第346回 戦争賛美の俳人、詩人達.イギリス小説の特性

2014.8.1寄稿

世の中に「うまい話」はそうざらには転がっていない、と言われて、それはそうだろうが、面白い話、笑わせてくれる話は,新聞読んでいるだけで結構ある。文芸欄も投稿欄もその意味では馬鹿に出来ない。 続きを読む 第346回 戦争賛美の俳人、詩人達.イギリス小説の特性

第347回 ワンコイン美術講座で取り上げた画家達

の今日は9月7日(日曜日)、昨土曜日、今月第四土曜日の9月27日予定の第40回「ふくろう文庫ワンコイン美術講座ー童画の巨匠.武井武雄ーの世界」の用意で手伝いに来た幼馴染の泰子が「今迄やったワンコインの画家達についての本をこの「あんな本〜で取り上げてくれたら、復習するのに役立って嬉しいんだけどな」と言う。 続きを読む 第347回 ワンコイン美術講座で取り上げた画家達

第345回「富春山居図」と故宮の秘宝.ウクライナ抵抗詩人

2014.7.6寄稿

予告編を見て面白そうだとDVD屋から「101回目のプロポーズ」(1991年策中国映画「101次求婚」)を借りて来た、話しは面白いし、主役の女優が実に好い女でほれぼれ見ている中に、「アレ、この女優、レッドクリフの女優か?」とつぶやくと我妻さん=家内が、今頃気がついているのという顔で「そうよ」と言う。 続きを読む 第345回「富春山居図」と故宮の秘宝.ウクライナ抵抗詩人

第344回 亀は鳴くのか?茶道とキリスト教の儀式

2014.06.14寄稿

私が大学時代前半、「創元文庫」は名の通り創元社が版元だが,この会社は矢部良策なる人が1925年に大阪で始めた出版社で,1951年9月この文庫の創刊。本の扉の裏に著者紹介と著者の写真が着いて,独自の品揃えで人気があったが,1954年に約を500点を出して倒産した。

ゾッキ本が出たのはその余波で,返品されたものが出されたせいか、縦横1㎝程小さくなっていた。と言うのは,もちろん汚れを落とすためで,今のBOOK   off    の店ならもっと上手に処理するだろうが,時間が早いから,単純明快に裁断した訳だ。だから今,私の棚を見ると,この文庫の本だけが寸足らずで,頭が低くなっている。このゾッキ本で,私が主に買ったのは,ロシア文學で,アンドレーエフとかクープリンとかソログーブとかアルツバーシェフとかメレジコーフスキイとかフリーチェなどがその著者だった。

さて、ここに「ぼくの創元社覚え書1 」なる一冊がある著書は高橋輝次で元創元社の編集者、と言うより今では古本に詳しいフリーの編集者と言ったらよいか。私の棚にも「古本漁りの魅惑(東京書籍/2000年刊)」、「古本の蘊蓄」(燃焼社/平成9年刊)「古書往来2 」(みずのわ出版/2009年刊)などが並んでいる、父親が輝一で、それを次ぐ息子が輝次と,自己中心的な前を付けられたとボヤキながら,三浦しおんの名は両親が文学好きで石川淳の「紫苑物語」から取ったと言う三浦自身の話しをして、しおんが後で調べたら「紫苑」には「鬼の醜草(おにのしこぐさ)」なる、ひどい別名があると知ったと,三浦がフンガイした...と言うような面白いことを書く。

三浦とは、言うまでもなく先頃映画にもなった「舟を編む」で当たりに当った人だ。しおんはともかく「僕の創元社〜」は私のように創元社文庫や又創元社選書に少なからず恩恵をこうむった世代の人間には,面白いだろうくらいの感想でやめておく。

それよりもこの本でも一つ面白かったのは,この本の出版社の名前でそれは「亀鳴屋(かめなくや)」金沢の本屋、部数が少なくて現に私の所持する「僕の創元社〜」も540部限定の304番本。

