司書独言(144)

○月○日 「ふくろう文庫ミニ特別展」を図書館3Fで開催中。出しているのは福岡の大名黒田家が秘蔵していた「唐絵手鑑・筆耕園」。徽宗(きそう)から始まって孫隆(そんりゅう)まで全60枚の中国絵画を蒐め田もので,重要文化財指定と言う一品。中に夏珪(かけい)の「五位鷺」がある。醍醐天皇が神泉苑で遊んだ時に五位を与えた鷺なることが「平家物語」にあって、これが語源。因みに神泉苑は天皇の遊びのための禁園で,空海がここで雨乞いをした事で有名...てな事を取材の記者に話した翌日の朝刊に、「〜秋の夕暮れ。シラサギの大群に出会った。道も田圃も真っ白。壮観さに、”ワーッ、サギ”と叫ぶと、小2の孫娘が、”あれがオレ・オレってデンワすんの?”」なる御殿場の人の投書が出てた。時代だなあ。

○月○日 隣家のTさんが”自分の所には植えぬけれど、要りませんか”と言うので貰って植えておいたミツバアケビに、この間実がなっていた。5,6月に咲く花は濃い暗紫色で、まことに目立たない。次から次と蔓を延ばしてくるから、庭の手入れ専門の我妻さんは容赦なく切る。関知しないしない私の方は、いつの間にか忘れていたが、そんなところへ、秋田の耿子から「ザクロ」の甘煮が届いた。ジワーと甘みが出てくる噛みごたえがいい。いつも「ふくろう文庫」を手伝ってくれる幼馴染みの泰子にもお裾分けすると、「おいしい―ツ」と力を入れた感想が戻ってきた。すると又々そんな所へ、次の投書が出た「”ぼちぼちアケビの時期かなあー?と子供達と山道を散策。突然小5の長男がぼそっと” 叫びドクロやぶっそうやな”。叫び=アケビ 、ドクロ=ザクロ」。姫路の女性からだ。

○月○日 物騒と言えば、とんでもなく物騒な事が起きている。「秘密保護法案」を通そうとて「特定秘密指定基準」とか言うものが議論されないため、これを危険と見た論者達が、異口同音とまでは行かないが取り上げるのが、かつて澤地久枝が「密約」で描いた、沖縄で政府が演じた、つまりは「噓っ八」事件。これ先年、やはり「密約」があったと判明して、当時これを暴いて逆に罪人とされた毎日新聞の西山記者の冤罪が証明された。この時、「密約」を担当して噓をつき続けたアメリカ局長とかの吉野文六の言い草には呆れた。「西山さんは偉大だと思いますよ」と。人を無実の罪に追い込んでおいて、その真の犯人たる身が相手を偉いと褒めたとて褒められた方は喜ぶものだろうか。

○月○日 この「密約」を小説にしたのが先日死去した山崎豊子で「運命の人」がそれ。これ、映画になってないかとビデオ屋に行ったら、テレビ作品で全6巻と分かったが、全部貸し出し中だった。ビデオと言えば「レーン・宮沢事件」なるドキュメンタリー映画がある由。これ戦時中、北大の学生・宮沢弘幸がカラフト旅行の土産話を北大教師のレーン夫妻にした所、軍機保護法違反となって懲役15年とされたもの。先頃本にもなったこの事件、私は先先月登別での「イブリ連合老人会」で講演を頼まれた時、「皆さん、今は呑気に杖ついてウォーキングと洒落てますが、昔は散歩の時は両手に野草を摘んで食糧の足しにせよ、と言われ、また登山しても、あそこが貯水池、あの建物は図書館などとやったら、宮沢と同じ法律で引っ張られたんですよ。今はいい世の中です」と話したが、皆さんどうもピンとこない感じだった。

○月○日 ビデオと言えば、これまた2016年に米大統領選に出馬しそうなヒラリー・クリントンの半生を描くドキュメンタリー映画やドラマの製作が諸々の圧力で中止になった由。さもありなん。ヒラリー役にはダイアン・レインが決まっていたそうな。ヒラリーと言えば、オサマ・ビンラディンを捕殺した時、シチュエーション・ルームなる部屋で、同時映像を観ながら「口に手を当てる」姿が有名だが、「国際法違反すれすれと言える他国領内での軍事作戦が”危機一発の英雄的決断”だったという感情を見たものに共有させようとの狙いで」オバマが公開したのだということを、NHKディレクターの高木徹がかいている。オバマも呆れるね。

