第434回 吉野家常務発言と「吉原事典」メトロポリス美術館と「サックラー家」

2022.5.1寄稿

「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」「生娘をシャブ漬け戦略に」

いやー、びっくらこいたね!!。これ、ご存知、牛丼チェーンの吉野家の常務が発した言葉、否、暴言。カーナビだ、スマホだ、の時代に「田舎から出てきた、右も左も分からないなんてな人間がいる筈がない。そして「生娘」ときた。これ金田一京助の「新明解国語辞典」で引くと「まだ世間や男を知らない若い女性」序でに「生息子」=「まだ世間や女を知らない若い男性」で「きむすめにならって作られた語」だと。序でにもう一つ。塩田勝の「流行語隠語辞典」を引くと、「生娘=厳重に閉じてある倉庫や土蔵のこと。処女にして容易に破られないという意味から。又”小町娘”とも言う。これは俗に” 小野小町は一生貞操を破らなかったからだ、と言われていることからで警察用語だと。もう一つ同辞典から「処女=(本来は)農作に出ないで家に処(とどま)っている女、という意味で中国から来た語で=Virgin」だと。次は旺文社の国語辞典によると、「シャブ=俗語=覚醒剤の隠語」だと。

さて、吉野家に戻る。私がこの一連の発言を聞いた時思ったのはこの男はまるで「女衒(ぜげん)」だと言うことだった。「女衒」とは何か。永井義男の「図説大江戸性風俗事典1 」(朝日文庫、2017¥760)を引くと「人買い稼業である。農村を回り、貧農の娘を買い取り吉原の妓楼に転売した。吉原だけでなく、宿場や岡場所の女郎屋にも売る〜事実上の人身売買だった。」同じく永井義男のもう一冊「図説、吉原事典2 」(朝日文庫、2015¥700)も見てみよう。

幕府は建前としては人身売買を禁じていたが、〜「女衒はいわば人買い稼業である」とあって、その身売りの様子が次々と描かれる。更に「女衒は判人=はんにん」とも言うとあって、誘拐した女の子や男にだまされた女を妓楼(ぎろう)に売り飛ばす悪質な者もいて」親と離れるのを嫌がる娘にはには「毎日、白いおまんまが食え,綺麗な着物が着れるんだぜ」とニコニコ笑って娘をなだめ、ーだが、一旦買い取ると「不景気な、吠えやがるな(=泣く)とぜげん言い」となる。更に恐ろしいことに「女の子をさらう人さらいもいた〜「行方不明となり、神隠しにあったと言われる女の子のうち、女衒に連れさられたものは少なくなかったであろう。」とあって「女衒の生態」へと続くがもういいだろう。

田舎の娘に「白いおまんまが食える」と言い、これが私には「牛丼中毒(シャブ漬け戦略)に重なるイメージになる。常務なる者の言葉の古臭さ、妙に残酷な感覚、これが私に人権感覚ゼロの江戸の女衒を連想させるのだが、読者なら何を連想するか。そう言えば、戦後すぐの頃、町中で遊んでいる我々子供達は夕方になると誰ともなく「人さらいが来る頃だよ」と言い合ってふるえつつ三々五々、帰宅したものだった。あれは子供達の人さらいへの自衛手段だったのかもしれないな。とここまで書いて、室蘭には「吉野家」はないと気づいた。若い女性達には安全な町と言わねばならぬ。

