第433回 安倍の27回のプーチン訪問「ウラジーミル君、君と僕は同じ未来を見ている」

引くのは「歯が浮く」、 ①歯の根がゆるむ。又酸っぱいものを食べたり、不快な音を聞いたりして、歯の根元が緩むように感じる。例「鎌入れて歯の浮く音やとぐさ刈り」(古今俳諧明題集ー秋)

② 軽薄で気障(きざ)な言動を見たり、聞いたりして、不快な気持ちになる。例「歯の浮くような台詞」この②にぴったりの見本が日本に災難を撒き散らす元祖迷惑男の安倍だ。安倍は官費旅行の常習犯で(これあの慎太郎と同じだが)、27回もプーチンに会いに行った。その結果ヌカシタのが「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」だ。こう言う手合いを北海道では「ベンチャラコキ」と言う。「ベンチャラ」は「機嫌取りの言葉」、「コキ」は「言う」だ。でプーチンと同じ未来を見る安倍は北方領土を一つも取り戻すことができなかった。樺太(現サハリン)はおろかロシアが一方的に奪った千島列島etc,安倍はプーチンの顔を立ててしまっただけで歯舞・色丹の2島までも戻ってこない。今プーチンはウクライナを攻めているが、日本もウクライナ同様国土を不当に奪われた側なのだ。けど安倍に違和感はないそれで、呆れたことにその安倍が今度は「日本はウクライナ国民と共にある」とツイターとやらに書き込んだと報道された。ついでに言うと、この役立たずの安倍(の外交)を褒めるのは田崎史郎。「プーチンと合わせるのがうまいんです」だと。この自称ジャーナリストの田崎は安倍他におごってもらって寿司を食うのが好きなので「田崎寿司郎」の異名を持つらしいが、我々の間ではこうした連中を「たかり専門」と言ってジャーナリストとは呼ばない。外交手腕ゼロの安倍のおかげで戻らなかった日本の領土に話を戻すとして、先ず樺太(サハリン)を取り上げようと思い、古典的にチェーホフの「サハリン島  (( チェーホフ.サハリン島 . 岩波書店(1953))) 」を出そうと思ったが、

我が書庫が本の山で中央公論版の全集が取りだせないので,代わる本がないかと引き出せる本を探していると、20年前に読んだ中村善和の「聖なるロシアの流浪1 」(平凡社)に目が行った。これ「大仏次郎賞」を受けた「聖なるロシアを求めて」の続編で、中に「チェーホフの聞いた噂」があり、1890年にチェーホフが来た時この島(サハリン)は巨大な監獄のようになっていて〜と説明しているのでこの本はチェーホフの本の代わりに十分なると思うし、他にも実に面白い話題が並んでいるのでこれにする。

序でにもう一冊。40年前に読んだ「露西亜学事始2 」を出しておく。中で、間宮海峡について「林蔵の人柄はともかくとして彼が実地調査して樺太が半島の一部ではなく、完全な離島であることを発見した業績はロシアでも認められたのですか?」「当時のロシアはもとより。現在のソビエトでも認めていません」とある。聞いたのは芹川喜久子、答えたのは高野朗。そのあとに「北方領土問題と今後の課題」があって、この問題が40年間かかっても何の進展もないことが分かる。この本も中村の本と同じく話題が豊富だ。江川卓が「ロシア文学翻訳の歩み」を担当してスターリンに殺されたバーベリやピリニャークについて語るし、ロシアに関心のあるものが必ずお世話になった「ナウカ社」については雨宮潔が語るといった具合にロシアと日本をめぐる文化状況がよく分かる。今だにいい本だ。いい本は古くならなということがよく分かる。

話を変える。報道によると「こまつ座」が24年ぶりに「貧乏物語3 」を上演するという。4月5日から24日まで「紀伊国屋のサザンシアターTAKASHIMAYA」とやらでやるというから、この「あんな本・こんな本」が出る頃はもう終わっているのだろう。

「貧乏物語」の作者はご存知井上ひさし.2004年大江健三郎らと9人して「九条の会、詩人の輪」えお作った、私に言わせると偉い人だ。この芝居は河上肇と、その妻、そして娘ら6人が主人公の由。今更説明する必要はないと思うが、一応 河上について。

