`94.10.12寄稿
今、若者の間で、フランス文学者にしてマルキ・ド・サドの紹介者だった故澁澤が人気絶頂の由。その澁澤が選んだ「ポルノグラフィベスト50」なるリストが角川文庫「読書の快楽 」にのっています。
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面白いリストですが、これが実に不親切というかいい加減なものです。例えば、ヴェルレーヌ「オンブル」(出版21世紀)
と出ています。これは当時新本で20万余もした本です。この値段を知らずに、もし読者が注文にしてしまったなら、どういうことになるのか。もっともこの本にあげられた1000冊のリストには、全て刊年も値段もついていませんから、これは、編集者の責任で、澁澤を責めるのは筋違いかも知れません。
因みにこの「オンブル」は、平成2年に池田満寿夫の挿絵入りで出た「詩画集、男と女」に収められましたが、残念なことに今は絶版です。
又、ゴーティエ「女議長への手紙、(学芸書林)とありますが、こんな書名の本はありません。正しくはティオフィル・ゴーチェ.長田俊雄訳「サバチェ夫人への手紙 」(学芸書林)です。これも絶版。
又オスカーワイルド「テレニー」(未訳)とありますが、これも間違いで昭和45年に二見書房から、宮西豊逸訳の「テレニー」が出てます。
更に又、ピエールルイス「三人娘と母」(蒼濡都(さばと)館近刊予定)とありますが、これは果たして出版されたかどうか?
私が持っているのは、津久戸俊の訳で「母子特訓 」という妙なたいとるになっています。これも絶版。 etc. etc
又、澁澤はベスト50のリストのトップに自分の訳になるサドの「悪徳の栄え』をあげていますが、これも一寸、ヌケヌケという感じでいただけません。
と言うのは、1959年に現代思想社から出た「悪徳の栄え 」はそれ自体完訳にあらず、既に妙訳でしたが、不幸なことに官憲によって発売禁止となりました。
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澁澤と現代思想社は当局のこの処置に抗して裁判で争いましたが、結局負けました。
それですから現代思想社版以外の「悪徳の栄え」は、全て抄訳の上、裁判で削除された部分が入っていない少々きつく言うならば一種の欠陥本なのです。それをそれをリストの最初にあげる、こういう点が一読者として私は好きではありません。
サドの「ソドムの百二十日」の澁澤訳もタイトルは完全ですが、序文が訳されているだけで原書の六分の一に過ぎないものです。これも羊頭狗肉(ようとうくにく=羊頭をかかげて狗肉=(犬の肉)を売る、=看板に善いものを示して悪い物を売る)のような感じがします。
昭和30年に出たサドの「恋の駆け引き」以来私はずっと澁澤を読んで来ましたが、今回は、彼に対するいささか苦い気持ちを書いてみました。