第136回 川柳と鶴涁

`98.10.30寄稿

我が家の居間にはスライド式の本棚が一基置いてあります。その中身は、植物図鑑、鳥の図鑑、食物に関する本(EX.料理名由来考、たべもの日本史、図説江戸時代食生活事典)、人名辞典(EX.日本歴史人名辞典、日本系譜線覧)、地名辞典(EX.日本地名ルーツ辞典、世界地名語言辞典、北海道の地名)、それに歳時記(EX.味覚歳時記、俳句・野菜と果樹の歳時記、季語になった魚たち)等々です。 続きを読む 第136回 川柳と鶴涁

第135回 外国人が見た江戸の旅行記

`98.10.30寄稿

江戸は元禄3年(1690年)に,エンゲルベルト・ケンペル(1651〜1716)と言うドイツ人が,日本にやって来ました。周知のように,鎖国をした日本では,長崎の出島にとじ込めたオランダ人には貿易を許していたのですが,その貿易を担当していた「オランダ東インド会社」の日本商館付の医師として,彼,ケンペルは来日したのです。 続きを読む 第135回 外国人が見た江戸の旅行記

第134回 貴重な和本と復刻版紹介

`98.9.10寄稿

第132回では「気海観瀾」の話を,第133回では,このニュースに刺戟された市立伊達図書館で見付かった「気海観瀾 広義」の話をしました。今回は先づ,「和本情報」第3弾とでも言うべき記事をのせておきましょう。

貴重な和本 続々発見(1998年8月24日月曜日 室蘭民報朝刊)

市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫から,江戸時代から明治にかけて木版刊行された全国的にも貴重な和本が数々発見されている。日本初の物理学書「気海観瀾(きかいかんらん)」(青地林宗著)に続き,このほど国内初と思われる1695年(元禄8年)刊の「三体詩」(著者不明)3冊や,わが国古来の人物五百余人の像を描いて1868年(明治元年)に出版された「前賢故実(ぜんけんこじつ)」(菊池容斎著)全10巻20冊なども見つかり,まさに「宝の山」の観を強くしている。書庫に眠っていたこれら書物は約1.000点。その来歴などを探ってみた。(高木忍記者)

■ 国内新発見?

このほど新たに確認された「新版改正三体詩」は3巻3冊。「元禄8年」の発刊と記され,著者は不明。「三体詩」の注釈書は1500年代から数種出されているが,「日本古典文学大辞典1

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「前賢故実」は,幕末から明治時代前期にかけての日本画家,菊池容斎(1788-1878年)が,古来の忠臣,義士,烈婦など五百余人の像を描き,1868年に木版出版された。従来の歴史人物画に新生面を開いた労作として知られている。国内で10巻20冊がそろっているのは大学図書館など26 件。室蘭が27件目となり,道内では初めて。

このほか江戸時代後期の儒者,斉藤竹堂(1815-52年)の「竹堂文鈔 」(1879年刊),江戸時代の安全な旅の心得を説いて,昭和47年にも復刻されている八隅景山著「旅行用心集」(1810年刊)など貴重な書が多い。

調査を続けている山下副館長は「注目すべき古書はまだまだ出そうだ。戦後,西洋的なものに流されて希薄となった日本固有の歴史観,文化史をうかがう上で貴重な資料と言える」と興味を示している。

■ 所有者名も

これらの書物はどのような経緯をたどって今に残っているのだろうか。同館の蔵書目録には一切記録されないまま,書庫に眠ってきた。書には朱色の図書館蔵書印がいくつか見られる。1冊に複数押されているケースもある。最も古いと思われるのが「倶楽部図書館蔵」,次いで「室蘭区教育会図書館」「室蘭図書館」など。

倶楽部図書館は,明治43年11月に結成された室蘭倶楽部(服部慶太郎代表)の私設図書館と思われる。同倶楽部は大正2年,旧室蘭駅前に建設された公会堂の社交団体で,政財界人らが集っていた。有志らが蔵書を持ち寄り,できた図書館と思われる。

故・平林正一さん著の「室蘭史話紀行」(室蘭図書館奮闘史)によると「室蘭区教育会図書館」は大正10年5月,当時の在郷軍人分館建物(旧海運町5,現山手町2)内に仮開館。その際,室蘭倶楽部が蔵書,書架などを寄贈し準備が整えられたことが記されている。さらに翌11年8月の市制施行により,同12年4月をもって「室蘭図書館」に名称変更された。

「当時,本は高価だった。これら古書のほとんどは有志の寄贈本だろう。かつての所有者の個人名が書かれた本も少なくない。中には骨とう品的趣味で集めたと思われる人の名も見受けられる」と山下副館長は推測している。

■ 不幸中の幸い

こうした貴重な本が,戦後五十数年もなぜ未整理のままになっていたのか。これら古書は,スチール製の靴箱2基にギッシリと納められ,同館3階の書庫に無造作に置かれてきた。「25,6年前にほかの新しい本と区別されて整理された」(井上館長)というが,図書目録などは作られなかった。