○月○日 先月号でベラルーシのルカシェンコ大統領が、公共の場での拍手を禁止する法を制定し、片手のない人まで誤認逮捕したという馬鹿話を書いたが、そのあとこの大統領がノーベル賞のパロディとして有名なイグ・ノーベル賞を受賞したことを知った。

さて、朝晩ストーブを付ける時期になって、もう直ぐ冬だなと思った所で、一茶の「屁較べが、又始まるぞ冬籠り」を思い出した炬燵を囲んだ情景だなと思いつつ、屁を禁止している国を思い出した。アフリカ南東部マラウイなる国。チャポンダ法相の「屁は空気を汚す軽犯罪」なる発想で法制化。高浜虚子は人前で放屁して平然としていたそうだが、一茶も、虚子もこのマラウイ国では無事では済むまいて。私は根が上品だから、屁一発とて、ちゃんと厠に行く。

○月○日 知らずにいたが7月中旬、エスター・ウイリアムズが死んでいた。「水着の女王」の女優、と言うよりも平泳ぎとクロールの全米チャンピオン。ジェット・コースターみたいな水路を立ったまま滑ってくる水着姿は本当によかったなあ。

 

司書独言(143)

○月○日 「武士道」が好きだからとて「ブシドー」と名乗るドイツ人の人気ラップ歌手が、ベルリン市長で同性愛者のウォーウェライトを、歌で「同性愛者を拷問に」と侮辱し、自由民主党のトルコ系テーレン議員に「死んで欲しい」とからかって問題になっている。

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司書独言(142)

○月○日 敗戦記念日の8月だというのに、そちこちできな臭いことおびただしい.共同通信の石山永一郎によると「靖国神社崇敬奉賛会」なる会の会報に、或る女性ジャーナリストの「外国勢力の横暴を許さないために〜領土を守るには戦争を覚悟するのが大前提であり、それが普通である〜」との文章がある由。ジャーナリストとあるから推測するに桜井よし子だろう。あえて言うが、女だてらになんでこんなに戦争したがるのだろう.又この会の会長が扇千景と来た.人間国宝の旦那も平和あっての舞台、すこしは女房の勇み足に注意出来んのかなあ。鶴見俊輔の「戦争中、体をはって我が息子,我が夫を戦いに行かせぬとした女が一人でもいたろうか?」と言った意味の言葉を思い出し、又太田光のことも思い出した。

○月○日 憲法学者・飯島滋明によると、石破が、憲法改正で国防軍が出来た場合、戦場への出動命令を拒否すると、軍法会議で「死刑」もしくは「懲役300年」と発言したと。この石破が太田光の「私が総理大臣になったら」に出て何やら言った時、太田に「政治家は戦場に行かない」と返されて黙り込んだ由。太田式に言うと、扇にも、桜井にも言えることは「女は戦場に行かない」から気楽なもんだ。

○月○日 富士山が世界文化遺産登録とて思うのだが、上記の威勢のいい連中にやってもらいたいことがある.それは本当に国のことを思うなら、霊峰富士山に向かって砲弾ぶち込む軍事演習を止めろと当局に言うこと。だって、世界文化遺産登録された所で軍事演習ナンテことが行われている所がどこに有るの??一番ふさわしくない行為だ。

○月○日 8月14日 今年初めてトンボを見た.数日前、我妻さんが今年はトンボを見ないわねと言ったばかりだったから嬉しかった。トンボを大昔は「あきつ」といい「蜻蛉州」と書いて「あきつしま」と読み、これ、日本の異称だ。神武天皇が国見をして「あきつのとなめせるが如し」と言ったのが由来。となめとはトンボが交尾をして互いの尾を加えて輪になって飛ぶこと、と言った知識は戦前は常識だったが今は通じない(だろう)。それにしても我が家の近くにはまだ田圃もあるから、こうしてトンボも出てくるが、TPPとやらが通って農家が田圃を放棄して、となったらトンボも居場所がなくなるよな。ソレにしても安倍、橋本、石原、猪瀬と、言うこと成すこと、あきつ島の損になるような事ばかりしてくれる指導者が揃って、変な時代だ。

