司書独言(246)10月号

◯月◯日/ 朝日に連載の「折々の言葉」は中々読ませる。鷲田清一がやっている。その7月6日に宇多喜代子の「目分量というのはたいしたもんだと思う」が出ている。

宇多の母親の思い出話で、ミシンをかけながら、母が宇多に料理中のものに「醤油を入れろ」とか「そこで止め」とか言う。その「目分量」が適切で正しかったと感心する話だ。宇多喜代子と知って、「あー、あの人か」と10年も昔読んだ「ひと束の手紙ー戦火を見つめた俳人たち〜」を書庫から出してきた。

◯月◯日/ 2011年9月10日に苫小牧の未来屋書店で買っている。この日私は苫小牧の図書館で「ムソルグスキー”展覧会の絵”の画家は誰?」と題して2時間の講演をしている。これは「ふくろう先生(私のこと)と行く知識の森」第5期目だった。だからこの本、その帰路に買ったものだろう。

◯月◯日/ 宇多のこの本は中々読みがいのある本で太平洋戦争中に俳人たちが受けた災難がいろいろ書かれている。例えば、晩秋なので「枯れ菊や」とやったら天皇家の紋章を何故枯れさせるのかと咎められたとか、「花赤し」とやったら「赤化思想だ」と咎められたりetc。「赤」と言えば室蘭でも「赤いセーター」を着た娘が「共産党」だろうと睨まれて、海岸町にあった水上警察署でいじめられたという話があったな。

◯月◯日/ 雨が続くと時々ダンゴムシが居間に入ってくる。つまむと鎧を着たようなその身体を丸くして固まる。我妻さんは外に出すが、私は試しと思ってトイレに捨てる。すると、この虫、平然としてトイレの水の中で動いていてびっくりさせられる。それが、先日の新聞の豆知識欄にこの虫が出ていて、このダンゴ虫、先祖は水中生活だったそうで、その名残りで、いまでもナント水を飲むのに尻から飲むのだという。これじゃトイレの水なんか屁でもないなと納得している。

◯月◯日/ 水が平気と言えばワラジ虫もそうだ。庭の睡蓮鉢で飼っているメダカと金魚の餌にワラジ虫をつまんで入れるが、見ていると少なくとも一晩は平気で鉢の底を動き回っているね。たいしたもんだ。ワラジ虫で妙なことを思い出した。昭和30〜40年代(だったか)東大での宇能鴻一郎)が「鯨神」で芥川賞をとった。そこまではよかったが、この男その後、早い話が一人称ポルノ小説を書くようになって、そのついでに,性の手引書も書くようになった。

◯月◯日/ その一冊に書いてあったのだが、女を悶絶させるあの手この手で、その中の一つが、ワラジ虫を使う話。女を風呂に入れて、手を動かせぬようにして両の乳首だけを湯の上に出させ、その乳首の上に数匹のワラジ虫をは話せる。ワラジ虫は湯に落ちまいとして、モゾモゾと動き回る。この刺激が女を悶絶させるのだと言う。本当かどうか、ワシャ知らん。それにしてもこの作家、まだ生きているのか知らん。

◯月◯日/ 庭と言えば、今、我が家の庭はオニユリが全開だ。これ、古く中国から食用作物として伝えられた由で、全部ルスツの農園から買ってきて、食べた余りを庭に埋めておいたら増えたもので、300余の花で庭じゅう橙色に染まっている。我ながら余りに綺麗だから記念に写真を撮ろうと思ったが、ここ久しくバカチョンカメラ(と言ったか)を手にしたことがなく土台何処にしまってあるかがわからぬ、スマホなるものがあれば、直ぐに写せるだろうが我が家には、ケイタイもスマホも無い。それで、そう言えば、昔ポラロイドと言うのがあったなあと、電気屋に行ってみた。有る有る。

◯月◯日/ 中でおすすめときたのが、値を見て仰天、ナント¥15,800-これじゃユリの根どれ程食べることができるかーと考え直して止めた。帰宅して新聞を整理していたら「デジタルと進化」の見出しで、おすすめのが出ている「AR技術を使い,画像に文字や絵柄などをつけられるようになった」「スマホの動画からベストの瞬間を選んで現像もできる」云々とあるが、いずれにしても我が家には無縁のカメラと分かった。