これほど貴重な書物が交じっているとは,歴代の館長,司書をはじめ,館職員の誰もが気付かなかったというのが真相。昨年6月から同館に勤めた山下副館長が目を通し”宝の山”であることが初めて分かった。焼却処分されずに”放置”されてきたのは,不幸中の幸いと言える。

「古書はその分野の本の中でどういう位置を占めているのかが分からなければ価値判断できない。書名をみてピンとくるには,その分野に興味を持ち,頭の中にかなりのデータを蓄積していなければ難しいかも知れない」と山下副館長。

調査の参考書としては,5万4.000項目を収めた今世紀最大の歴史大辞典といわれる「国史大辞典」(全15巻17冊),本の評価や全国的な所蔵状況が分かる「国史総目録」(全9冊)がある。「国史総目録」は,同館では山下副館長就任後に購入したばかりだった。

古書1.000冊の精査・整理については,「各書物の解説を含めて今年度いっぱいかかりそう。その上で目録も作りたい。一般公開の方法も考えたい」(同副館長)としており,通常業務の時間を縫っての調査作業が続けられている。

和本の話はこれ位にして,今年4月,長野県岡谷市に「イルフ童画館」(JR岡谷駅より徒歩5分/開館時間 10:00〜19:00/休日 木曜日 12月31日 1月1日/入場料 ¥800/TEL 0266-24-3319)なる美術館が出来ました。「イルフ」は武井武雄の造語で「古い=フルイ」の反対語で,つまりは「新しい」と言うことです。武井武雄は「童画」なる言葉を作り,自らの作品で,それを世間に定着させた人です。彼は又,挿絵,版画にも興味と才能を示し,結果,「刊本作品」と呼ばれる「豆本」を作り続けた人でもあります。私は幼稚園の時から「キンダーブック」で,彼の作品になじんで来ましたがありがたいことに,大正15年にでた『ラムラム王2

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なる童話が復刻されました。全くのナンセンス童話ですが,まあ,武井の世界がどんなものかを知るには,うってつけの作品です。童心に戻れるか・・・の・・・テストにもなるかも。

もう一点,ありがたい復刻をお知らせします。小学館文庫の「そば通の本3 」です。

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浅草のそば屋「やぶ忠」の村瀬忠太郎の語り下ろしで,昭和5年に出たものの復刻で,かつて「そば,うどん名著選集」にも入っていた「そば」の古典です。「そば,寿司,うなぎ」さえあればと言う和風派の私には,これ又ありがたい本です。

‘98.9.10(木)

  1. 古典文学編集委員会.日本古典文学大辞典.岩波書店; 〔簡約版〕版 (1986) []
  2. 武井武雄.ラムラム王.銀貨社(1997) []
  3. 村瀬忠太郎.そば通の本.小学館(1998) []

第133回 戦後牛蒡が生んだ悲劇

`98.8.20寄稿

「牛蒡」。あなたはこの字を読めますか? この字は,「ゴボウ」です。「図説江戸時代食生活辞典1 」には・・・・

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  1. 江戸風俗研究会.図説江戸時代食生活辞典.雄山閣出版; 新装版版 (1996) []

第132回 古書.気海観瀾の発見

`98.7.30

私は,室蘭工業大学在任中に,図書館に,もはや不要だからと返却されて来た和洋書合わせて3.000册余の中から,1825年に,オランダ東部のジュトフェンで刊行された全3巻の「軍事百科」他の貴重書を発見したことがあります。この「軍事百科」は,我が国で,6セット目の発見でした。10年程,前の話です。

今度は「気海観瀾」の発見です。30年余の司書生活中にこのような機会を2度も味わえるとは・・・ と嬉しい限りです。この物理学書を読んでみたい人は「文明源流叢書」の第二巻所収のものを,どうぞ!! 漢文ダメと言う人は,「日本科学古全集」第6巻所収の,和文に直したものをどうぞ!! 両書とも,ちゃんとした図書館なら持っている筈です。

以下は新聞から。

日本初の物理学書発見(1998年7月17日金曜日 室蘭民報)

【気海観瀾(きかいかんらん)】

日本で最初に出版された物理学書で江戸時代末期の物理学教科書。著者は青地林宗。「国史大辞典」(吉川弘文館)などによると,青地が西洋の理科書を広く読み,別に記述編集した「格物綜凡」の中から,適宜に章を選び,再編集した。内容は体性,引力,気重,気化,精気,雲,雨,力学,諸気体,熱現象論など 40章。著者は自然を「気海」,つまり気が満ちている世界として把握していたと考えられ,当時の日本の自然認識観として注目する論もある。