○月○日 見たと言えば、先日中島でカラスがネズミをくわえて門柱に止まっているのを見た。以前東京で下町を歩いている時、コンクリート塀の四隅にカラスがネズミを追い込み、ネズミが後ろ足で踏ん張って塀に背中をもたせて立上がり、細っこい前足で抵抗するのを見て可哀想になり、思わず足元の小石を拾ってカラスにぶつけたが無駄だった事を思い出した。まあネズミは害だから仕方ないとして、以前は向いの家の車庫の軒下にスズメが巣を作り、するとカラスが覗き込んでは卵をつついて落として道路で割れたそれを吸っているのを何度も見た。まあ、鳩さえ襲って喰うカラスだから、これは自然でどうしようもない。

○月○日 今年は多雨のせいかナメクジが多い気がする。30年前に家を建て庭を作った時、矢鱈とナメクジがいるので、帯広畜産大学の友達に訊いたら、丼に残ったビールを入れておくと沢山入るから、との返事だったが、丼一杯のビールとくれば、こちとらが、ナメクジに成りたい位のもんだし、土台、晩酌のビールは間違っても残らない。伊達の造園屋に相談したら、これを撒けとて沢山の石灰をくれて、それで治まった、。このナメクジ、何でも2億年前からいて、おまけに家しょって歩いて(?)いるカタツムリが進化したものだと言うから驚く。まあ、これとても自然の循環の中で生存してんだろうが、生まれ変わるとしたら、余りなりたくない部類だ。

○月○日 今年は港祭りも八幡神社の祭りも雨にたたられた。ところで、栗山町の鳩山神社は9月13日が秋の例大祭だ。明治27年鳩山の曾祖父の和夫が国の払い下げを受けて始めた農場に建てられた神社だ。鳩山首相実現となった時には、その運にあやかりたいとて調子者が増えたと言うが、今時ではどうか。ナンニシテモ富士山が登録と決まれば一挙に登山者が増えと、まあ物見高い連中は日本人と限った訳でもなかろうがね。

○月○日 松山の栗原女史からの手紙にマチュピチュへ行った友達の事が書かれていた。私も1911年にマチュピチュをみつけたエール大学の考古学者ハイラム・ビンガムの本を読んで、行ってみようかと思ったことはあるが、行った人の話しでは高山病の頭痛で難儀したと聞いて、それは嫌だと行く気は失せた。それよりも、ペルー政府がアメリカを訴えた「4万点の遺物を返せ」の裁判が気になるところだが、その後どうなったろうか。なにしろビンガム曰く、「返却する条件でぺるーから持ち出しを許可された」なのだけど、それがそうでない訳だから。

司書独言(141)

2013.7月寄稿

○月○日 投票日だが遠出をしなくちゃならん用事があるので、いつもは7:00のコーヒーを5:00には終え、早々に出る事にして、でもその前に一寸新聞を広げると、「東電管理職に一時金10万円」なる記事があって、課長級以上の約5,000人に支給する、〆て5億円だと。呆れつつ投票して...結果は御存知の通り。原発反対が50%を越すのに、最稼働をすすめる政党が勝つ不思議??。

○月○日 勝ったと思ったとたんに気がゆるんだか、24日の朝刊に自民党の細田が原発を止めてしまうことは”とても堪え難い苦痛を将来の日本国民に与えると逆に思いますね”とBSフジの番組で発言したと出た。原発という制御出来ぬ代物を将来に残してはならぬする側との何たる違い。立場が異なるとは言え将来像のこれ程の違いが出る不思議。池澤夏樹は「原発とは緩慢に爆発する原爆である」と言うが、その原爆を残さないと、将来の国民が苦痛を覚えるとは、何たる論理だろうか。

○月○日 某紙で「イライラするカタカナ語は?」とのアンケートが行われ、上位5位が出た①コンピテンシー②インスタレーション③インキュベーション④コモディティー⑤ダイバーシティ。 私は英文科卒だがこの5つ、いずれも訳せぬ、というより分からぬ、もっとも②は北海道出の芸術家・川俣正が随分昔からやっているし、見た事もあり図録も持っているから、何を指すかは分かるが、やはり訳せぬ。