「カメナクヤ」で思い出したのは曲亭馬琴の「俳諧歳時記栞草」(岩波文庫)、その上巻の「春の部」に「亀鳴」が出ていて〔夫木集〕に「川越のおちの田中の夕闇に何とぞ聞けば亀の鳴くなり」とある。夫木(ふぼく)は鎌倉時代の私撰和歌集で藤原長清が選者だが,入集歌人で一番多いのは、この歌の作者・藤原為家。この歌結構有名で金子兜太編で私が重宝している「現代歳時記」にも、「この歌が始まりで春の季題になった」とある。亀はお経を読む人の声に似た声で鳴くと言う意味の「亀の看経(かんきん)」なる言葉もあるから、亀は鳴くのかも知れんが、私の蔵書中「亀」に関してのたった1冊の「かめものがたり3  」には何も出てナイから、真意の程は分からぬ。

大分前、ブラジルだのボルネオだので新種のカエル発見のニュースがある位だから鳴く亀もどこかで見つかっているかも知れぬ−と、某紙の「〜相談室に」「亀は鳴くのですか」との質問を出したが、ナシのツブテで、思うに亀は鳴く筈はなく、こんな馬鹿な質問に付き合ってられんと思われたのだろう。そのうち、金沢の「亀鳴屋」に命名の由来を訊いてみようと思っているところだ。

過ぐる5月17日に、「北海道学校茶道連絡協議会」なる大会で、全道から集まった300人余の全部女性茶人達(男性は2人のみ、あと4.5人の男性は来賓)に「茶経、茶の本、天心の恋」と題して講演した。「茶経」は茶の百科と言われる古典で、中唐の人・陸羽が書いたもの。「茶の本」は「茶経」を英訳したタイトルで、つまり経=本。最後はその本の著者・天心と星崎波津子との悲恋。自分で言うのも変だが大好評だった。

私は「茶経を語るついでに「ふくろう文庫」が所蔵する趙原画「陸羽烹茶図」も飾って聞いてくれる人の理解を助けた他、戦前の「茶経〕の研究科でかつ精神科医の諸岡保についても語ったが、京都から来た来賓は、「この話は初めてです」と言っていた。この講演を依頼された時、私は直ぐに「茶経」を連想したのだが、そのうちに「あの話はどうかな〕と思ったものがある。それは「茶道にはキリスト教の影響がある」との説。

これ、平成8年に出た増淵宗一著「茶道と十字架4 」なる文献に「むかしは濃茶(こいちゃ)を一人一服づつたてしを、その間余久しく主客共に退屈なりとて、利休が吸茶に仕そめしとなん」とあるそうで、いわゆるまわしのみのことを当時は吸茶と言ったわけだが、これ何のためかと言うのを、「茶」の方では「一味同心」なる言葉で説明する。


つまり、連帯感や親密感を強めるため、又利休の時代は何と言っても戦国の世だから、毒の危険はないぞとの意味もあったらしい。これが昔のキリスト教でミサの時、一つの盃から信者達がブドウ酒を順にまわし飲みした儀式を真似したもの...ではないかと増渕は言う。又茶器などをしまう前に拭く「袱紗捌き」の動作が、キリスト教の坊さんが聖盃を拭くやり方に一致すると言う。して又身分の関係なしに、全員身をかがめて「躙り口」から入る、まあ一種の民主主義的行為は、聖書のマタイ伝にある、有名な「汝、狭き門より入れ」なる言葉にヒントを得たもの、という。

して又、例の「利休七哲5 」のうち,蒲生氏郷、高山右近,牧村兵部はクリスチャンだ...


ということは,右近はルソンへ追放されたし,氏郷は毒殺された...以上の説を「妄説」と断定する本もあるけど,ところがドッコイでで,利休の孫・宗旦の次男・一翁宗守を祖とする武者小路千家14代家元・千宗守は,前述した如く「濃茶」はカトリックの聖体拝領の儀式からヒントを得たのではないかと主張して,1994年ローマ法王ヨハネ・パウロ2世にバチカンで会った時、言ってみたところ否定されなかったそうな。果たして「妄説」かそうでないのか,15代の宗屋は、このあとどう主張するのか、これからが楽しみだ。