道内初,全国で30冊 「玉襷」「集古十種」も同時に

江戸時代末期に日本で初めて出版された物理学書として知られる青地林宗(1775-1833年)著の「気海観瀾(きかいかんらん)」がこのほど,市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫から見つかった。全国で3.000冊しか確認されておらず,道内では初めて。このほか,やはり幕末時代に編集された,平田篤胤の思想を説く「玉襷(たまたすき)」9巻,松平定信が編集した古武具類などの木版図集「集古十種(しゅうこじっしゅ)」21巻も同時に見つかった。特に「気海観瀾」については「学術的評価が定まっている貴重な書物」(y山下敏明副館長)とあって,全国的にも注目されそうだ。

古書1千冊 整理を急ぐ

「気海観瀾」は著者の青地が1825年に原稿を仕上げ,27年に木版,刊行された。物性をはじめ光,電気,気象,潮汐など40項目について,多方面にわたる物理的知識が漢文で解説されている。日本で書かれた最初の物理学の刊本。理科の名に値する初めて広く世に紹介されたことにより,その後の研究に大きな影響を与えた。

現在,国内では国立国会図書館,各大学図書館などで30冊が確認されている。東北大学以北では初の発見で,31冊目となる。縦26cm,横 17.5cm,表紙はえび茶色,各ページは和紙1枚を2ページに折った袋とじ,全99ページの和本。とじ糸が切れるなど表紙は多少傷んでいるが,中のページに汚れはなく,しっかりしている。

「近代物理学の基礎を築いた書として,歴史的にも学術的にも評価が定まっている。室蘭市の貴重な文化財となるだろう」と山下副館長も驚いている。

「玉襷」は,江戸末期の国学者・平田篤胤が自選して門人たちに与えた「毎朝神詞」を詳細に解説した書物。1811年に成立し,32年に初出版。69年 (明治2年)に10巻目が追補刊行された。篤胤の思想が平易に説かれ「平田学の縮図」とも評されている。室蘭図書館で見つかった9冊は最初の9冊本セット。

「集古十種」は,江戸時代後期,松平定信が編集した。古書画,古器物,古武具類の実測原寸図や縮尺図など,大型袋とじの木版図集全85冊。広く刊行されたのは1902年(明治35年)から1904年(同37年)にかけて。図を二分の一に縮尺した十冊本と,さらに半紙型袋とじの縮刷21冊本が出されている。室蘭図書館で見つかったのは21冊本セット。

これらの古書は,山下副館長が同館三階の非公開書庫を整理中に,スチール製のロッカー内から見つかった。「玉襷」と「集古十種」んの30冊には,表紙の裏に朱の蔵書印が押されていた。「倶楽部図書館蔵」の印が消され,別に「室蘭区教育会図書館」の印が押されている。

室蘭に区制が敷かれたのは1918年(大正7年)。現図書館の前身の公立図書館時代からの蔵書と思われるが,現図書館の蔵書目録には記載されていないという。同時代の図書は他に1.000冊近くがまだ未整理のまま同館書庫に眠っており,これまで30年以上は手が付けられていないという。同館では整理,分類を急ぐ方針。「見つかった貴重な本については市民に公開する方法も検討したい」(山下副館長)としている。

日本初の物理学書発見(1998年7月18日土曜日 北海道新聞朝刊 前道版)

【室蘭】江戸時代末期に物理学書として日本で初めて出版された「気海観瀾(きかいかんらん)」が17日までに,室蘭市の市立室蘭図書館(井上方大館長)の書庫で発見された。また幕末の国学者,平田篤胤の思想を解説した「玉襷(たまたすき)」9巻,松平定信が編集した古書画などの図集「集古十種(しゅうこじっしゅ)」21冊も見つかった。いずれも道内で初めてという。

江戸末期の「気海観瀾」

「気海観瀾」は蘭学者で物理学の祖とされる青地林宗(1775-1833年)が著し,1827年刊行。縦26cm,横17.5cm,99ページ。物性,電気,気象など40項目を漢文と絵を交えて解説している。また「玉襷」は1832年出版,「平田学の縮図」ともいわれている。「集古十種」は江戸後期 1800年の木版図集を縮小・復刻し,1902年(明治35年)から1904年にかけ刊行された21冊セット。

古代から幕末までの古書物の収蔵先などを収録する「国書総目録」(岩波書店)によると,国立国会図書館など全国で,「気海観瀾」は30冊,「玉襷」9巻そろいは24セット,「集古十種」は45セットしか確認されていない。

いずれも山下敏明副館長が同館三階非公開書庫を整理中に,スチールロッカー内から発見した。表紙裏に「倶楽部図書館蔵」「室蘭区教育図書館」の印があり,室蘭の区制は1918年(大正7年)から4年余で,所蔵の経緯などは不明。

山下副館長は「これだけ質の高い書物がそろうのは難しい。製鉄所の技術者などの集まりで,持ち寄ったものではないか」と推測。同図書館には未整理古書がなお約1.000冊もあるという。

‘98.7.30(木)