○月○日 これで思い出すのは、画期的な「新潮日本語漢字辞典」を作った小駒勝美の案。それは、「外来語は漢字で書け」と言うもの。小駒が例にするのは、シュミレーション=模擬体験、アイディンティティ=自己同一性、イノベーション=技術革新。漢字で書けばその言葉の意味がピンと来るというのが小駒の主張。私しゃ賛成だね。国語審議会なんてのも漢字制限ばかりしてないで、外来語の漢字化をせっせとしてもらいたいものだ。さしあたり、室蘭でもこの頃出て来た「コンソーシアム」、誰ぞピンとくる漢字にしてくれんかね。これ読んでピンと来ぬひとは小駒の「漢字は日本語である」(新潮社)を/¥680+税)を読んで下さい。因みに私は自分の文章では横文字は使わぬ努力をしている。

○月○日 「日本近代史」(ちくま新書)の歴史学者・坂野潤治は「格差の縮小が社会に活力をもたらす」と言い、それなのにその格差を拡大させたのが小泉政権だと指摘する。私はこれに小泉を支えたのは竹中平蔵だと加えたい。その竹中を論じた本がでた。日本経済新聞社の記者・佐々木実の「市場と権力」(講談社/¥1,900)竹中が自慢話にする郵政民営化なんてものはブッシュの意向に沿っただけのものと言う話しを初め色々出てくるが、結論は竹中がインチキ極まる男だということ。

○月○日 国民全体が貧困に喘いでいても自分が楽ならイイヤというのが竹中式だが、竹中がそんな男だとは顔を見りゃ分かる。最初からインチキだとそれこそピンと来た。人間を顔で判断してはいけぬとは世間の常識だし、昔は人間の顔を犯罪型とそうでにのに分ける犯罪学者、刑法学者のエセ学問があった事も承知の植えだが、顔で分かる場合もあるんではなかろうか。

○月○日 例えばオームの麻原。あの顔とあの声を聞いただけで私なら拒否反応を起こすね。どこがよくてあんなのに酔うのだろう。例えば国会で「この私が噓をつく顔に見えますか」と大見得切った中曽根。私には噓つく顔に見える。あの顔が噓付きと」言う顔でないとしたらどの顔が嘘つきなのか。「私が会った人の中で一番老獪=悪賢いのは中曽根」と言ったのは沖縄の太田昌秀知事だった筈。まあ中曽根が嘘つきだった事は今や瞭然たるものだけどね。まあ顔見ての直感にプラス学者の労作を読んでの知識があれば人物判断もそう間違わんだろう。

○月○日 大変な映画を観た。「ザ・ウォター・ウォー」=まあ訳せば水戦争か水争議か。2000年のボリビアを舞台とした実話。今や多国籍企業が水道事業に参入しているとは常識だが、それと戦う原住民の物語に、劇中劇として御存知例のコロンブスの収奪劇が重ねられて、という趣向。こういう骨太な作品を観ると、劇画を原作としたドタバタ、ホラー、暴力揃いの日本映画は何をやっているのかと思っちゃうね。「東ベルリンから来た女」も良かったなあ。

○月○日 6月末テキサスダラスに「ブッシュ図書館」が開館した。「ブッシュ氏は自由と民主主義を世界に広げた」なる趣旨のもと、諸々が展示されている由。あのパウエルでさえもが、イラクが大量破壊兵器を持っていると国連で演説した事を、自分の汚点とする、と告白しているのになあ。何考えてんだか。ブッシュは横田めぐみさんの両親に「めぐみの事は忘れない」と言ったが、今や、頭の片隅にもないだろうなあ。

司書独言(140)

2013.6寄稿

○月○日 先頃の大風で市内各所で多くの木が倒れた。見るも無残な切り株があちこちに見える。ところで、室蘭は「花と緑のサークル都市」などと美称を口にしているが、どうも言うだけで,他市に較べて、どう見ても花と緑がつながっているなんて印象はない。いたずらに街路樹を植える枡の数はほこるだけで、倒れたら折れたまんまの感が強い。古いビルが無くなって駐車場になるのが結構あるが、そこには木の一本もない。

○月○日 建築家・安藤忠雄によると、「神戸コロッケ」で有名な岩田弘三は、工場内に従業員の人数分の柿の木を植え、成った実は社員で分けているという。室蘭の企業家の全部が全従業員の数とまではいかなくとも、せめて1本でも2本でも樹を植えてくれたら、いつの日か或いは緑がつながるかも知れん。その根本に花を植えれば花もつながるかも知れん。室蘭は狭くてそんな余裕の土地はないわ、と言うなら、話しにならんけどね。心の持ち様の問題だわ。

