第287回 アメリカと暴力 

下の詩は「奇妙な果実」と題された歌で,歌ったのは御存知ビリーホリディだ。① 南部の木々は/奇妙な果実をつける 血が葉をぬらし/ 根もとにしたたる 黒いからだが/ 南部のそよ風 にゆれる/ 奇妙な果実は/ ポプラの木からぶらさがっている

② すてきな南部の/ のどかな風景 飛び出た眼球/ ゆがんだ口 マグノリアの花の香りは甘く/ みずみずしい

するとふいに鼻をつく/ 焼けた肉の臭い!

③ ここにあるのは/ カラスがついばむ果実 雨にうたれ/ 風にさらされ  陽射しに腐って/  木から落ちる

ここにあるのは/  奇妙で苦い作物

黒人歌手のビリーは1959年に立った44歳の若さで死んだ。この歌をビリーがマヤー・アンジェロの息子のガイヤに歌ってやった時の話がある。因みにマヤーは黒人女性作家だ。

ビリーが歌っていると、ガイヤが訊いた。「のどかな風景ってなんのこと?」訊かれたビリーはガイヤの方を向き、その表情は冷酷で、声も軽蔑したような響きとなったと言うが、ビリーは言う。

「これはねえ坊や、白人たちが黒人たちを殺しているときのことなんだよ。かれらは坊やみたいな小さな黒人の子どもをつかまえ、その子のキンタマをむしり、それをくそっ、いまいましいったらありゃしない。その子の喉に突っ込むんだよ。これはそういう意味なんだよ」そしてビリーは続けて言ったそうだ。「これがね、やつらがやっていることなんだ。これがくそいまいましい、のどかな風景(Pastoral)ってやつなんだ」

ビリーが初めてこの歌を知ったとき、「パストラル」という言葉はどんな意味か?と訊いたそうな。「Pastoral」とは=田園生活の、田舎の、のどかな、ひなびたであって、ベートーヴヴェンの例曲名「田園=partorale」に関連する言葉だ。

つまりこれは白人による黒人へのリンチを物語る歌であって、lynch とは私刑、即ち法律によらない私的な残酷な刑罰を言う。因みにこの言葉はアメリカの治安判事・C.Iynchに由来する。それにしても、キンタマ云々とは穏やかではない?と疑う向きもおるやも知れぬが、私の記憶に間違いなければ、私はこれが事実で、それも子どもばかりでなく大人に対しても行っていた事実があることを、アースキン・コールドウェルの本などで読んだことが何回かある。コールドウェルは南部の作家だ。

このリンチは1889から1940年の間に3,833人に行なわれ、その90%が南部で殺され、犠牲者の4/5は黒人だった由。これが控え目な数字であることは言うまでもなかろう。

ところで、今年はビリー没後50年目・・・と言う訳で、デ―ヴィッド・マーゴリックの「ビリー・ホリディと〈奇妙な果実〉」を取り上げる  ①1

ビリーと言えば、1972年アメリカ作の「Lady  sing    the  Blujs 」=「ビリー・ホリディ物語・奇妙な果実」なる映画があって、ダイアナ・ロスがビリーに扮して仲々よかった。私は劇場で見たが、今 DVDを持っていないので、ここにはビリーホリディが「演技し歌う」唯一の映画出演作と銘打つ「ニューオリンズ』(1947年)を挙げておく。

かの、ルイ・アームストロングも出ていて、たのしこと、この上ない。ダイアナ・ロスと言えば、マイケル・ジャクソンの一時パートナーだった(よな?)

月面歩きのM・ジャクソンはさておき、リンチの話にもどすことにして、これを知るには鈴木透の「性と暴力のアメリカ」が非常に参考になる。鈴木は、「自警団が警察に代わって犯罪者を捕らえ裁判所の代わりに暴力で刑罰を与える」と「リンチ」を定義した上で、その発生と経過を語って悪名高い「KKK=クー・クラックス・クラン」まで持って行く。③2

自分たちにとって不利と看做した者を達を集団暴力で排除しょうとするこの精神構造は、聞くだに、見るだに、おぞましい者だが、鈴木は更に、ブッシュ政権の本質に触れてこう言う。「実際アメリカにおける暴力の伝統の重要な要素であるリンチには、戦争との類似性が見られる。

まず、両者とも何らかの大義名分を掲げて法規を無視し、暴力を正当化する傾向がある。リンチも戦争も、共同体の多数の支持があれば、正義の名のもとに正当化されやすい。又両者とも、人権無視の集団暴力と言える。」そして鈴木は、リンチ型戦争の典型として、ヴェトナムでの「ソンミ村虐殺事件」「パナマ侵攻」「湾岸戦争」『アフガニスタン侵攻」「イラク戦争」をあげていく。

当のブッシュはどうか。2005.10.6発言(ガーディアン誌)は例えばこうだ。「神が言うのだ。”ブッシュ、アフがニスタンのテロリストと戦うんだ”ってね。だからそうした。すると神が”ジョージ、イラクの圧政を終わらせるんだ”って言うじゃないか・・・・だからそうしたよ」。④3


私はブッシュは最大級の馬鹿だと思っているが、そう言う馬鹿を選ぶアメリア人てのはひょっとして政治的に成熟してないんじゃなかろうか。

黒人についての発言もふるってて、ブラジルの大統領F・カルドソに向かって「ブラジルにも黒人はいるの?」と訊いた由。その時隣にはブッシュを「我が夫』と呼ぶあの醜女のライスが座っていた由。ビリー・ホリディはブッシュを見ずに死んで幸せだったかも知れぬ。その馬鹿の前でプレスリーごっこをした馬鹿もいたっけな。

  1. デ―ヴィッド・マーゴリック・ビリー・ホリディと奇妙な果実・大月書店・(2003) []
  2. 鈴木透・性と暴力のアメリカ・中公新書・(2006) []
  3. 村井理子編集・ブッシュ妄言録・二見書房・(2006) []

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