ところで、気の毒なことに「利休にたずねよ」の原作者・山本兼一は昨年3月病没した。生きていたら「キリスト影響説」を深めてくれたかもな。

2014.6.14「利休にたずねよ」を観た翌日、これを書く。

 

  1. 高橋輝次.ぼくの創元社覚え書.金沢市・亀鳴屋(2013) []
  2. 高橋輝次.古書往来.みずのわ出版(2009) []
  3. 宮田保夫.かめものがたり.成星出版(1998) []
  4. 増淵宗一.茶道と十字架.角川選書(1996) []
  5. 村井康彦.利休七哲.淡交社(1969) []

第343回 歴史修正主義、保守論壇亡国論

2014.5月寄稿

都知事選で負けた細川元首相の敗戦の弁が仲々いい。曰く「脱原発は文明の転換を求める戦いです。日本人の生き方の問題です」。曰く「(安倍政権は)無茶苦茶ですよ。とりわけNHKの問題はひどい。経営委員の百田尚樹って作家が応援演説で口にしたらしいね。私をはじめ他の候補を『人間のクズ』だって。あきれた。

品がなさ過ぎます。籾井勝人会長も、従軍慰安婦はどこの国にもいたと言った。そういう人達が安倍さんのお友達なんだから。この国がどうなるのか、心配でたまらんですよ」。曰く「戦前に回帰しようともくろんでいる人達が、いつまでも枕を高くして寝ていてもらっては困るのでね」

この百田と並んで問題なのは,同じく経営委員の長谷川三千子なる哲学者。その発言たるや…以下を御覧じろ。

日本は何故戦争に負けたのか?。長谷川の答え=「それは日本が敵国に与えた『被害』が不十分だったから」この敗戦を乗り越えるためには?。答え「一番現実的な手っ取り早い方法は,もう一度戦争して勝つ」こと。

ギリシャ神話によると,昔、戦闘と狩りを好む女のみの部族がいて、弓を引き易いように邪魔な乳房を切り取ったのでアマゾン(=乳ナシ)と呼ばれた...と言うが、この長谷川大和民族じゃなくて、その部族の出か知らん。

ドイツの女性版画家・ケーテ・コルヴィッツは、戦争で息子を失い、反戦に徹したが、一男一女を持つというこの長谷川はこのざま、ひとしく母親とはとてもの事思えない。戦争したいこの母親、もちろん一男一女を人に先んじて出陣させるだろうな。この長谷川は又、ヒトラー並に「生めよ増やせよ」の信奉者で、女性の社会進出が出産率を低下させたとして、「男女共同参画社会基本法」に反対している。

「女権」を主張する女性達はこれをどう見るか?、放っておいていいのか?。

ところで、長谷川と来て、昨今の情勢でいけば連想されるのは桜井よし子。その桜井の「迷わない』が150万部も売れているという。これをヤンワリとやりこめたのが精神科医の斉藤環。曰く「迷わない」彼女の楽観主義は、ひとたび保守と融合すると、内省を欠いた歴史修正主義に結びつきはしないか。

親孝行から愛国心までを地続きで考えるタイプの保守主義は、個人主義の抑圧と弱者の排除を繰り返してしまわないか。下線は例えばユダヤ人殺害はなかったという立場。

さて、こうした保守の身内からすごい本が出た。三島由紀夫の憂国忌の発起人も務めると言う保守中の保守の哲学者・山崎行太郎の「保守論壇亡国論1 」。先の桜井よし子を先頭に切られに切られた面々は、渡辺昇一、西尾幹ニ、西部邁たち。桜井については、論を捏造する、論点をすりかえる…変節女で定見ナシと片付ける....etc.と保守思想の劣化を嘆いて、いや納得納得。身内の中の身内のこの批判に、桜井たちはどう返せるのか、返せないだろう。イヤそれよりも、こんな連中の本をお金を出して買って読むのを止した方が、山崎の「憂い」に対する一番まともな反応かもな。