ー(1879−1946)山口生まれ,経済学者、社会思想家。京大教授、治安維持法違反で投獄され、大学を追われた。著書は「貧乏物語」「自叙伝4 」などー。

全5冊の自叙伝は今岩波文庫に入っているが、私は昭和32年に第6刷りの版が出た時に読んだ。河上が投獄された年、1933年(昭和8)にはヒトラーがドイツで天下を取った。このヒトラーの「マイン・カンプ=我が闘争」を河上は刑務所の中で訳すことになる。ドイツ留学の経験を持つ河上に当局が課した獄内作業だ。

最初当局は河上を小馬鹿にしたように風船張りをやらせた。それが翻訳になったからまあ教授に相応し一長堂書店格上げだ。「マイン・カンプ」についての河上の感想はこうだ。「ナチスの親玉・ヒトラーの自叙伝みたいなものだ。これを訳していくと、ヒトラーという男は頗る無学な、すごく浅薄な思想の持ち主ではあるが、しかし恐ろしく体力の旺盛な俗耳に入り易い大音声の熱弁を有った、こぐ鼻息の荒い、希有のデマゴーグであることが能く分かる。」河上は早くもヒトラーの本質を掴んでいる。

「Demagog=デマゴーグ」はドイツ語で扇動政治家、民衆扇動家、扇動的な弁舌で大衆をある方向へ駆り立てる人のこと。中傷、でたらめな噂話、トランプの大好きな虚言は同じくドイツ語の「Demagogie=デマゴギー」から聞いているのは言う迄もない。さて、私は「こまつ座」の上演のニュースを知って、いい機会だから河上肇を取り上げようと思ったのだが、一寸考えた。今紹介したヒトラーの話は、もちろん河上の「自叙伝」に出てくる話だが、実は私は、この部分を一海知義の「詩魔〜二十世紀の人間と漢詩ー5 」(藤原書店)の中の「河上肇とヒトラー」から引いた。


私が「一寸考えた」というのはここで河上肇が初めての読者に、河上を馴染ませるには一海の本が最適ではなかろうかということだ。

「こまつ座」上演の「貧乏物語」には河上の妻が登場すると先ほど書いたが、その妻「秀」についても一海はその著「閑人侃語(かんじんかんご)」の中で「河上秀とは何者であったか」と題していい文章を書いている。先ず「河上肇というのは、この世の中から貧乏と不平等をなくそうと言う闘いを始めた。大変すぐれた方であった」として、その河上を支えた「秀」は包容力があった、心配りが大変良かった。慎重で且つ大胆であったetcと色々褒めた上、河上が牢屋に入れられて特高警察から毎日いたぶられていて、流石の河上も気が折れそうになる。その時面会に来た「秀』が貴方の友達は皆、貴方は学者として一生を貫いた人なんだから、どうか学者としての面目を全うさせたいと思っている。として「立場は違っても、本当に貴方のおためを考えてくださる方は皆そうなのです。〜無理をしてお出になると(=出獄)、せっかく早く出ていらしても後で後悔する事に決まっています。〜無事に勤め上げてお出になりましたのなら、やるべき事をやった、と満足したお気持ちになれましょう〜」と言う。これで河上は立ち直って、節を全うする。因みに一海によるとこの「閑人侃語6 」の書名の意味は「世捨て人の憎まれ口」の事の由。ついでだからもう一点「漢詩人河上肇と現代中国7 」他を含む一海の「典故の思想8 」(藤原書店)も紹介しておこう。


中国文学者で神戸大学名誉教授の一海知義は2015年11月15日急性心不全で86歳で亡くなったが、私はこの満身反骨と諧謔の人が大好きだった。何しろ兄3人を太平洋戦争で失った人だから、その反骨は並のものではなかった。一海の「陸游9 」「漢詩一日一首10 」(平凡社¥1,00)も私の好きな本だ。機会があれば又一海に触れたい。

  1. 中村喜和.聖なるロシアの流浪.平凡社(1997) []
  2. 野崎韶夫.露西亜学事始.日本エディタースクール出版部(1982) []
  3. 河上肇.貧乏物語 .岩波文庫(1965) []
  4. 河上肇.自叙伝.岩波書店(1952) []
  5. 一海知義. 詩魔〜二十世紀の人間と漢詩ー.藤原書店.(1999) []
  6. 一海知義.閑人侃語.藤原書店.(2002) []
  7. 一海知義.漢詩人河上肇と現代中国.藤原書店(2007) []
  8. 一海知義.典故の思想.藤原書店(1994) []
  9. 一海知義.陸游.岩波文庫(2007) []
  10. 一海知義.漢詩一日一首.平凡社(2007) []

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