◯月◯日/ とここまで書いて、、、3日前私が図書館に行っている間に江別の阿部夫妻が家庭農園で採れた野菜を持って来た。我妻さんも丁度所用で出かける所で、玄関先の立ち話になってーその時,阿部夫妻が庭のユリを見て「すごいですね」と感嘆の声をあげたと言うのだ。その時どうしてスマホで、写すことを我妻さんも阿部夫妻も気づかなかったのか。今室蘭はコロナ増加中、室蘭在住の人間に態々写しに来てもらうのも気がひける。まあ辞めよう。その代わりもう一年生き延びて来年こそは、としよう。とは大袈裟な。高々ユリのことなのにね。因みに阿部君は室工大の建築卒、妻君の美智子は新日鉄のの研修図書室に居て、私たちが仲人した夫婦だ。

◯月◯日/ 戸を開けたまま玄関で片付けをしていたら、音もなく男の子が目の前に立って「おばちゃんいる?」と聞く。「何処の子だ」と言うと「◯◯◯◯」と答える「そこを押せ」と言うと呼び鈴を鳴らして、「オジイチャンオバチャンに言われて片付けをしているのか」と聞く。可愛くないガキンチョだ。そこへ我妻さんが出て来て「おー、◯◯君」と言って「上がる?」と聞く。「うん」と答えてガキンチョは部屋に入った。片付けを終えて私も居間に戻ると、4歳だというその子はもうすっかりくつろいだ姿だ。我妻さんがグレープジュースを出すと「ぶどうはないの?」と言う。聞いて私はフランスの小話を思い出した。それは、、、

◯月◯日/ 訪ねて来た友人に妻がぶどうを出すと、客の男は「私は固形物よりも流動物の方が好きなんですけどね」と言う。で。妻はワインを出した云々。ガキンチョはぶどうをつまみながら、お母さんはまだぶどうを買ってこないけれど、おばちゃんは何処で買った来たの」なんて言う。我妻さんが「◯◯君の所に猫がいるの?」と聞くと「2匹。セルナとコッコ」と言う、私が「コッコ?鶏みたいだな。コケコッコ〜と泣くのか」と言うと「違う」と言う「なんて鳴く」と言うと「にゃー」と答えたその声とその顔が実にいい。まことにめんこい坊やだ。とそこへ母親の呼ぶ声が聞こえてこの4歳児「ごちそうさま」と言い置いて、飛んで行った。感心なものだ。しばらくして母親が小ぶりのかぼちゃを一個持って来た。

◯月◯日/ 日本の人口が減って、今や世の中少子化の問題でうるさいが、我が家の向かいは、小学6年頭に5人、隣りは中小の2人、裏が小2を頭に3人、左向かいは子供6人が中学出て直ぐに勤めに出て、皆18歳過ぎるとすぐ結婚して、それが、今、各々子供を連れて毎週親の所に来るから賑やかだ。6人がまだ子供の頃この家には夫婦の両親が健在で夫婦の2,爺さん婆さんが4,子供6で一家全部でいつぞや新聞に出た。が、妙なことに住所が書いてない。聞いてみたら、新聞社が誘拐などを防ぐための手段ですと言ったと言う。成程ね。

◯月◯日/ 庭に出ていた我妻さんが窓を叩くので開けるとナメクジの卵を見たいかと言う。今親指大のナメクジを下水に流したがそのあとにあるという。見せてもらうと仁丹より大き透明な粒が連なっていて、意外やきれいだ。これで思い出したのが坪内稔典。彼によると「嫌われながらもゆったり生きるナメクジの存在を認め、そのゆったりをまねたい」という意味の「ナメコロジー」なる新語を作った「ナメコロジー研究会」があるそうで。坪内はその「ナメコロジー大賞」を2006に受賞したそうな。因みにナメクジは殻がなくては生きていけぬカタツムリから進化して殻なくて生きていけるようになったと前に読んだことがある。

