第172回  大月源二と蟹工船 ロシアの画家レーピン

`00.10.20寄稿

画家、大月源二の評伝が出た。著者は旭川在住。貴方が文学好きで、絵も又好きで、おまけに北海道生まれだとしたら、「大月源二」の名は知っていると思うがどうだろう?。私は「大月源二」と聞くと「小林多喜二」の小説に挿絵を描いた人、そしてロシアの「レーピン」なる画家の評伝を書いた人として思い出す。 続きを読む 第172回  大月源二と蟹工船 ロシアの画家レーピン

第171回 フランス文学者 青柳瑞穂

`00.9.29寄稿

東京は渋谷の駅を降りて、青山学院大学へ向かう坂を「宮益坂(みやますざか)」と言うが、登りきって一寸行った辺りに「中村書店」という、詩の本を集めている本屋がある。(今もあると思うが) 続きを読む 第171回 フランス文学者 青柳瑞穂

第170回 東京アンダーワールド.放送禁歌本.他

`00.9.14寄稿

私の姉が、昔プロレスを観て来て、呆れて言うには「リングからたたき落とされたプロレスラーが、リングの下に這い込むので、何をするかと幕の隙間から覗くと、中で頭や胸に血糊(ちのり)を塗っていたの」と。

プロレスは私が大学生の頃、昭和30年代に流行り出して、プロレスの始まる時刻に食堂に入ろうものなら、満員で空いている席は炭に釣っているテレビ台の下だけで、私はプロレスが好きでも無いから「ラッキー」とばかりこの席に座ってソバなぞを食べたものだが、満員の客が皆私の方を向いて、と言っても、全員の視線はテレビの画面に釘付けで、私だけが皆の顔に向かっていると言う妙な型になり、おかしかった。

室工大在職中、我が家にしょっちゅう飲みに来た秋田出身のNはプロレスが大好きで、どんなに飲んで話が弾んでいても、そそくさと帰る時があって、その時は必ずプロレスがある日なのだった。

「プロレスの何がそんなに面白いのか」と質問すると、「あれは非常に危険なスポーツで、その危険をさけつつ、如何に本当らしく闘うか、と言うショー的な技術の上手い下手が面白いのです」と言った。プロレス無関心の私でも、力道山は知っている。ケレドモ、アニワカランヤ・・・。「彼は政界や財界や、闇社会の有力者の為に、極秘で夜間に不法賭博を主催するのが好きだった」そうだ。また、「彼が東京で1・2を争う犯罪組織の名誉会員である事実を、世間にはあまり知られていなかった」そうだ。

そして更に「東京のナイトクラブのさきがけと言える<ニュー・ラテンクォーター」は、外国の諜報社会や日本の闇社会の連中がたむろする、悪名高き社交場だった。力道山は、ここの男子トイレで刺された。この事件についてはCIAの陰謀説を唱える声もある」そうだ。

こんな話が続々と出てくる①1 は、既に十指に余る批評が出ているので、私ごときが取り上げる必要も無いようなものだが、日本人が知っておいて悪く無いことが、沢山出てくるという意味で、すすめずないではいられない。

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高倉健の映画はほとんど観て来たつもりでいたが、と言うことはつまり、高倉健の映画についてなら何でも聞いてみて!という感じでいたのだ。ケレドモ、アニワカランヤ・・・。「網走番外地」の主題歌が「放送禁止」の歌だとは知らなんだ。

「知らなかった」と言えば②2 にはそうした話がゴマンと出て来たが、②にも「網走〜」を始めとして知らなかったことが続出する。

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私は演歌がしみじみと好きな男だ。従って、北島三郎も好きだが・・・彼の「ブンガチャ節」・・・例の「ブンガチャ チャ ブンガチャ チャ」のはやしが出てくる歌が「放送禁止」の歌とは知らなかった。

もっとも私の場合、正確には「知らなかった」ではなくて、「忘れていた」なのだが、それはどうしてかというと、昭和52年(1977年)にルック社から「禁じられた歌 −発禁放禁のすべて−」なる本(絶版)が出ているからで、それにもこうしたことは出ておった。

どうしていかなる理由で「健サン」やら「サブチャン」の歌やらが、お茶の間から閉め出されるのか。それは、誰の命令でなされるのか、といった事供、これ又、我々皆が知っておいていいことではあるまいか。

前回私は、子供の時に読んだ忘れがたい本として、森田思軒訳の「十五少年」をあげた。この本の原本は言わずと知れたジュール・ヴェルヌの「二年間の休暇」だが、私は思軒の翻訳で、どれ程沢山の言葉を覚えたことだろうか。今でも、例えば「暗すぎて近くにあるのに物がはっきりと見えぬ」なぞと言おうとする時、思軒の口調で「咫尺(しせき)を弁ぜず」なぞと使いたくなる。ちなみに咫は8寸、尺は1尺だ。どれほど近いか計算して見て下さい。

その恩ある思軒の伝記が出た。他の人にはいざ知らず、私には珍しく、かつ、ありがたい。いい本です。③3

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珍しく、ありがたい本と言えば④4 」 もそうだ。茨城県の十王町伊師浜には、沼田弘幸さんと言う「鵜(う)」を捕らえる名人、「鵜」から見たら天敵がいて、毎年岐阜の「長良川」など、全国の「鵜飼(うかい)」の観光地十ケ所余りへ、五十羽前後を供給している。

この名人の話もいれて、日本と中国にしか無い「鵜飼」について過不足なく語ったのが、十王町役場で出した本だ。すこぶる面白い。「鵜飼」については、いずれ又語りたい程、話がある。

  1. ロバート・ホワイティング.東京アンダーワールド.角川書店(2000) []
  2. 森達也/著 デーブ・スペクター/監修.放送禁止歌.解放出版社(2000) []
  3. 谷口靖彦・伝記森田思軒 明治の翻訳王.山陽新聞社(2000) []
  4. 十王町一村一文化創造事業推進委員会.「ウミウとの共生−ウ捕りの地・十王町赤見台から−.茨城県十王町役場企画課(2000) []

第169回 ベートーベン誕生の本.翻訳家達の人間像.他

`00.8.31寄稿

つい先日、室蘭工業大学のドイツ語の教授Oから電話がきた。用向きは・・・ベートーヴェンの「第九交響曲」についてで、何でも「新日本フィル」が北海道公演の時、有名なかの「歓喜の歌」のところで、歌詞を変えて歌ったことがあるらしい。つまり、「お〜、喜びよ(=Freude=フロイデ)」とやるべき所を、「お〜、自由よ(=Freiheit=フライハイト)」とやったらしい・・・。が、本当か? 続きを読む 第169回 ベートーベン誕生の本.翻訳家達の人間像.他

第167回 マヤコフスキー変死の謎

`00.7.14寄稿

昔モスクワに行った時のこと、夜の街並みの暗いのに驚いた。ネオンサインの類いが、全くと言っていい程無くて、大した数があるとは言えぬ街灯のぼんやりとした光があるだけだから、最初は一寸異な思いがしたが、慣れるとかえってその暗さが味わいあるものに見えてきて、興がはっきりとせぬ横町なぞには、思いもかけぬ情趣があって、「あーきれいだな」と思ったことだった。きっと19世紀のモスクワは、ケバケバしさのない淡々とした美しさを持つ街だったに違い無い。 続きを読む 第167回 マヤコフスキー変死の謎