○月○日 街路樹と言えば、36・37両国道の松の枯れようが凄い。殆ど真っ茶になっている。全滅するのでは?と毎日心配だ。家庭の松も檜葉も軒並みやられていて、この原因が虫なのか雨なのか、又管轄がどこなのか分からんが、誰かが音頭をとって枯れ枝落としをやらねばならぬ時に来ていると思うがね。「白砂青松」なんて風景は今や望めぬとしても、両国道唐松全部消えたらへんなものだよ。

○月○日 安倍首相が戦車の次に戦闘機に乗って現われ、次は何だと思っていたら、ビートたけしと並んで出た。たけしは「場違いな感じ」と発言してるが、権力にすり寄る癖のたけしには相応しい場所で、場違いではない。昔から芸人が権力に近付いたら、その末路はもう太鼓持ちに決まっている。たけしが自称するやに見えるアウトローなら、最初から安倍とは並ばぬ筈。馬脚を現した訳ではなく地が出た訳だ。

○月○日 「本屋大賞」なるものは知っているが、今まで何の注意も払った事がなく来た.それが「海賊と呼ばれた男」が出て、広告では「出光佐三」が主人公だという。あの出光美術館の出光なら読んでみたいと思っている矢先に、これが本屋大賞と決まった.それはまあどうでもいいが、或る事で買って読む気が全く失せた。

○月○日 というのは、作者の百田尚樹が「タカジン」の番組に出てハシャイデいるのを見たからで。この番組、中国に直ぐにせめて行けと叫ぶメガネの丸坊主や、橋本の後押しする慰安婦はなかったとする元NHK社員や、あの田母神を「面白い人だよ」などとする故禿頭老人やら、乾物のタツノオトシゴみたいな宮家の人やらと、何だか変に威勢のいい連中が揃ってて、ソバ屋だから仕方なしに見ていたものの...まあ、世の中に事を起こしたげな人間が揃っているなと思っているが、そこにこの百田が出て、陰一つない表情でしゃべっている。嫌になったね。

○月○日 「ふくろう文庫」が目出たく5,000冊に達したので、今まで寄付してくれた人全員にその喜びを伝えた。14年間の寄付者の中には既に故人もいるから、その場合は遺族に、又伴侶をなくして子供達の所に引き上げたと言う人にはその移転先へと、記録をたよりに出し終えたが、宛先に居らず出戻って来たハガキも10枚余枚あったから、洩れた人もいたに違いない。申し訳ないが仕方ない。知らせが行かなかった人にはこの場でお詫びする。

○月○日 ところで人様々だが、私の知り合いで、まあ普通の教養人だと思っている人がいるが、この人がいつも言うには、「山下さん,絵見て何になるの」と。見て何もならん人には答える術がないから私は笑っているが、つまりこれは美術に「無縁の人」で仕様がない。只、邪魔をしないでくれと思うのみ。この人と違って、新宮前市長は三谷秘書課長のスケジュール捌きのうまさもあって、「ふくろう文庫」展には必ずお顔を見せて、時間の許す限りいた。市長が見に来ると言うのはありがたい、と言うのは、偉い人が来るからありがたいのではなくて、市長が人類不滅の価値を持つ美術なるものに興味を示す、或いは共感を示すと言う事は、その人個人の文化度の高さに関して、まわりのの人の評価が高まるということの他に、公人たる立場から理の当然に、首長としての文化度、強いてはその地の文化度をはかる目盛りともされる結果になる訳で、私が新宮市長の参観にいつも感謝し胸をなで下ろしたのはそこに理由がある。先日、図書館長が室工大生一人を連れて来たので、ダ・ヴィンチの手帖を見せると、鳥肌が立つと感激してた。「何になるの」に聞かせたいせりふだ。

○月○日 一つ加えると、長老の某市議は市議の中で只一人「ふくろう文庫」展の皆勤賞者だ。この人は、いいふりこきせず、ここは何を描いたのか?とか、これは何か意味があるのかと訊きながら、二時間は見ている。人生に潤いをもたらすために、と「ふくろう文庫」を続けて来た身には、こうした市長とか市議の存在は嬉しいもので、これが全員に及んだら、何か色香みたいなものが、市全体に漂い始めるかも知れぬ。