英語の「Metropolitan」は①首都の、大都会の、②都会人ーのことだが、これに「Museum of Art」が付くとニューヨークにあるアメリカ最大の、して又世界有数の私立美術館の「メトロポリタン美術館」となる.1880年開館でギリシャ、エジプトから、近代に至る古今の名作を蒐めている.1866年に募金を呼びかけ始め、1970年に設立、80年に開館という訳で収蔵品約300万点以上。ここで昨年12月、妙と言えば妙な当たり前と言えば当たり前のことが起きたそれは、、、同館の寄付者の中にサックラーなる富豪がいる。このサックラー家は「パデュー・ファーマ」なる製薬会社を経営していて「オキシコンチン」なる鎮痛剤」が主力。これで得た金を美術館に寄せていた。ところが、安全な鎮痛剤の筈の「オキシコンチン」に依存症の危険があることが分かって、その上、同社がそれをすでに知っていたことが判明した。アメリカでは1999年〜2019年に約50万人が薬物依存症で死亡、そして「オキシコンチン」もその元凶の一つと分かった。となるとこの「汚れた金」を受け続けていいのかとの問題が起きるのは当然で、同館は2019年から、同家の寄付金は受け取らぬと決めた。その上で「サックラー家」の名前を冠した展示室(全部で7部屋)から「サックラー」の名を消すことにした。遅きに失したとは言え、この処置、人道的な意味からもよかった。これをきっかけにニューヨーク迄行きたしと思えど、ニューヨークは遠いと思う人のために全14巻「メトロポリタン美術全集3 」を出しておく。と書いたあと今日5月1日、日本で「メトロポリタン美術館展」が開かれていると知った。

映画評論家の佐藤忠男が3月17日胆嚢癌で91歳で死すとのニュースが3月22日に出た。川本三郎が追悼文で「苦労人である。大学を出ていない。早くに社会人となり、映画雑誌への投稿から評論家として立つようになった。そのため生活者の確固たる視点があった〜」と書いているが、この、私がアンダーラインをつけた所が佐藤の評論の魅力でさすが川本、いい事を言ってくれたと思うので引いた。佐藤はたくさんの本を書いているが、死亡記事には芸術選奨文部大臣賞を受けた「日本映画史(全4巻)ばかりが取り上げられているので、私は1985年に出た「キネマで砲声ー日中映画前史ー4 」(リブロポート)を出しておく。

これには、関東大震災のドサクサに紛れて、無政府主義者の大杉栄とその妻伊藤野枝と大杉の甥っ子の少年橘宗一を殺した例の甘粕正彦憲兵大尉はもちろん出てくるが、私が知って欲しいのは岩崎昶(あきら)、筈見恒夫亀井文夫らの私が日本映画の良心と信頼する人たちの事だ。

この本は中国を植民地にしようとした日本の歴史を描いているがいい機会だから此処で逆に戦いに敗れてアメリカの植民地(と言っていいと思うが)にされた日本の映画界で何が起きたかを語る新藤兼人の「追放者たちー映画のレッドパージ5」も出しておこう。

丁度20年前の2002年にエッフェル塔をめぐってスキャンダルがあった。職員の一部が結託して、入場料を猫ババしていたのだ。その額9年間で4億円、その塔に今年3月15日新しい6mのデジタルアンテナがついて、身長が延び330mとなった。私はパリに行っても此処は登らなかった原因は2塚清①つは私が高所恐怖症なこと②は高校3年に読んだ河盛好蔵の「モッパー伝」でモッパーサンがこの塔が嫌いで毎日此処のレストランに来る「此処で食事するとエッフェル塔を見なくて済むからだ」。の誰もが知っている屁理屈が好きだったからだ。身長が伸びたの記事を切り抜いて貼るために久しぶりに出したのがアンリロワレットの本書。棚の隣に新井満の「エッフェル塔の黒猫 ((新井満. エッフェル塔の黒猫。講談社(1999))9」が、これは題名に反してサティを語った本があった。本欄第431回でサティの本を色々出したが、漏れていたので改めて加える。表紙の絵は有名な「黒猫亭」=Le chat Noir シャ=猫 ノワール=黒 のポスターの絵だ。作者はT・Aスタンラン

私はパリのタクシーの運転手に「シャ、ノワール」の発音が悪いと3度程言い直させられた。

 

  1. 永井義男.図説大江戸性風俗事典.朝日文庫(2017) []
  2. 永井義男.図説、吉原事典.朝日文庫(2015) []
  3. メトロポリタン美術全集.福武書店(1991) []
  4. 佐藤忠男.キネマと砲声ー日中映画前史.岩波現代文庫(2004) []
  5. 新藤兼人.追放者たちー映画のレッドパージ.岩波書店(1983) []

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