◯月◯日/ 林真理子(68歳)が日大の新理事長になったが、私は林に余り良い印象をもっていない。その理由の①はいつぞや林が「小説の書き出しなんて大して苦労はしない。原稿用紙に向かって机の上に散らばっている物を描写している中に〜」みたいな粗雑な話をしていたのが好きでないのとその②はこの人確か,アベ系の「新しい教科書をつくる会」の会員の筈だ。それが一番嫌いだ。日本ペンクラブの会長になった桐野夏生に感じる社会に対する問題意識が大分異なるように思うがね。

◯月◯日/ 不景気なコロナを吹き飛ばそうとして各地で花火が打ち上げられている。その花火遊びに夢中なばかりに火事まで仕出かして、町中から厄介者として嫌われる青年の悲劇を描いたDVDを見た。これ、1996年4月28日、オーストラリアのタスマニア島で起きた無差別銃乱射事件の実話の映画化。死者35人、負傷者15人を出した事件だ。タイトルは「ニトラム」で実の名Martinを逆さに読んで「間抜け」の意味となる仇名だ。後味の悪い映画だが訴えたる事は大きい。精神障害があって疎外される人間の怒りだ。

◯月◯日/ 巨石群と聞けば、トーマス・ハーディの代表作の悲劇「テス」の最後の舞台となった英国のストーンヘンジを想起するが、8月下旬、スペイン南部のアンダルシア自治区で、500個以上の巨石が並び立つ欧州最大の巨石群が発見されたとのニュースが出た。これとは関係なさそうだが今夏の干ばつで河底や湖底から色んな物が現れてきている。冗談にもならないが、干ばつの功と言うべきか

◯月◯日/ 私はフランスの作家「ゾラ」を一番大事な作家とする者だが、その理由は、ゾラが「ドレフュス事件」で、あるべき作家の姿を示したからだ。これについては私の「本の話」で何度も取り上げた。その事件が今、ロマン・ポランスキー監督の手で「オフィサー・アンド・スパイ」のタイトルで映画化されたという。そして、ドレフュスの孫で95歳になるシャルル・ドレフュスが「日本の若者と接したい」と望んだとて、東京都立西高校の生徒たちとオンラインで話し合い「差別と闘う手段は教育しかない。歴史の負の遺産を後世に伝えていくことが大事」と訴えた由。大したもんだなあ。ユダヤ人ドレフュスを苦しめた反ユダヤ主義は未だに続いている。

◯月◯日/ 上野千鶴子ら有名人17人が呼びかけたアベの「国葬」反対の署名40万人分が内閣府に届けらえれたとのニュースが9月6日に出た。私たち夫婦も署名した。上野については前にも書いたことがあるが一つ思い出がある。私が室工大に在任中、全道婦人大会(だったか)が室蘭で開かれて、私はパネルメンバーとして招かれた。行ってみると、200人程集まった中、男は私だけ。

◯月◯日/ 控え室で、上野に「この人は室蘭工業大学の人」と紹介されると、上野は「あら、室蘭に大学があるんですか」と言った。私は「貴方と同じ国立大学です」と言い、序でに室蘭には「地球岬灯台(東大)もありますよ」と加えようかと思ったが駄洒落にもならぬので止めた。しかしこれは上野らしからぬ、地方を見下したような発言だ。只今回の呼びかけは立命館大学から室工大に転勤になった憲法学者の清末女史が呼びかけ人の一人になったから、上野も室工大の名を覚えたかもな。

◯月◯日/ 「国葬」反対が「読売でも」56%とのニュースが出た。「読売でも」と言うところがいいな。帯広市の教育委員会が小、中学校に半旗掲揚を要請したのが7月12日、北海道ではここだけ。ずいぶん早いお達しだと思っていたら、市議と,道議の親子が旧統一協会だとわかった。この親子統一協会は止めないと言っている由。大したもんだと来たもんだ。北海道新聞に、「国葬は赤木さんにこそふさわしい」との意の川柳が出る時勢だと言うのにな。

2022.8

山下敏明

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