この春、建築史家の鈴木博之が病没した。びっくりした。肺がんだった由。鈴木って誰?と言う人には、学歴のない安藤忠雄を東大の建築学科へ教授として招聘した人と言えば分かりやすいか。ソンナコト位と言うなかれ。東大と言う所は医学部に他大学出身の人間が入ると言うだけで、両国橋から向こうの人間が来たタメシなしと騒ぐところだ。鈴木の功績は、例えば東京駅の復元、国立現代建築資料館の創設、それに、庭師・小川治兵衛の」顕彰と巾広い。私が最初に読んだ鈴木の本は。昭和57年の「ジェントルマンの文化2 」。私はこれ、英文科生としての興味から読んだ。ジェントルマン=紳士の発生は、3,000エーカー以上の土地所有者が条件だが、そのうち土地関係なしに、高級専門職の人が含まれて。19世紀末には、画家、彫刻家、音楽家、土木技師らも仲間入りした。例えばその中に工部大学校=東大で正式に建築を教えた、J・コンドルがいる。私は「ふくろう文庫ワンコイン美術講座」で、このコンドルと河鍋暁斎を取り上げたが、その時、30年振り書棚から出したこの本と、1999年刊の「ヴィクトリアン・ゴシックの崩壊」(中央公論美術出版)は大いに役に立ったものだ。

これをかいている今日は5月3日(土)。今午前9:00、朝刊には韓国地下鉄でナント電車の追突事故があり、200人負傷と出ている。船の沈没といい、女性大統領には気の毒と言う他ないが、沈没のセウォル号とやらは、新聞を読めば読む程イヤハヤ....で、そのうち別の沈没美談を思い出した。トルコの「エルトウールル号」の沈没事件。これ私は「本の話」の379回(2003.11.9)で触れたことがああるが、2010年刊の「本の話・続」は371回迄で、この話しはまだ本になっていないから、ここで再度取り上げる。

エル=雄、トウールル=隼だがこの船名にふさわしくなく老いぼれ船で、トルコから条約締結他の用で日本にきたはいいが、帰路の明治23年9月16日(9月16日は私の誕生日)、紀州熊野灘で沈没した。587名が死亡し、69名が助かったが、このとき救助活動したのが地元樫野崎の漁師達。最初に遭難者たちを見つけたのは、高野友吉。そして、今年1月上旬、エルドアン、トルコ首相が京都で高野の曾孫の堀口徳弘に感謝を伝えた。この美談2015年に映画になる由。詳しく知りたい向きは、杉田英明の本「日本人の中東発見3 」を読むべし。「竹取り物語」と「宇都保物語」とトルコの関係を語る第一章から、トルコ文化百科よ言うべき、地中海ヘレンド学会賞受賞の驚きの本だ。


「ふくろう文庫」の支え人、松山の俳人・栗原恵美子女より、散歩に出かけたる所、音楽喫茶のグループが公園で唱っていたので、自分も飛び入りで「月の砂漠」と「箱根の山」を歌ってストレス発散....との春の便りが届き、おかげで私も小学6年卒業時の学芸会で「月の砂漠」の王子様に扮したのを思い出して、写真をだしてみたら、ちっとも変わってなかった(筈はナイ)。じゃによって、「月の砂漠4 」詩碑建立祝賀記念出版の珍しい一冊をお見せする。1989年(平成元年)11月4日、第一回「鷲山第三郎のこと」を皮切りに、24年間室蘭民報に掲載されて来た、「本の話」が、2004年5月に1冊目として室蘭民報より、出版され、2010年9月に「本の話・続」として、同じく室蘭民報より、出版されております。室蘭民報社に掲載された回数は、今は640回をこえて連載中です。その中の371回までを2冊にまとめたものです。希望の方は,下記宛にお申し込み下さい。

2冊で定価2300@4600円+送料450円 計5050円

「普通為替」番号「051-0015」にて申し込みください

室蘭市本町2丁目2-5 市立図書館「ふくろう文庫」山下敏明宛

  1. 山崎行太郎.保守論壇亡国論.K&Kプレス(2013) []
  2. 鈴木博之.ジェントルマンの文化.日本経済新聞社(1982) []
  3. 杉田英明.日本人の中東発見.東大出版会(1995) []
  4. 詩碑建立祝賀記念.月の砂漠.今野書房(1969) []