗かいた松島サンも当選というから、つくづく太平楽な国だが、その後の各紙の論調が実に呑気だ。曰く「有権者は政策の全てを白紙委任した訳ではない」から、以後は「異論」を「見解の相違」で片付けるなとか、「勝っても奢るな」とか社説担当の連中、安倍首相がこれを聞くと思ってんだろうか。

○月○日 国学者の金田一春彦は、かつてお上に楯突いたことのない人と私はみているが、この金田一でさえ、安倍首相の討論の仕方について、論点をずらすとか擦れ違うでなくて、はなから答える気がないと指摘し、「まさに」を連発するが、それは中身のない軽い言葉で、つまりは言葉に信を置いていない、との危惧の弁を述べている。作家の橋本治も、安倍首相の答弁が尋ねた事に対して向き合わないと批判している。

○月○日 どう見ても、投稿川柳にある「聞く耳持たぬ首相が民問う」が実態ではないか。かつて当たらぬのは天気の予報だったが、この所当たらぬ一番は新聞の社説ではなかろうか。世論をリードするべき社説たるもの、もうちょっとシャキッとして欲しいものだ。

○月○日 私は新聞で、かつて目にした事ない苗字に気付くと切り抜いて、私の「珍姓難読苗字辞典」に加えていく。で、今日目にしたのは「二位さん」。ドイツ文学者の池内紀に「二列目の人生、隠れた異才たち」なる著書があって帯の文句は、「一番を選ばない生き方」。南方熊楠にも匹敵する植物学者・大上宇一から始まって、古橋を抜けなかったもう一人のトビウ橋爪四郎まで計16人の生涯が描かれている。しかし、この二位さん、選ぶも選ばぬも最初から二位で、たとい一番取っても表彰台では「二位さん」と呼ばれる訳で、おっとりしたいい名だなあ。

○月○日 「二位さん」を切り抜いたら、二、三日して偶然にも「二界さん」が出た。言い換えれば「両界」だが、昨年の10月24日、世界遺産の京都は東寺の灌頂院で、重要文化財の「両界曼荼羅図(1693年,元禄本)が初めて公開された。両界とは「金剛界」と「胎蔵界」で、この縦4.1m横3.8mの曼荼羅図、真言密教の秘儀に使うもの。これの複製が「ふくろう文庫に」ある。野口観光の創業45周年記念にと野秀夫社長からの寄付で買えたもので、丸井今井デパートが健在の頃一度展示した事がある。以来大分経ったから、また開陳してみようかな。

○月○日 「教員養成系・人文社会学科系の廃止と、社会的要請の高い分野(具体的には理経?)への転換」を文部省が国立大学に要請した事に対して例えば文芸評論家の齋藤美奈子は、国側が文学、哲学、歴史学、社会学系等の学問は,何の利益も生まない「無用の長物」に見えるのだろうとして,文化を育む教養に危機迫りの論を張っている。阿刀田高も山崎正和も先頃「知」に対する欲求が失われつつあることを嘆いている。ノーベル平和賞のマララちゃんは「一冊の本があれば,人も世界も変わる」の意を主張しているが、その一冊が百田尚樹の小説である筈はない

司書独言(156)

○月○日 フランス東部のサンニコライドポールの町長が犬の登録を拒否した。最初ナンノコトヤラと思ったが読んで納得。その2頭の名は「イトラー」と、「イバ」飼い主は右翼の国民戦線FN党の人物。となると、イトラーは ヒトラー 、イバ は愛人 エバ・ブラウンの言い換えだと誰でもわかる。 続きを読む 司書独言(156)